2001年9月、赤坂の編集工学研究所をはじめて訪ねた。20年以上前のことだが鮮明に覚えている。5期[守]の師範代試験の日だった。木村学匠(現・月匠)が、「松岡さんは、“編集学校は慈愛でいく”と言っているから、緊張せずにどうぞ」と言って、面談がはじまった。圧巻の本棚空間にエキゾチックな照明、香が焚かれ、淹れたてのコーヒーとお菓子がサーブされた。まるで校長松岡正剛との午後のお茶会だった。
終始緊張した。松岡校長が6人の候補者ひとりずつに話しかけていく。質問を促し、それに応じて校長がたっぷりと語る。難題だった。「無人島に1つだけ持っていくとしたら?」と聞くと「コレ」とすかさずタバコの箱を指さす。「指南でどう編集を伝えたらいいか?」には、「一番伝えたいことは伏せるんです」と言って、大きな湯呑みを卓の下に隠し、「どんな湯呑みだった?」と聞いてからゆっくり持ち上げて見せた。いくつか応答ののち、私は「松岡さんの編集ってどんな感じですか」と漠たる質問をした。一瞬の沈黙のあと、「たとえば世阿弥を語るなら、ぼくは世阿弥をこの場に連れてくる」「とっておきの方法は、一番大事なものをそばに寄せて書くこと」と言われた。そのときは「そうか、校長は世阿弥なのか」とだけ思った。数年後、自分が世阿弥にまつわるロールを引き受けることになるとは思いもしなかった。
2005年、師範代を養成するISIS花伝所が開講した。私は佐々木所長(現・学林局長)の背中を追いかけながら講座マネジメントを補佐することになった。校長は師範代の方法を「型」で身につけることができるよう「花伝式目(5M)」をプログラムした。そして「陸軍士官学校」をモデルに、演習中は「締切厳守」「私語厳禁」と定めた。いつも仲良しこよしの学衆たちに眼を細めながらも、師範代には孤独に耐え粛々と取り組む力が必要と考えたのだと思う。初顔合わせの入伝式で、借り物のような発言をしていると「やりなおーし」と一喝、批判したり勿体つけた態度だと「帰れ!」と罵倒した。入伝生、師範、学林局の区別なくそうした。佐々木局長と「あたしたち優しい母さんモデルしかないのかな」と語りあったものだ。そのうち校長は「今期はどのモードで行く?」と問うようになり、突然「あとは自分たちでイメージメントしなさい」とディレクションした。誰もが背筋を伸ばし緊張の面持ちで臨んだかつての花伝所を懐かしむ人も多い。
ISIS花伝所の魅力を編集学校ごと世の中に伝えたいと思ってきた。校長は「エディトリアリティ(編集的現実感)を語れるようにしなさい」と告げ、「アノマリー(異質性)を消さないで、フェチをマスターさせなさい」と言った。何度となく「わかりやすさに抵抗しなさい」と教えられた。
38花(2022年)の入伝式では、松岡校長が50代の頃、自分の存在をインターフェース状にすることを試みていたと語った。
ぼくは田中泯と松岡正剛、ヨージと松岡正剛の区別がつかない方がいい
とおもっているわけ。お互いにね。
みんなも早くそうした方がいいです。
“その状態” をみんなでやろうと切りかえたのがイシス編集学校。
“その状態”ごと語るのがおすすめです。
理系文系を分けず編集した『オブジェマガジン遊』。松岡さんはプロもアマもわけない編集チームで臨み、編集者を必ず誌面で紹介した。その思想は編集学校にこそ全面的に受け継がれている。
2024年5月11日、41花の入伝式直前に「当日の体調次第だけど、出るつもりでいるからね」と言った。急遽、林朝恵、平野しのぶ両花目付が60分の校長インタビューを準備した。校長は「近江アルス」(4月29日/草月ホール)のイベントをどう編集したかから語りはじめた。
編集は「人」なんです。
まず自分のなかのものを否定しなくてはダメ。
何かが生まれるということはその分、自分が引かれるということ。
引かないと編集力は出ない。
もしかしたら花伝所での校長最後の登壇になるかもしれないと思いながらメモをとった。「引き算」とは編集にさしかかるための儀式、ここからが編集なのだ。
イシス編集学校 学林局
ISIS花伝所 所長 田中晶子
写真:後藤由加里
田中晶子
徹夜明けのスタッフに味噌汁を、停滞した会議に和菓子を。そこにはいつも微笑むイシス一やさしい花伝所長の姿があった。太極拳に義太夫と編集道と稽古道の精進に余念がない。
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