自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
53[破]は開講から1か月。別院では東海道五十三次になぞらえて稽古の旅路を描いている。本日11月10日は、第1回アリスとテレス賞「セイゴオ知文術」のエントリー〆切日だった。東海道なら箱根の関所を通るようなものか。千夜千冊にならい一冊の本との交際を書いて競いあう、[破]の最初の関門だ。たった800字の創文だが、何日もかけて、何回も推敲し、〆切時間をめがけてエントリーする。まるで作家のタマゴになったような、師範代が自分づきの編集者になったような、エキサイティングな稽古なのだ。
10教室・学衆72名中、エントリーしたのは59名。幕をあけます教室、世界にダブルページ教室は全員エントリーを果たした。おめでとう!! 選評委員([破]の師範、番匠、評匠、学匠)は、それぞれ全エントリー創文を読んで選評会議に臨む。結果発表は11月末。エントリー作品すべてに講評がおくられる。
今期は課題本が一新された。ISIS co-missionメンバーが選んだ本、[破]ボードが選んだ本と松岡校長の著作、あわせて12冊のなかから学衆は1冊を選び、読み、創文した。
発表当初は、難解そうな本が多いという声もあったが、数冊重ねて読んでみると地下水脈でつながっているような気がしてくる。編集学校で自分を破る、今の世の中の閉塞感を破る、いままでの読書傾向を破る、そんな体験ができる本ばかりだ。学衆はどの本を選んだのか? まとめてみた。
<セイゴオ知文術・課題本一覧>
左は、選んでくださったISIS co-missionメンバーのお名前。
右端に取り組んだ学衆の人数。
津田一郎さん:『精神指導の規則』ルネ・デカルト 3名
宇川直宏さん:『音楽が未来を連れてくる』榎本幹朗 5名
鈴木健さん :『知恵の樹』H・マトゥラーナ、F・バレーラ 6名
今福龍太さん:『続審問』J.L.ボルヘス 1名
田中優子学長:『苦海浄土』石牟礼道子 8名
井上麻矢さん:『表裏源内蛙合戦』井上ひさし 0名
武邑光裕さん:『仕事としての学問 仕事としての政治』マックス・ウェーバー 1名
大澤真幸さん:『自我の起原』真木悠介 7名
鈴木康代さん:『エストニア紀行』梨木香歩 13名
松岡校長本 :『ルナティックス』 3名
破ボード選定:『ビリジアン』柴崎友香 5名
破ボード選定:『すべての、白いものたちの』ハン・ガン 7名
『エストニア紀行』が人気イチバンであるが、難しそうな本、分厚い本にも臆せず取り組んだ学衆が思ったよりも多かった。井上ひさしさんの『表裏源内蛙合戦』にチャレンジする人がいなかったのは、本の入手が困難だったからだろう。この作品、松岡校長と田中優子学長の著作『昭和問答』でも「昭和を知るための本」として取り上げられている。歴史をコンパイルしたうえで、その狭間に物語を創出する井上さんの方法、言葉遊びの「尽くし」など、クロニクル編集術にも物語編集術にもヒントになること請け合いだ。ぜひ今からでも読んでみてほしい。
ISIS co-missionメンバーと[破]ボードがつくったブックリストは、あちらの本とこちらの本が手を結び、だんだんに編集的世界観に近づくことができる。何冊か携えながら、53[破]の道中を続けると、きっとワカッタカワッタになってくる。
原田淳子
編集的先達:若桑みどり。姿勢が良すぎる、筋が通りすぎている破二代目学匠。優雅な音楽や舞台には恋慕を、高貴な文章や言葉に敬意を。かつて仕事で世にでる新刊すべてに目を通していた言語明晰な編集目利き。
『ありごめ』が席巻!新課題本で臨んだセイゴオ知文術【55破】第1回アリスとテレス賞エントリー
開講から1か月、学衆たちは「5W1H+DO」にはじまり、「いじりみよ」「5つのカメラ」など、イシス人の刀ともいうべき文体編集術を稽古してきた。その成果を詰め込んで、1冊の本を紹介するのが仕上げのお題「セイゴオ知文術」だ […]
【55破開講】オールスターズ師範代とおもしろすぎる編集的世界へ!
師範代はつねに新人ばかりというのが、編集学校がほかの学校とすごーく違っている特徴である。それなのに、55[破]は再登板するベテランのほうが多いという珍しいことになった。9月20日の感門之盟で55[破]師範代10名が紹介さ […]
【破 エディットツアーオンラインスペシャル8月23日】イシスな文体編集術を先取り
文章を書くのが得意です! と胸を張って言える人は少ないと思う。得意ではない、むしろ苦手だ。でも、もしかして少しでも上手く書けたら、愉しいのではないか…、そんな希望をもって[破]を受講する方が多い。 [破]は […]
『ミッションインポッシブル』を翻案せよ!【54破】アリスとテレス賞物語編集術エントリー
全国的に猛暑にみまわれるなか、54[破]はアリスとテレス賞物語編集術エントリーの一日であった。この日、55[守]では佐藤優さんの特別講義があり、43期花伝所は演習の最終日であった。各講座の山場が重なるなか、54[破]学 […]
東京の大岡山エリアといえば、東京科学大学(旧・東京工業大学)のある学園都市。にもかかわず、なんと書店がなかったという。そこにできたのが青熊書店だ。 青熊書店は、2025年3月15日に、自由が丘から移転して、 […]
コメント
1~3件/3件
2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
2025-11-13
夜行列車に乗り込んだ一人のハードボイルド風の男。この男は、今しがた買い込んだ400円の幕の内弁当をどのような順序で食べるべきかで悩んでいる。失敗は許されない!これは持てる知力の全てをかけた総力戦なのだ!!
泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)
2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。