radio EDIST アシスタントの梅澤奈央です。
みなさんも見に覚えがあるでしょう、慣れない組織で働く難しさ。
今日お送りする「林頭吉村堅樹の志向力」[転]では、吉村林頭の仕事術ともいえる内容が明かされています。
「私はこの職場で何ができる?」「どうにも動きようがない」「上司から無茶振りされた……」
仕事で行き詰まりを感じている人にヒントになるかもしれません。
働く男のクロニクル、仕事はじめにガツンと効きます。
本日分は、13分50秒〜21分20秒あたりを収録。
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[ISIS for NEXT20]#2 林頭吉村堅樹の志向力 [転]新規事業はドブネズミのごとく
―――誰だって、最初から打席に立てるわけではない。いまや編集学校全体を背負い、講座のディレクションもおこなう吉村も、それまではためらい、戸惑い、マージナルな場所で身悶えすることもあった。吉村は、「林頭」というどこにもないロールをどのように考えてきたのか。
■誰もやっていないことをやる
外堀を埋める地道な奮闘
深谷:吉村さんが発案したプロジェクトって、感門団や輪読座以外にどんなものが挙げられますか?
吉村:僕は結局、本丸に切り込むのを遠慮していたんですね。
深谷:本丸っていうのは、[守][破]などの「講座」ですか。
吉村:そうです。
―――当時は、両学匠が強力に講座を取り仕切り、吉村の入る余地はなかったという。では、自分が出来ることはなにか。それを探す日々だった。
吉村:だからそのころは、みんながやっていないことをやるしかない、と。そうやって輪読座を始めたあとは、次は「千夜千冊キーエディターズ」というのを組織しました。
中山有加里さん(21[守]風船りぼん教室師範代)、山崎健司くん(22[守]鳴鶴三友教室師範代)、岡部吾朗ちゃん(22[守]にっぽん一本教室師範代)を呼んで、千夜千冊の横にキーワードやキーパーソンなどの関連リンクを付けるということをしていました。それって、誰もダメって言う人いませんよね。これは、松岡さんに初めてまあまあ褒められました。
―――松岡校長がとくに注目したのは、メンバー構成だった。イシスの師範や師範代として活躍する以外の場を、吉村が作ったからだ。いつも同じメンバーに頼るのではなく、あえて別の人を交える。このスタッフィング感覚は、いまの遊刊エディストなどのプロジェクトにも活きているという。
―――そうして周縁で暗躍する吉村に、転機に訪れる。
■その日、校長は吉村を呼んだ
吉村:2012年ですかね、松岡さんがジュンク堂の工藤淳社長とお会いされた日です。松丸本舗がなくなるという話をしたあと、赤坂の編工研事務所に僕と櫛田(理)くんが呼ばれました。安藤(昭子)もいたと思います。
僕からすると驚きですよ。きっと松岡さん、普通のやり方じゃダメだと思われたから、変なヤツにやらせようと思ったんじゃないですか。わかりませんが(笑)
深谷:松岡さんから、なにか具体的なオーダーはあったんですか?
吉村:ないです。「思い切ってやれ」って言われるだけで。
深谷:「林頭」になったのはいつから?
吉村:そのころ、毎週松岡さんのまえでプレゼンをする会議があったんですね。僕は事業部長として編集学校のことを見ることにはなっていたんです。そのなかで、松岡さんに「吉村もロール名欲しい?」って聞かれたので、「欲しいっすかね」と答えました。そしたら、松岡さんがいつのまにか書を書いてきて、「はい」(校長の声音で)って渡されただけなんですよ(笑)
深谷:ロール名がつくと、なにか変わりますか?
吉村:やっぱり変わりますねえ。「事業部長」じゃねえ……普通はかっこいいのかもしれないけれど、編集学校的にはかっこ悪いですよね。
深谷:私も、2020年に34[花]ではじめて「花目付」というロールをいただいて、やはり変わった気がするんですよ。アフォーダンスが変わったといいますか。こちらは変わってないんだけれど、周りの距離感や間合いが変わりましたね。
吉村:でしょうね。わかります。
■ココやったら怒られへんな
吉村堅樹のドブネズミ的開拓力
―――ロール名は校長からのお題でもあり、自分の名刺でもある。「林頭」になった吉村は、さらに力を得て進む。
吉村:学林局でも、何のロールもないときは、ドブネズミみたいでしたよ(笑) 誰もさらっていないドブを探してるみたいな。「ココやったら怒られへんな」「このドブは大丈夫やろ」とか。誰も関心がなくて、誰も怒らないところだけをみていくというスコープですよね。
でも、林頭というロールがつくと、編集学校にも貢献しやすくなりました。たとえば、松原さん(松原朋子、29[守]共縁キッチン教室師範代、遊刊エディスト編集部)を誘って、イシスのSNSを始めました。あれがエディストにつながる第一歩でしたかね。
―――2013年「SNS伝奏連」発足に先立ち、2011年には音声マガジン「千夜千冊サテライトメディア『方』」を発行。松岡校長が千夜千冊を読む「一册一声」や、ハイパーコーポレートユニバーシティの対談講義「ガミガミイシス」、バジラ高橋が語る「日本編集文化誌」や、石黒壮明(当時編工研)が書いたモノについてのコラムなど全4本をパッケージにして毎週配信していたという。
https://youtu.be/LySRTAzc5wY?t=18
▲知のオーディオコンテンツ「一册一声」は、2016年復活。現在、編集工学研究所SHOPでも購入可能。
―――オーディオマガジンの配信は吉村が「地獄」と語ったほどのハードワークだったが、2年半で会員数が伸び悩み打ち切りに。それでも、吉村は新たな企画を任されることとなる。
深谷:ISIS FESTAってありましたよね。あれも吉村さんの発案なんでしょうか。
吉村:あれは、2012年に赤坂から豪徳寺に引っ越してきたとき、講座の都合で感門之盟を同時期に2回やらなければならなくなったんです。その頃から、松岡さんのお体のことを考えて、松岡校長をあまり拘束しないようにしなければならなかったんです。
そういう事情を踏まえて、松岡さんに提案したんです。「2日続けて感門之盟をやって、前夜祭・後夜祭をつけて『イシスフェスタ』と呼んだらどうですか」と。そしたら「そんなの全然ダメだ! 1週間くらいぶっ通しでやれ!」と言われて……
深谷:逆に?!
