遊刊エディスト黎明期、井ノ上シーザーはDUST記事を書き飛ばした一方で、記事のネタが尽きることを憂慮していた。
他方、編集部には「記事の内容は内輪受けではないか」という意見が寄せられていた。
この状況を踏まえ、シーザーは遊刊エディスト編集部メンバーに向けて「DUST宣言」を投げかけた。
現在、遊刊エディストは豪華ライター陣のコンテンツで彩られている。だが、2019年10月には危機をむかえていたのだ。
今回はその時代の空気を明かすべく“DUST宣言”の骨子を紹介しよう。
◇◇ DUST宣言 ◇◇
まず、「遊刊エディスト」の「これって内輪ウケじゃね?」という疑問は、当初かあった。
とは言え「編集学校周りで起こっていること」のプロセスごとの発信はあり得るとも考えていた。
例えば、寺山修司の劇団「天井桟敷」が発行していた新聞は、「寺山修司と天井桟敷に関心のある人」向けの宣伝のために発行されていた。
寺山も寄稿はしているが、大部分の記事は劇団関係者による。「芸術論」から「劇団員にアルバイト先を斡旋してください」まで、その内容は雑多だ。
関心のない人には「内輪ウケじゃね?」とはなり得るが、やはり後世に残る資料としての価値はある。「面白い・強烈な個性の“人”」が、「面白い・強烈な“出来事”“対象”」を、「面白く・強烈に“書く技術”」で、書かれているからだ。
この条件を遊刊エディストに敷衍すると、編集学校周りの出来事は面白くなければならないし、執筆者はキャラを立てて、ライティング技術を持つ必要がある。
DUST記事は必要か不要か、と問われれば「必要」ということになる。
編集学校周りの些細なエピソードを連ねることで、遊刊エディストに彩りを加えられる。それは本流であってはいけない。目指すは「どうでもよいことを取り上げる」「しかも読んでいて面白い」というポジションだ。
「面白いキャラの人が、どうでもよいことを、面白く書いている」モデルとして『中島らもの明るい悩み相談室』(集英社文庫)がある。「なぜ男性のズボンのチャックを『社会の窓』と呼ぶのか」といったどうでもよい問題について、虚実織り交ぜながら語る。
人生相談といえば、北方謙三氏の『試みの地平線』(講談社文庫)は、悩める青少年に次のような爆発的な回答をしていた。
★悩み「彼女に振られた」⇒☆回答「ソープに行け」
★悩み「生きている意味が分からない」⇒☆回答「ソープに行け」
★悩み「江口洋介のような髪形になりたい」⇒☆回答「カツラをかぶれ」
書き手の個性が、コンテンツが成り立つ「地」を破壊している。ここにはDUST文化の極北が見える。
ここで、重要な問題提起をする。
井ノ上シーザーは、DUST記事で周囲の編集学校関係者のエピソードを取り上げてきたが、すでにネタ切れになっている。DUST記事は頻繁に更新するものでもない。しかし、このままではDUST欄の存続自体が危ぶまれる。この点、遊刊エディスト編集部に危機感が全くないことに憤りを覚える。そこで声を上げ、立ちあがる。
1)DUSTライター募集!
井ノ上シーザーと共に、DUSTの地平を切り開く人材を、募集する。
2)DUSTネタ募集!
ネタをDUSTライターで吟味をし、記事に仕立てる。
DUSTネタたるもの、「人間の業の肯定」を元としたい。
ゴシップ的な要素はありますが、シャレにならない事態まで招いてもいけない。
DUST記事のあり方について、もう一度述べよう。
※DUST記事は、本流であってはならない。量産の必要もない。
※DUST記事は、編集学校周りのどうでもよいことを、面白く書く。
※DUST記事は、人間の業の肯定に基づき、ほどよく人や対象をいじる。
志あるエディストの参加を、心待ちにしている!
井ノ上シーザー
◇◇
この記事の背景には。もう一つの事情がある。
井ノ上シーザーは“DUST王”とまで呼ばれていたが、最近はすっかりを書けないスランプ状態だ。
他方、DUST欄では堀江純一さんの「マンガのスコア」シリーズが絶好調だ。
このままでは、DUST王は過去の称号になってしまう。
ここに、井ノ上シーザーは愛と無駄に満ちた「DUST宣言」を思い返し、初心を取り戻そうとしているのであった。
(松岡校長から頂いた「番諧獅匠」の書)
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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