自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
「総力を結集する」と銘打った本楼声文会が2019年12月1日に行われた。
世界読書奥義伝[離]を退院した者は「千離衆」と呼ばれ、声文会は、千離衆のための「文巻([離]のテキスト)を読む」集いである。松岡正剛校長著書の『千夜千冊エディション』出版後は、それも読み解いている。
東京で行われる声文会は本楼声文会と呼ばれ、今回は『千夜千冊エディション』から『神と理性』と『観念と革命』(共に松岡正剛、角川ソフィア文庫)を用いた西洋世界観の一気通貫読み。西洋哲学や西洋史のウズ・ヒダ・ネジレに分け入る特別企画だ。
会場は豪徳寺イシス館の学林堂で、10人程度の打合せに適した部屋に30人近くが集合した。人口密度以上に部屋の熱気を加速させているのは、レクチャー担当者たちだ。彼らは出番までの高まりを抑えきれずにいた。
「ビーダマイヤー時代は僕も知らなかったんですけど」。会も半ばを迎え、『観念と革命』第2章「神は死んだのか」担当の桂大介(11[離])のパートがはじまる。
ビーダマイヤー時代とは、1815年から1848年のウィーン体制下のドイツ社会である。宗教観念は日常にすぐに役立つ実用ばかりが求められ、匿名の力を借りたメディアとコピー文化が花開く。思索の価値よりも展示の価値、シンキングよりショーイング…。桂のレクチャーによりドイツ社会が開き、参加者それぞれの読みと交じり合う。「これって現代のことじゃないか」と、参加者たちが現代との類似を感じていた時、松岡校長が声文会に顔を見せた。
松岡校長の登場に緊張の面持ちを隠せない者もいたが、桂は身構える素振りも見せず、続ける。配られたレジュメに目を走らせ、用意された席に座った松岡校長はゆっくり煙草の煙をくゆらせる。「ビーダマイヤーはちょっと面白くてね」。桂の内容を受け、松岡校長のミニレクチャーが入る。現代とのカサネを見せながら、桂のレクチャーに厚みを持たせ後押しし、最後に穏やかでありながら鋭い視線を千離衆に向ける。「ビーダマイヤー時代の編集モデルを見て、君たちは現代社会をどう編集する?」と、無言のメッセージを投げかけた。
退院後も千離衆は「一生の離」を考え続ける。自らお題をつくりだし、社会と世界と向き合っていくのだ。
社会と生命に準じて世界と自分の見方を学んだ「千離衆の編集力」が試されている。
衣笠純子
編集的先達:モーリス・ラヴェル。劇団四季元団員で何を歌ってもミュージカルになる特技の持ち主。折れない編集メンタルと無尽蔵の編集体力、編集工学への使命感の三位一体を備える。オリエンタルな魅力で、なぜかイタリア人に愛される、らしい。
「典を祭り、問答をひらく夕べ」酒上夕書斎×別典祭スペシャル ―『日本・江戸・昭和』三問答を語り尽くす―
十一月の夕刻、「典(ふみ)」をめぐる風が、編集工学研究所・本楼にひらりと立ちのぼります。 イシス編集学校の新しいお祭――「別典祭」。 多読アレゴリア一周年、そして松岡正剛校長の一周忌に心を寄せ、「典」すなわち“本”そのも […]
田中優子を揺さぶった一冊――石牟礼道子『苦海浄土』を読む夕べ|酒上夕書斎 第五夕[10/28(火)16:30〜 YouTube LIVE]
2か月ぶりに帰ってくる「酒上夕書斎」。 海外出張を経て、田中優子学長の語りの熱も、さらに深まっている。 第五夕で取り上げるのは、石牟礼道子の名作『苦海浄土』。 工場廃水の水銀が引き起こした水俣病――文明の病 […]
玄月音夜會 第五夜|井上鑑 ― 本楼初のグランドピアノ。言葉の余白に音が降る
本楼にグランドピアノが入る――史上初の“事件”が起こる。 井上鑑が松岡正剛に捧ぐ、音と言葉のレクイエム。 「玄月音夜會」第五夜は、“言葉の船”が静かに音へと漕ぎ出す夜になる。 すでにお伝えしていた「玄月音夜會」に、ひとつ […]
夜の深まりに、ひそやかに浮かぶ月。 その光は、松岡正剛が歩んだ「数寄三昧」の余韻を照らし出します。 音とことばに編まれた記憶を、今宵ふたたび呼び覚ますために―― 玄月音夜會、第五夜をひらきます。 夏から秋へ […]
ひとつの音が、夜の深みに沈んでいく。 その余韻を追いかけるように、もうひとつの声が寄り添う。 松岡正剛が愛した「数寄三昧」を偲び、縁ある音楽家を招いてひらく「玄月音夜會」。 第四夜の客人は、邦楽家・西松布咏さんです。 […]
コメント
1~3件/3件
2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
2025-11-13
夜行列車に乗り込んだ一人のハードボイルド風の男。この男は、今しがた買い込んだ400円の幕の内弁当をどのような順序で食べるべきかで悩んでいる。失敗は許されない!これは持てる知力の全てをかけた総力戦なのだ!!
泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)
2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。