自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
川邊透
2026-01-13 12:02:25
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
新年初めての武術、音曲などの稽古を始めることを「稽古始(けいこはじめ)」「初稽古」といい、新年の季語にもなっています。
イシス編集学校修了生によるエッセイ「ISIS wave」。記念すべき70回目、2026年最初の回は、現在、[離]で奮闘中の佐藤賢さん(55[守]抜力一の糸教室師範代)による、初稽古ならぬ稽古づくしエッセイです。
いざ、編集稽古×合気道×唄&三味線の世界へ。
私の通う合気道道場(万生館道場)では「呼吸力」を重視する。一般的に合気道は力を抜くことを大切にするが、呼吸力はその先の「任せる」まで含むものである。お任せしてしまえば相手と自分は一体となり、動かそうとしなくても相手は自分の思うままになる。例えば腕を強く握られても、相手に腕を任せてしまえば、相手は自分から離れられず、自分の腕を動かした先へ相手も動いてしまう。
「戦う心無からしむ、否、敵そのものをなくする…」
毎回稽古前に唱和する「合気道の精神」の一節であり、その実践として呼吸力はある。
[花伝所]で学んだ指南の型に「受容」がある。学衆の思考プロセスをリバース・エンジニアリングする=《問・感・応・答・返》の「問」と「答」の間に分け入るもので、「学衆の中に入り込む感覚」に近い。そのためには「私」は柔らかくなければならない。
「受容」を意識し始めてから、私のコミュニケーションは変わった。仕事でも文章は柔らかくなった。相手の中に入り文章を書くことを、以前より自然とできるようになったからだと思う。
「呼吸力」と「受容」はどこか、似ている。両者は「自分を柔らかくする」という一点で重なっている。編集にも呼吸力は大事なのだろう。
▲合気道の道場にて
千夜千冊「葉隠」で紹介されている西松布咏さんに唄と三味線を習っている。遊女の忍ぶ恋を唄った「忍ぶ恋路」を昨秋、演奏会にて歌うことになった。なかなか遊女に感情移入できず、師匠に相談したところ「歌いこんでいけば自然と唄の世界観に入っていけるので、無心で歌えばよい」と教わった。その通り歌い込んでいると、ある日涙が出てきて止まらなくなった。それは遊女の「入ってきた」感覚だった。
遊女の気持ちをどうにか理解しよう、という作為をなくし、唄に自分自身をお任せしたことで、遊女の方から入ってきてくれたのかもしれない。無心とはお任せすることなのだろう。
▲去年の演奏会で歌う佐藤さん。右は、西松布咏さん
松岡正剛校長は、最初で最後の自伝『世界のほうがおもしろすぎた』(晶文社)でこのように書いている。
「…その熱中が起こるには、強すぎる自己をあまりに固形化していてはならない。むしろ「私」をフラジャイルな状態にしておいておくこと、それがさまざまな延長の自由を可能にする」
千夜千冊「いのちとかたち」に「稜威」の意味として「別種の生を得ること」とある。何かが入ってくること、とも言えるだろうか。編集は私を柔らかくする道程であった。
▲佐藤さんが毎日、200回振っている木刀
編集/チーム渦(角山祥道、柳瀬浩之)
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自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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