昆虫の巨大な複眼は、360度のあらゆる斜め目線を担保する無数の個眼の集積。
それに加えて、頭頂には場の明暗を巧みに感じ取る単眼が備わっている。
学衆の目線に立てば、直視を擬く偽瞳孔がこちらを見つめてくる。

イシス編集学校の目利きである当期の師範が、テーマに即した必読記事を発掘&レビューし、みなさんにお届けする過去記事レビュー。3回目のテーマは、世間を賑わす「空梅雨」。空梅雨をどう読み替えたのか。ここからどんな連想を広げたのか。師範の編集は流流、仕上げを御覧じろ。
北條玲子 55[守]師範の発掘!
雨音は何かを連れてくる。さぁさぁと流れる雨の縦糸の間からは、日頃気にもとめていない音が意外なほど耳に入ってくるものだ。雨音の奥に幽かに聞こえる念仏。雨のアスファルトに軋むタイヤの音。いずれも雨がなければ通り過ぎるノイズだ。しかし、偶然の雨を待たずにヒトはモノオトを探究するものだと、この記事は語りかける。音楽を環境音へと反転させたサティ、環境音から音楽を聴き取ったルッソロ、そして、沈黙を雄弁に語らせたジョン・ケージ。ないものが音を際立たせたケージの勇躍は、1990年に植物の生体電位の変化を音に変換した「プラントロン」へと繋がった。雨を待たずとも、物言わぬ植物の語り掛けを聴くことができるのだ。
齋藤成憲 43[花]錬成師範の発掘!
連日の空梅雨とは拍子抜けだ。八百屋に走り自家製のはちみつを手に腕まくりしていざ台所に立つも、ものの1分で出来上がり。ぽかんと拍子抜けしたのが宮川大輔師範だ。レシピは「柑ぽんソーダ」。彼の得意とした「ポンカン指南」に肖って石井梨香師範が命名した。簡単に出来たソーダは予想を裏切ることのない思った通りの味。それでも宮川師範は昂揚する思いを昇華せんと妄想を止めない。ソーダの泡越しに「リカ先生」に扮した石井師範の教師姿を映し、さらには少年期に憧れた麗しき女教師の面影を重ねる。拍子抜けた状態から甘く切ないクオリアを見出すという力技。宮川ワールドは汗ばんでいる。この熱帯性高気圧は梅雨前線をさらに北へと押し上げた。
■37[花]入伝式 松岡校長メッセージ 「稽古」によって混迷する現代の再編集を
ある勢力が他方を侵食し、均衡が崩れ、境界が再編される。国際情勢でも政治でも貿易でもなく、梅雨前線の話である。今年もまた空梅雨になるらしい。
気象現象はシミュレーションで予測可能だが、世の中の諸問題はそうはいかない。今なお乱世は続き、計り知れないことが次々と起こる。こうした時代にあって、松岡校長は世阿弥に戻れと説く。
世阿弥の能集団もかつては弱小勢力だった。勢力再編の目まぐるしい戦国の世で、彼らは自らの技術と生き方を家に託して守り抜こうとした。世阿弥の言葉に「家、家にあらず、継ぐをもて家とす」とある。
日本も、イシスもまた家なのだと気づく記事だ。ではその器に何を注ぐのか。編集稽古はまさにそこから始まるのである。
「空梅雨」ならば、雨を待たずに、想像の耳で雨音を聴きに行こうと呼びかけたのは北條師範。五感に響くレビューです。期待とは異なる出来事と「空梅雨」を重ね合わせたのは齋藤師範。石井師範の元記事をインタースコアしてみせた宮川師範の記事に、新たな意味を与えました。麻人師範は「空梅雨」から一気に読み手のパースペクティブを広げ、「予測も付かない世を生き抜く世阿弥の方法」を説きます。三者三様の見方づけによる「空梅雨」セレクトが並びました。
梅雨が明けて、本格的な編集の夏の到来です。
アイキャッチ/阿久津健(55[守]師範)
編集/角山祥道(43[花]錬成師範)
◎バックナンバー◎
発掘!「めぶき」――当期師範の過去記事レビュー#01
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
発掘!「アブダクション」――当期師範の過去記事レビュー#04
膨大な記事の中から、イシス編集学校の目利きである当期の師範が「宝物」を発掘し、みなさんにお届けする過去記事レビュー。4回目のテーマは、編集学校の骨法「アブダクション」。この推論の方法をさてどうヨミトキ、何に見い出すか。 […]
募集!【8/23(土) 花伝所・エディットツアー】AIにないものとは? センシングを磨く超編集術
「わかること」だけが判断の基準になりつつある現代に違和感をもっている人は少なくありません。「わからないこと」の複雑性を受容しながら、一つ一つの事象を知覚して言葉を選び、巧みに連ねていくこと。言い換えれば、関係性の発見こそ […]
Break by itself. 自分の殻を内側から壊す。これが破れだ。破るとは決意するということだ。 6月28日、[花]キャンプでの「ハイパー茶会プラン」のグループワークが始まった。開幕して38分後、道場 […]
花伝所のキャンプに地図やガイドは用意されていない。あるのは与件のみ。 既成概念に捉われず多様な触発を引き起こし、よくよく練られた逸脱に向かうカマエが重視される。 43[花]のクライマックスは、2日間にわたる […]
マッチが一瞬で電車になる。これは、子供が幼い頃のわが家(筆者)の「引越し」での一場面だ。大人がうっかり落としたマッチが床に散らばった途端、あっという間に鉄道の世界へいってしまった。多くの子供たちは、「見立て」の名人。それ […]
コメント
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2025-07-29
昆虫の巨大な複眼は、360度のあらゆる斜め目線を担保する無数の個眼の集積。
それに加えて、頭頂には場の明暗を巧みに感じ取る単眼が備わっている。
学衆の目線に立てば、直視を擬く偽瞳孔がこちらを見つめてくる。
2025-07-27
ただ今フランスのマルシェあちらこちらで縦縞の赤肉メロンが山盛りだ。自然界が生んだデザインはじつに美しい。赤肉にくるりと生ハムを巻けば、口福ともいうべき大人の欲望が満たされる。
2025-07-25
九州出身のマンガ家は数多いが、”九州男児”っぽさを前面に押し出している作家といえば、松本零士に小林よしのり、そして長谷川法世ということになるだろう(みんな福岡だが…)。なかでも長谷川法世『博多っ子純情』は、その路線の決定版!
これこれこの感じ。まさにこれが九州男児バイ!(…と、よそ者の目には見える…)