「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。

この人はただの酒好きではない。「呑み比べ魔」だ。
9月20日の第89回感門之盟の総合司会を務める青井隼人師範(55[守]師範)。ビールが好きだが大手のピルスナーには手を付けない。エール製法のローカルビールを複数並べて呑み比べていくのが好きだという。「IPAは色、香り、飲み心地、産地と同じジャンルでありながら大きな幅があるから面白いのですよ」と偏愛たっぷりに紹介する。違いを見分け、微妙な差を味わうことを醍醐味としている。
専門の言語学でも「聞き比べ」によって研究を進めるという。大学院では多良間島という沖縄離島の言葉の、稀少な特徴を持つ母音を音声学の立場から研究していた。日本語の母音は5つだが多良間島では6つの母音があり、単語ひとつひとつを様々に聞き比べながら表記していく。
複数ある要素を比べながら、その要素の微妙な違いを比較分析していくというのが青井師範の探求姿勢だ。ただこのとき、分析そのものではなく、同じ要素・素材から多様な表現が生まれていることを愉しんでいる。
多様な顕れに関心を持つ姿は「複雑系をやりたくてイシスでの稽古を続けています」という言葉にも伺える。言語学でも対象を説明できる範囲に区切って、そこで通用するロジックで論証していくスタイルが主流のよう。だが、青井師範は説明可能な範囲だけでなく、その背後や関係があるものすべてを掴む必要性を感じて、イシスでその方法を確立しようとしている。
言語学には2つの大きなアプローチがある。言語とは何かという大きなテーマに向かうのと、ローカルな個別言語の理解に向かう方向だ。青井師範は後者の、つまり細部に注目するアプローチを取る。
感門之盟でも参加者それぞれの「個別の文脈」を大事にしたいと語る。それぞれの教室で別々の指南を受けており、興味が湧いたお題や編集の面白さに気づいたお題も違う。学衆ひとりひとり、師範代ひとりひとりの文脈がある中で、感門之盟はその文脈が出会う場所だ。
「感門之盟とは教室ごと、個人ごとの文脈が合流する川のようなもの」。青井師範は総合司会として、師範代や学衆から語られる体験談、稽古模様を聞き比べながら、登壇者それぞれの特徴ある差異を見つけていきたいという。そうすると感門之盟という合流地点で「関係性のなかでの自分」というものが見えてくるのだと。複雑系的な場に身を投じることで、青井師範自身も次に向かうべき方向を掴んできた。
井上麻矢さんによる53[守]特別講義で「モノローグを書く」というお題が出された。青井師範はあえて「金曜日の夜ビールを選ぶ自分」を持ち出して独白した。何か特別な編集をする時、素のままの自分でその場所には立てないと感じていたからだ。総合司会ロールでも特別な自分や他者に肖る必要があると考えている。
そこで大事にしたいのは「共読している時の自分」だと言う。どこをハイライトで際立たせるか。区切りにどんなしおりを挟むか。その時の感覚を思い出せるようにドッグイヤーをつけていきたい。マーキングで離れた情報同士を結び付けて、立ち上がってくるイメージを言葉にして伝えたい。イシスでは同じものを読んでもまったく異なるアウトプットが起こることを歓迎する。「感門之盟を共読していきましょう」。さまざまな顕れを心待ちにしている読み比べ魔の顔だ。
中村 麻人中村麻人
編集的先達:クロード・シャノン。根っからの数理派で、大学時代に師範代登板。早くから将来を嘱望されていた麻人。先輩師範たちに反骨精神を抱いていた若僧時代を卒業し、いまやISIS花伝所の花目付に。データサイエンティストとしての仕事の傍ら、新たな稽古開発にも取り組み毎期お題を書き下ろしている。
さだまさしモデル準備中 総合司会任命から感門之盟当日まではとっておきの編集の時間だ。司会の方法描出のために司会チームは何日もディスカッションする。88回感門之盟の総合司会を担うのは渋谷菜穂子花伝錬成師範。司 […]
花伝所入伝生が学衆の時印象的だった稽古をトレースしていると、思いがけず発見に至った時の表現によく出会います。「まるで道から逸れて公園に遊びに来たような」、「つい焚火の火に誘われて」、「安全な木から降りて草原を走ってみる […]
子どものころ、帰宅路の途中で寄り道をしたことでちょっとした宝物を発見したり、未知に踏み出したような体験をしたことがあるのではないでしょうか。何か決められたルートや確定的なルール(左右交互に曲がるなど)から外れ、時々違う […]
コメント
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2025-09-16
「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。
2025-09-09
空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
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2025-09-04
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