2021年12月19日、多読ジムSPコース「大澤真幸を読む」読了式で、大澤真幸さんと松岡正剛校長が対談した。前半の内容をお届けする。
「共読」という新しい読書の仕方
松岡:多読ジムSPコース「大澤真幸を読む」、どうでしたか?
大澤:こんなに嬉しいことはありません。受講者の皆さんが『〈世界史〉の哲学』を集団的に楽しくかつ深く読み、文章を書いてくれたんですから。作者冥利に尽きます。編集学校は、黙読でも朗読でもない新しい読書の仕方を作っているのだとわかりました。
松岡:編集学校では、こういう本の読み方を「共読」と呼んでいます。今回は、指導陣も含めれば50名ほどが共読と読創文に取り組んだわけですね。
大澤:この方法、いろんなところに伝えたらどうですか? ただ、僕も大学に共読を伝えたいですが、一人じゃ無理ですね。共読の仕組みづくりは、一朝一夕じゃできないことだと思います。
松岡:そうですね。今回で言えば、浅羽・吉野・加藤の3人の冊師や大音冊匠、小倉析匠、金代将、吉村林頭、米川多読師範たち指導陣の努力がありましたから、一人では難しいでしょう。でもかつては、明六社や鎌倉アカデミアや鶴見俊輔のグループなどが共読していました。だから不可能なことじゃありません。ただ、今回の多読ジムSPコースがうまくいったのは、やはり『〈世界史〉の哲学』に向かったことが大きいと思います。今日の思想の欠如を補う大著ですから。
大澤:世界をどう見るかを提示しないといけない時期に来ているのに、そういう試みがなされていない。マズイなと思って書き始めた連載です。(注:『〈世界史〉の哲学』は2009年から『群像』に連載されている。)
松岡:そもそも世界史を取り上げている点がすばらしい。大澤真幸賞を受賞した梅澤光由くんは中世のカトリックや煉獄に触れて、魔術やグノーシスにまで手を伸ばそうとしていたけれど、そういうことをしたくなるのは、大澤さん自身が世界の歴史の深いところを覗いているからです。大澤さんのように、こうやって西洋と東洋とイスラームの歴史をつなげて語れる人がほかにいないんですね。
大澤:西洋に魅了されているだけでは駄目だけれど、日本や東洋の価値観だけで勝負するのも違う。そう思いながら『〈世界史〉の哲学』を書いています。力及ばないことをやっている感覚がありますが、先を行く松岡さんを見るといつも勇気が出るんですよ。日本だけでなく世界も行き詰まっている。そのことに不満があり、遅ればせながら松岡さんについていっています。
西洋と東洋をつなぐ「イチローモデル」
松岡:ところで、編集学校の共読は、鍵と鍵穴の組み合わせの可能性を問うものです。たとえば、フェミニズムとサド、フェミニズムとパンクのような組み合わせを世の中は避けてきましたが、こうした組み合わせでも読める、と考えるわけです。実際に読めますし、そこに隠れた私、別様の私が見つかることもあります。綾瀬はるかとハイデガーを組み合わせることだってできますよ。ただ問題は、綾瀬はるかをわかる人はハイデガーを読まない、ということなんだよね。
その点、イチローには感心します。引退後は国民栄誉賞を辞退して、自分の草野球チーム(KOBE CHIBEN)を作り、智辯学園和歌山の教職員チームと試合をしたりしているんですから。一方で、マリナーズには会長付特別補佐兼インストラクターとして貢献しているでしょう。いろんなものをすっ飛ばして、自分なりに西洋と東洋をつなげている。目指すモデルという感じがします。
大澤:イチローは日本でもアメリカでも、最初から自分のやっていることを全肯定してきましたよね。
米川青馬
編集的先達:フランツ・カフカ。ふだんはライター。号は云亭(うんてい)。趣味は観劇。最近は劇場だけでなく 区民農園にも通う。好物は納豆とスイーツ。道産子なので雪の日に傘はささない。
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