宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。

「物語を書きたくて入ったんじゃない……」
52[破]の物語編集術では、霧の中でもがきつづけた彼女。だが、困難な時ほど、めっぽう強い。不足を編集エンジンにできるからだ。彼女の名前は、55[守]カエル・スイッチ教室師範代、加藤則江。強みは、全方位からの共読と拍子のごとく変容に深く感応する力だ。
加藤は[破]の物語編集術で苦しんだ。自分が書きたい物語を書くのではない。型にそって書く。頭ではわかっているつもりでも、いざ書こうとすると自分が書きたい物語へ回帰した。
その逡巡を止めるべく、[破]の師範代は「『情報の歴史21』ルーレット」を差し入れた。学衆に好きな数字を書かせ、その数字を『情報の歴史21』のページと照合する。出た年代を強引にワールドモデルと設定することで、「自分が書きたい物語」ではなく、型×偶然という新たな物語が動き出す。
加藤は叫んだ。「これ以上考えても埒があきそうもないので、ルーレット 223ぺージでお願いします!」
この叫びは、まさに編集の機、「蛙飛びこむ水の音」だった。
偶然引きよせた「1870年」という歴史の溝に落ちてみると、昔耳にした「ご先祖様」の記憶が呼び覚まされた。時空間が決まると、場のアーキタイプ、そこに生きづく主人公達があらわれ、物語回路が動きだす。
主人公ならどう駆ける? どう語る? と想像力の翼を働かせ書き上げた作品は、AT賞講評で福田容子評匠から「モードの息吹に満ちた」作品と評された。
52[破]から続けざまにザブンと飛び込んだ42[花伝所]での加藤は、制限や欠けていることを編集契機にするカマエと、引き受ける覚悟がダントツだった。ウチとソトに出入りするものを与件にして、異なる意見こそ取り入れる(1870年を取り入れたように!)。そこには「変化」を恐れない加藤の姿があった。
松岡正剛校長がいうように編集の本質は「変化」だ。
「変わる」ということを感じること、知ること、思えることが、実は編集的に「わかる」ということなのです。(『インタースコア』春秋社 P.277)
55[守]で師範代をつとめた加藤が見たかった景色はこれではないか。「わたし」という主体を手放し、お題や型の力を信じて違う自分になる。いつだって「変わる」に向かって飛びこむ教室。学衆と共にカエル顔負けで飛び跳ねた加藤は、次も師範代として55[破]という大きな渦に飛びこむ。
▲加藤は、師範代スピーチで55[守]全教室名を読み込んでつないでみせた。「よっぽどのご縁でここにいる」と全員へ語りかける。
▲加藤の胸には、教室名に肖った「カエル」ブローチが光る。
写真/角山祥道
アイキャッチ・文/高田智英子(43[花]錬成師範)
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
おにぎりも、お茶漬けも、たらこスパゲッティーも、海苔を添えると美味しくなる。焼き海苔なら色鮮やかにして香りがたつ。感門表授与での師範代メッセージで、55[守]ヤキノリ微塵教室の辻志穂師範代は、卒門を越えた学衆たちにこう問 […]
ここはやっぱり自分の原点のひとつだな。 2024年の秋、イシス編集学校25周年の感門之盟を言祝ぐ「番期同門祭」で司会を務めた久野美奈子は、改めて、そのことを反芻していた。編集の仲間たちとの再会が、編集学校が自分の核で […]
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機があれば、欲張りに貪欲に、くらいつく。 第88回感門之盟に参加できなかった43[花]錬成師範・新垣香子は、インターブッキングに参加することで、残念を果たしたはずだった。しかし、参加したいという念は、それだけでは消化でき […]
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2025-09-18
宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。
2025-09-16
「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。
2025-09-09
空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。