ちゃぶねさん(40代会社員)のご相談:
『男女の愛』というものについて、冷めてしまっていて、恋愛ドラマや恋愛映画が観られなくなりました。「こんなに好きでも、結局別れたりするんだよなぁ…」とか「最初にテンション上がり過ぎて、後が続かないのでは…」「それって執着じゃないかな」等々、ツッコミを入れて観てしまいます。まぁ、可愛くない。周りでは韓国の恋愛ドラマにはまっている人も沢山いて、その内容を楽しそうに語る姿をみて、羨ましくも思います。『男女の愛』も素晴らしいものだと思ってはいるので、このこじらせた価値観をどうしたら、以前のように素直にあらゆるコンテンツを楽しめるようになるのでしょうか。是非、救いを!
◎
こんにちは。井ノ上シーザーです。
「愛に冷めた」とは何ごとかと思いきや、ドラマに飽きたのですね。耳年増なたわ言に「じゃあ、リアルにはどうなんだよ」と嚙みつきたくなります。“生々しさ”が足りない相談を、サッショーはどんな焼き加減で料理をしてくれるのでしょうか。
サッショー・ミヤコがお応えします
松丸本舗が健在だった頃、ときたま手をつないで迷い込んでくる大学生カップルに向かって、
男女間の恋愛って、いつ頃始まったか知ってますか?日本はちょっと例外ですけど、西洋の恋愛って12-3世紀の宮廷恋愛が始まりなんですよね恋愛が始まる前の男女の間って、何があったんでしょうね
と矢継ぎ早に問いかけたのは、他ならぬワタクシだったこと、告白しておきます(あっ、答えはもちろん「生殖」なんですけどね)。
光文社新書の『恋愛制度、束縛の2500年史』鈴木隆美によると、ヨーロッパの恋愛は、欧米文化の基層であるヘレニズム文化とユダヤ・キリスト教の世界観が複雑に入り混じって展開するなかで練り上げられていったコンセプトであり、制度。そして、ヨーロッパから日本に恋愛がやってきたとき、他の輸入思想(FreeやSocial)同様、なんだかよくわからないけれど、カッコいい”Love”が「恋愛」に置き換わっていくなかで、「恋愛の日本化」が起こったのだそうな。
ちゃぶねさんの恋愛観が進化したことも、決して悪くはありません。人より上質の「男女の愛」が楽しめれば、そのほうがずっといいではありませんか。
千悩千冊0025夜
グレアム・グリーン、上岡伸雄訳
『情事の終り』(新潮社)
恋愛を描いた名作なら『嵐が丘』、色恋沙汰というなら『心中天網島』。でも「男女の愛」への信頼を回復したいというなら1951年に書かれた本書をお勧めします。
舞台は第二次大戦ただなかから直後にかけてのロンドン。語り手である作家ベンドリクスは、何年にもわたって政府高官の妻サラと不倫関係を続けてきた。その関係は、あるロンドン空襲の夜に突然終わりを告げる。2年後、思いがけず彼女と再会した作家はサラの陰に「第三の存在」を感じ、探偵を雇って調査を命じる。
こうした展開の前半で語られるのは、嫉妬と疑惑という地上の理性まみれのゴタゴタ。それらは全部、自分の生んだ桎梏なわけです。もつれにもつれた感情がたった一言でほどけ、信仰と恋愛の相争う天上の葛藤に置きかわる瞬間のスリルがたまりません。
サッショーが初読したのは恋愛適齢期(と自分で思っていた)20代前半でしたが、終止符を打って久しい今読み返しても、なお涙そそられます。ちゃぶねさんにも届きますように。
◉井ノ上シーザー DUST EYE
もつれた恋愛感情が一言でほどける。ストーリーテリングによるカタルシスがありそうですね。他方、サッショーに「生殖」を突きつけられた大学生カップルはさぞかし怖かったことでしょう。
わたしからは男女の襞を幾重にも重ねる喜多川歌麿の春画を紹介します。『歌まくら 10図』をネットで検索してみてください。「遊女と接吻をする男の醒めた目」と、扇子に書かれた、
「蛤(はまぐり)に はしをしかっと はさまれて 鴫(しぎ)たちかぬる 秋の夕暮れ」
という狂歌を目の当たりにすると、さすがのあなたも「ぎょっ」とするのでは。
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井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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