カフェラテと稲妻と不気味の谷【55[守]卒門】

2025/09/03(水)19:22
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ギョッとしないといけない。不気味の谷というものを知るべき。金属でできたはずのドアノブが、実はゴムでそれらしくできていて、持った瞬間にぐにゃっとなって脳天に向かって裏切りが走る。そのあっという間にくる違和感で、不気味の谷に達しないといけない

―――第73回感門之盟「あやかり編集力」校長校話

 

 こうだろうと思ったものが、そうではなかった瞬間に、自分のなかに破れるものがある。編集稽古には、不気味の谷が埋め込まれている。松岡正剛校長が話していたことだ。入門前、多くの学衆が、指導者からのガイドに従ってリニアに学ぶことをイメージする。開講後、教室全員で入り乱れて高速にお題・回答・指南の稽古を重ねるうち、もっとお題に答えてみたい、さらに面白い回答をしてみたい、いままでにない自分の発想を引き出してみたいと思うようになる。


 守稽古の最後のお題【038番:編集カラオケ八段錦】が出題された8月21日、46分後にトップ回答が届いた。55[守]の第一号卒門者となったうたしろ律走教室のS学衆は、濃いカフェラテを片手に出題を待ち構えていた。卒門を祝う師範代の藤井一史、師範の奥本英宏に「正しさや整合性でこわばった頭をほぐしながら、編集世界を漂って、なんとか完走できました!」と達成感いっぱいに応じた。既に55[破]の申し込みも済ませている。

 

 8月24日24時、教室全員が固唾をのんで、全番回答期限の時刻を迎えたのが、つきもの三昧教室だ。卒門に向かって、一日中、回答を続ける2名の学衆に、師範代の畑本浩伸が指南で応じる。師範の阿久津健が用意した応援席から、教室の仲間たちが、ひっきりなしに声をかける。「つきものが見えるような速さ」「怒涛の追い込みは、まさに”メイク・ドラマ”」と言葉が尽きない。ついに「2人の稲妻回答に、私も」と先に卒門を決めた学衆の編集魂がじっとしていられず、再回答も届く。8月25日の0時24分、「卒門までのお題との闘争を終えた英雄としてご自身を誇ってください」と8名全員の全番回答を見届けた畑本からの投稿で、長い一日が終わった。この日、55[守]の171名の学衆のうち146名が卒門を決めた。

 

 私たちの知覚には、ある一定以上の刺激を受けると反応が変わってしまうトランジット・ポイントがある。不気味の谷というのは、私たちが意識しないままにもっている臨界値なのだ。

 道は、われわれの体や心の臨界値が隠しもっていた「隠れた次元」に挑戦するためにつくられた冒険そのものの痕跡だということなのです。これが私の考えている「道」の定義です。
 われわれは「道」というものにたいして、おおむね二つの基本的な気持をもちます。「この道からどこか先に行きたい」(from here to there)という衝動と、それとは逆の「道のむこうから何
かがやってくる」(from there to here)という畏怖の気持の二つです。その「ここ」(here)と「むこう」(there)の関係を結ぶもの、それが「道」なのです。

 ―――『花鳥風月の科学』松岡正剛


 15週間の稽古で、当初の「回答する」「卒門する」というターゲットの意味合いが変化し、突き動かされるように新しいターゲットに向かいたくなる。たくさんのさしかかりを経て、いったん「ここ」と「むこう」の間にたった学衆たちの前に、道は続く。

 

(文:55[守]番匠 阿曽祐子)

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