「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
「いつもどおり」の生活
今年度から小学校、中学校からの連絡が紙ではなくアプリに変わった。三学期に入ってからは通知がひっきりなしに入るようになった。
「○年○組で陽性確認」「臨時休業」「ひきつづき調査」。どのクラスもいつ休みになるかわからない。
今、小学校二年生の長女は入学してすぐに新型コロナウイルスのため2カ月休校となった世代である。それ以来の「波」がきている。
連絡網アプリを通じて
一日に複数のメッセージが届く
体調を崩していなくても、さまざまな理由で念のために休むという子どもたちも増えて、ある日は27人中12人が欠席だった。給食当番が足りない。その日は登校している子全員が臨時に当番になった。「いつもはおかわり一回なんだけど、今日は何回でもいいってことになった!」。帰宅して第一声がそれだった。
学年最後の参観はオンライン配信に変更になる。
それでも長女の生活は、気の合う友達と遊べてさえすれば、気持ちの上では「いつもどおり」のようだった。
急に問い始める
1月の下旬、長女が急に深刻な顔で「あのね、聞きたいことがあるんだけど、オミクロンって何? コロナとどう違うの」と尋ねてきた。
今までオミクロンと口に出して言ったことなかったのにどうしたのだろう。
「新型コロナウイルスの変異型の一つがオミクロン株っていうねん」
中学生の長男が先に答える。
「ウイルスって何なん?」
「難しい質問やな。目に見えないほど小さい生き物というか、生物と無生物の間。まあ、増殖していく点、生物に近いような気がするけど」
長女からさらに質問が飛んでくる。
「なんで人間を病気にするの? なくせないの? なんのために居るの?」
8歳、なんでもコトには理由があり、モノには目的があるというように捉える時期なのかもしれない。
長男はうーんという表情を見せた。
ちょっと考えて問いを引きとって、ウイルスに限らず、すべての生物は理由なく居る、存在するんじゃないかなと答える。ウイルスには人間を病気にしようっていう意図はたぶんないと思う。人間の登場よりもずっと前からあるものだし、簡単に無くせるようなものじゃない。わからないけど、いろいろ読んだりして、かあさんはそう考えてると付け加える。
教える兄
「オミクロンって治せないの?」
「ほとんどの場合は治るみたいだよ」と、また長男が答え始める。
「じゃあ、なんで注射しないといけないの?」
どうも学校で子どもに対するワクチン接種が始まるという話を聞いてきたらしい。
「前もって注射しておくと、かかりにくくなったり、かかったとしても重症化が防げるって言われてる」
「前は大人だけだったのに、どうして、子どもも注射しないといけないってことになったの」
長女がぬいぐるみを手に取り、ぎゅっと抱きしめた。
ようやく質問の核心にたどりついたようだ。
「それは、たまたま。実はオミクロン株の前に、デルタ株っていうのもあったんやで。ウイルスっていうのはどんどん変異して、ちょっとずつ性質を変えていくねん」
「デルタ?」
長女はデルタ株の時には注意のカーソルがあまり向いていなかったらしい。
「注射って痛いよね?」
「一瞬、ちくってする」。経験した長男が話す。
「絶対に全員が打たなきゃいけないの? 打たないと捕まるの?」
「絶対ということはないし、捕まることはないよ」
長女と長男のやりとりを聞きながら、自分も幼いころ注射が苦手だったことということがよみがえってきた。
言葉のラベル
かあさんも注射が本当に嫌だった。3歳ぐらいの時は集団接種会場で逃げ回って会場を大混乱させたことがあると思い出話をする。
「そんなに嫌いだったの?」
長女は意外な顔つきで聞く。
重症になって病院にお泊りするのも大変だから、前もってワクチン打っておきたいという人も世の中には多いこと、注射の痛さの感じ方は人それぞれで、“これぐらいだったら我慢できる”という人もけっこういることを続けて説明する。
「え! 痛くない人もいるの? でも、やっぱり、いやだ……」
ぬいぐるみを手に、長女が言い募る。
「わたし、ぬいぐるみに生まれたかった。ぬいぐるみなら、針を刺しても痛みを感じないもん」。
超特急すぎる「結論」である。
「すみっコぐらし」の「とかげのおかあさん」と
「とかげ」のぬいぐるみ
ここから話の焦点は注射に移っていった。
どうして注射は痛いのだろう。注射によって痛さはちがうのだろうか。
感じ方は人それぞれだから「痛くないよ」とは言わないよ。痛いなら痛いっていったらいい。痛くない注射針を必要としている人が他にもいるかもしれない。たくさんの人が使えば安く作れるようになるかもしれない。大人になっても忘れずにいたら、他のやり方や仕組みを発明するきっかけになるかもしれない。
かあさんの長い話をしばらく聞いた長女は、「わかった。でも、3月はやめとく。4月になったらできるような気がする」。
これでこの話はおしまいといい、別の遊びを始めた。
状況に埋め込まれた学習
長男はホームエデュケーションで育っている。したがって学級閉鎖になっていても表面的には変化はない。
新型コロナについてのニュースは、2020年の最初から家族の中で一番追いかけている。近畿地方での感染者数を報じる夕方のニュース画面を毎日、スマホのカメラで記録している。新聞やブログを読む。読んだことを帰宅した夫に話す。最初の頃、ジョンズホプキンス大学のサイトにもアクセスしていたのには驚いた。
週1回通っている理科塾を休む基準を自分で決めた。それは、毎日情報を集め、考えるという蓄積があったからだったと思う。
外出するか、外出を控えるか。それらの判断基準をどこに置くか。接種券についている説明書を読んでワクチンを打つかどうか考える。これらは学校を離れていた長男にとって、社会というコミュニティへの大きな「正統的周辺参加」になった。
情報の【収集】【結合】【推理】をすることで、情緒が安定するということを長男自身が知った。「ある程度ウイルスの性質が判明するまでは本当に不安だった」と1年ぐらい経って、ぽつりと口にしたことがあった。
節分の夜、長女が「もしかしてコロナの前は、みんな学校でマスクしてなかったの?」と聞いてきた。「私、マスクなしの学校って想像できない」。
大人にとっても子どもにとっても、「状況に埋め込まれた学習」が予想をはるかにこえて進みつつある。
追記:2月4日以降は学級閉鎖になる基準が緩和されることになったと市の教育委員会から学校を通して通知があった。「陽性確認あり、臨時休業なし」というメールが届くようになる。ロールとルールとツールが常に動き続けている。
<編集かあさん家の本棚>
『状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加』
ジーン レイヴ、エティエンヌ ウェンガー(著)、佐伯 胖 (翻訳)、福島 真人 (解説)
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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