吉村:逆に。言われたらやるしかないなと思って、2週間ぶっ通しでやることにしたんです。著名人を呼んだり、編集学校の人にお願いしたり、ワークショップを入れたりしながら、2週間のプログラムを組み立てたのがISISフェスタの最初でした。
でも、2年くらいやって松岡さんが飽きてきて(笑)「もうISISフェスタじゃないな」と言い始めたんで、そうすか…ってやめました。「『インタースコア茶会』とかにしたらどうだ」と言われましたね。まったく実現できていませんが(苦笑)
▲2016年第54回感門之盟で、ISIS FESTAを語る吉村。第1回ISIS FESTAは、2014年8月30日〜9月13日開催。フライヤーには、安田登、大澤真幸、柴崎友香などの名が連なる。イシス編集学校からは、森山智子(16[守]コスプレ兵法教室師範代)、渡辺恒久(17[守]夕凪アルケミスト教室師範代)などが登壇。
■『インタースコア』「お題改編」を乗り越えて
いよいよ本丸「講座」へ
―――感門団、一册一声、ISIS FESTA。さまざまなプロジェクトを率いた吉村。深谷が知っている吉村は、すでに「林頭」としての顔。ドブネズミと林頭のあいだに、どんなプロフィールが描かれていたのか。
深谷:私は、2015年の秋講座36[守]で師範代に登板させていただいて。
吉村:じゃ、ちょうど『インタースコア』を作っている最中ですね。
深谷:そうなんですよ。だから私にとって吉村さんは「林頭」。しかも、本丸でガンガン斬り込んでらっしゃるイメージなんですが……
吉村:そうなったきっかけは、『インタースコア』が大きかったですね。
―――書籍『インタースコア』の構想は、松岡校長の「編集学校は人を出さなきゃダメだ」という檄によって起爆した。念頭には『キャンティ物語』(1659夜)もあった。イシス遊民たちのざわめきが香り立つような編集を志向したのだ。
吉村は立て続けにプロジェクトメンバーについて語る。編集学校として初めての出版は、吉村をチーフディレクターとして進んだ。エディトリアルディレクターには、広本旅人(元編工研)を、チーフエディターには福田容子(27[守]推感まいまい教室師範代)、米川青馬(21[守]キャンプ云亭教室師範代)、木村久美子(月匠)などを布陣。イシス15周年の2015年末に出版を間に合わせた。
―――『インタースコア』発刊直後、校長から吉村に託された次なるミッションは「お題改編」。[守]のお題については、吉村が中心に、福田と米川が作成。一題は小池純代(宗匠)に、講義編は田母神顯二郎([離]方師)が担当することとなった。[破]のお題改編は、木村久美子(月匠、当時[破]学匠)を中心に進んだ。
―――そして、2017年39[守]卒門直後、冨澤陽一郎(道匠、当時[守]学匠)が病に倒れる。松岡校長と切羽詰まった相談が始まった。
吉村:冨澤さんのことを聞いて、松岡校長がすぐに来られたんです。校長は「代わりといったら誰なの?」と。
「康代さんしかいないと思います」「じゃすぐに康代に電話しろ。会いに行け」
冨澤さんの賛同も得て、康代さん(鈴木康代、21[守]夕方ここに教室師範代、現[守]学匠)に福島まで会いに行きましたね。そうやって、だんだんと体制が変わっていったんです。
[守][破]が変わるのと同時に、松岡さんが花伝所の方針として「寄せて上げて」と言い始めたんですね。胸に手をやりながら。
つまり、花伝所で[守]の復習をしっかりすれば、もっと師範代の力量も底上げされるだろうと。そうすれば、伝習座でも基本的な用法解説だけでなく、ゲストを呼んでのトークもできるだろうと考えたんだと思います。松岡さんのそういう発想とともに、講座のありかたが変わっていった感じでしたね。
―――イシスは15歳の思春期を超えて、だんだんとしなやかに成熟してきた。様子をうかがったり、つついたりしながら、そのプロセスを痛いほど目の当たりにしてきた吉村。本丸へと辿りついた吉村のこのあとの作戦は何か。ハタチのイシスの不足へと話は広がった。
>>>[結]へつづく
[ISIS for NEXT20]#2 林頭吉村堅樹の志向力
[序] (2020/1/2公開)
[起]「僧侶で神父」の真相は (2020/1/3公開)
[承]風吹けば吉村はためくイシス空 (2020/1/4公開)
[転]新規事業はドブネズミのごとく (2020/1/5公開)
[結]全編集は志に向かえ (2020/1/6公開)
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。
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