木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。
人はなぜ「学ぶ」のでしょうか。
古くから問われ続けてきた命題ですが、その答えのひとつを、軽井沢から松澤雛子さんが届けてくれました。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。イシス修了生による好評エッセイ「ISIS wave」(第63回)をお送りします。
■■学びの螺旋を編み継ぐ
軽井沢は立秋を経てニットの季節がやってきた。
短い夏に仕舞っていたお気に入りのセーターの柔らかい手触りを愛おしみながら、わたしが今まで編み継いできた学びをたどってみる。
【両輪をつなぐ学び】
いわゆる学生時代には、いかにサボるかしか考えていなかった。幸いどのフェーズでも人生の支えとなる言葉や師と出会うことができ、学ぶことや知識に対する愛着があった。その後、学生卒業後は子育てと仕事が同時にはじまり、4年後からひとり親としての時間を編んできた。そんなわたしにとって「働くことと暮らすこと」は、もがきながら廻し続けている、両の輪である。
働き手としてのわたし。
暮らし手としてのわたし。
軸足がどちらにあるのかは、時事刻々と変化するが、その両輪を繋ぐ「わたし」という軸に立ち返ることができるのが、「学び」である。
陽の当たる方へ、風のとおる方へと、生きている。
ふわりとした人生の中で、いつも学びが次の景色へといざなってくれている。
【孤独から繋がりへ】
移住とひとり親の子育てという暮らしのなかで、多方面からの恵まれたサポートを受けていつつも、同世代の友人や地域の中から取り残されてしまうような、どうしようもない孤独感があった。
自己実現をすること、また、その個人からの発信が社会的な承認を得ることが、どこかと繋がっているという感覚を生む。このような全体性と繋がっている感覚が乏しくなることによって、人は孤独を感じるのではないだろうか。
働くこと、暮らすことのどちらを通じても、「繋がっている感覚」は編み出すことができるが、もがいているうちに糸が複雑に絡まってしまうこともある。その糸をほぐして、また編み直すための背中を押してくれたのが「学び」である。社会人になってから、職業訓練校、イシス編集学校、そして現在のMBAへと学びの機会を得たことが、いまのわたしへと繋がっている。
【わたしらしい編み目を紡いでいく】
イシス編集学校での学びの場には、他者尊重と承認が根底にあり、「型というしくみ」を通じて思考を交換していく。この哲学をもとにした教室での掛け合いには、相手を尊重し、それぞれの編集を肯定する素地が一貫して存在する。年齢や役職に囚われた忖度が発生しない安全な空間において、ありのままのわたしが曝け出されていく。圧倒的なまでの知と、浴びるように降り注ぐ先達の囁き声、ともに走る学衆同志の掛け声が、折れた心をまた起き上がらせる。一人ではないからこそ生まれる相互編集は、ロールを越えて自己と他者が編み合わさって新たなものがつくられていく。
――自分で「知」を動かす
――人生、そのほうがずっとおもしろい
(松岡正剛『知の編集術』講談社現代新書)
そう、知ることと動かすことって、ワクワクするんだ。
自由にのびのびと、なに色の糸でも、どんな編み方でもいい。
途中で休憩しても、編み図通りの仕上がりでなくても、それでいい。
また絡まったらほどいて、新しいものをつくりはじめてみよう。
仲間とともに学ぶことは、誰しもがふとしたきっかけではまってしまう孤独から、一歩を踏み出すための力になる。その「学びの場」にあるのは、単なるスキルアップや肩書き的な資格を得ることではなく、暮らすことと働くことの両輪を回すための軸たる「わたし」を鼓舞し、自分自身で一歩を踏み出すための小さな灯りだ。
イシス編集学校で出会った学びという柔らかい武器を手に、これから先も何回でも編み戻し、断片や螺旋を紡ぎ合わせながら、わたしをつくりつづけていく。
▲ニットの季節の軽井沢
文・写真/松澤雛子(51[守]カタルトシメス教室、51[破]カンテ・ギターラ教室)
編集/チーム渦(角山祥道、羽根田月香)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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2025-11-11
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2025-11-04
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