43[破]別院・北原ひでお師範が送った魔法の織物

2019/12/01(日)08:54
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 小さな布を握りしめた娘を従え、大きくて無愛想な男がゆったりと歩いていく。人波に浮かぶ巨大な船のよう。男は振り向き、「ゆりかサン、この店です」と立ち止まった。
 ここは…、43[破]別院の中に置かれた市、余味(よみ)の市。そして二人がたどり着いたのは織物の店だ。


 [破]の別院には、毎期、「ワールドモデル」が設定される。商店街、百貨店、博物館、庭、レストラン。場所だけではない。電車、バス、タイムマシンといった乗り物から、探偵、風、絵本というように、一見、「それもワールドモデル?」と思うようなものまで。その期の指導陣がネット上で集まり、企画を練る。重要なのはネーミングだ。[破]で学ぶ4つの編集術になぞらえたり、突破にかけてみたり。34[破]「破れ!三四郎」のように、期の数値に絡めたり。

 

 43[破]では、多くの情報が行き交うことを期待して、ワールドモデルは「市場」となった。余味(よみ)は「読み」でもあり、「余」には余白、余地、余韻など、「余」の連想が広がるようにとの願いが込められた。

 

 [破]の別院で欠かせないのが、師範が行う各編集術に関するレクチャーだ。教室では師範代が指南を通して編集術の方法を手渡すが、別院では師範が別の角度から、お題の意図を解き明かす。


 [破]の最初の稽古、文体編集術のレクチャーは北原ひでお師範が「織物」に託して展開した。「織る」にあたるラテン語は「texere」。テキストもテキスタイルも語源は同じ。そしてどこにあるかはわからないが、どことなくオリエンタルなイメージが漂う余味の市にありそうな織物の店。

 

 文体編集術と、別院のワールドモデルの結節点として、これほどふさわしいテーマがあるだろうか。
 東の国からようやく余味の市にたどりついた娘、ゆりかを、無愛想な男シンさんがガイドする。学衆もまたシンさんのガイドに従い、文体編集術を構成する7つのお題の一つ一つを辿っていく。
 千夜千冊0717夜アニー・ディラード『本を書く』、1035夜パウル・クレー『造形思考』、志村ふくみ『色を奏でる』、松岡正剛『多読術』。様々な本から的確な引用をし、北原師範がガイドを織り上げる。editcafeの画面に布が広がり、点在するポイントが目に飛び込んでくる。お稽古をワガコトに引き寄せるためのヒントが埋め込まれ、多角的、重層的にお題を見ることができるようになるのだ。

 

 こうして≪アリスとテレス賞≫「セイゴオ知文術」のエントリーを後押しするように、全5回のレクチャーが終わった。
 ゆりかも東の国に帰った。ゆりかの国の「SASHIKO」という布、ゆりかが縫った布がシンさんに届いた。今度は、余味の市に店をだすらしい。

 

[北原師範・文体編集術レクチャー]
 文体編集術◎朝靄の中で
 文体編集術◎織り上げること
 文体編集術◎糸を紡ぐ
 文体編集術◎織ること、その先に。
 文体編集術◎弱さを織り尽くすこと
 文体編集術◎「あれから」と「これから」

 

  • 相部礼子

    編集的先達:塩野七生。物語師範、錬成師範、共読ナビゲーターとロールを連ね、趣味は仲間と連句のスーパーエディター。いつか十二単を着せたい風情の師範。日常は朝のベッドメイキングと本棚整理。野望は杉村楚人冠の伝記出版。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。