編集稽古で引き出された「わたし」――高橋仁美ISIS wave #74

2026/03/04(水)08:00 img
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イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。高橋仁美さんは普段は英語を使って、子どもたちの想像力や表現力を伸ばす教育に携わっています。編集学校でのお題に回答するうちに、現在の仕事にも関係するあることを思い出します。

イシス受講生がその先の編集的日常を語るエッセイシリーズ「ISIS wave」。今回は高橋さんが編集稽古で再会した「わたし」をお送りします。

 

■■穴だらけのクロニクルから

 

[守]の【編集稽古010番:たくさんの「わたし」】は、自己編集の扉を大きく開いた。

 

「わたしは誰にも縛られず空を飛びたい小鳥である」

「わたしは気になることには飛び込んでみるアリス体質である」

 

自分自身をも情報と捉え「わたし」をさまざまに言い換える編集稽古で、小鳥のような自由さを求めたり、「不思議の国のアリス」のようにあとさき考えず興味あるものに飛び込んでみるところに、自分らしさを強く感じた。

 

その後[破]の【クロニクル編集術】で自分史をまとめたとき、そこに同じような気質をもつもう一人の存在が浮かんできた。母方の大叔母である。

 

[18歳] アメリカの大叔母が法事のため母の実家に帰省する。遊びにおいでと言われ、アメリカ訪問が急に手の届くことに思えてくる。

[21歳] 春休みにアメリカの大叔母を初めて訪ねる。3週間のホームステイ。日米ミックスの言葉や生活が面白い。

 

大叔母のルリコは私と同じ九州の出身だが、戦後に関東で米兵男性と結婚し、一女に恵まれ、もう60年以上米国に暮らしている。なぜ田舎に留まらず関東に行ったのか、どんな仕事をしていて、大叔父とはどうやって出会ったのか。気になってあれこれ想像をめぐらし、[破]の【物語編集術】の稽古では、大叔母を登場人物のモデルにした。物語を考えながら登場人物のクロニクルを作ったが、これまで大叔母の話を聞けたのは21歳で訪米した時のみ。モデルとする大叔母のクロニクルは穴だらけであった。

 

2025年11月、その穴を埋める思わぬチャンスに恵まれた。「元気なうちに会いに行きたい」という叔父たちに同行を請われ、1週間の日程で米国の大叔母を訪問できのだ。94歳になった大叔母は思った以上に元気だったが、短期記憶は覚束ない。幸い昔のことはよく覚えており、聞けばぽろぽろ話してくれる。雑談の中で昔の話が出れば「それルリコおばさんがいくつのとき?」と質問を織り込むような、なるべく自然な会話の形でインタビューを重ねた。

 

▲ルリコさんの住む米国西海岸のコーストライン。海の向こうは日本。

 

▲高橋さんがルリコさんへお土産として作った”We love Ruriko!”のTシャツを着てパチリ。

 

帰国してまとめた大叔母のクロニクルには、まだ不足がたくさんある。しかしその穴だらけのクロニクルは私の想像を刺激する。相似な気質をもつ大叔母と私。私と大叔母を重ねるように、大叔母と他の誰かも重ねてみる。時代や場所が違えば、どんな人物、どんな物語が、動き出すのだろう。

 

[守]の【編集稽古003番:部屋にないもの】では、自分の部屋にないものを「ないものフィルター」で見つける稽古をした。その時にはっと気づいたのが「本棚に私の書いた本が1冊もない」ということ。そんな穴を見つけたら、飛び込まずにはいられない。

「編集は不足から生まれる」

いつか大叔母と私の、別様の物語を綴ってみたい。

 

▲カモメと戯れる空を飛びたい小鳥な高橋さん

 

編集学校のお題へ回答するうちに、しまい込んでいた幼ごころや忘れていた記憶に再会し、心おどる体験をした人は少なくないでしょう。そこからさらに、高橋さんのように複数のお題を振り返りながら関係を見つけ繋いでいくことは、「わたし」の再編集でもあります。時代も場所も超えて紡がれる物語は、確かにあるけど、今は隠れている宝物。[守][破]の編集稽古で手にした「型」を使って、あらわしていく過程は、トレジャーハンティングのよう。胸騒ぎは止まりませんね。


文・写真/高橋仁美(53[守]風土いきいき教室、53[破]ラップ多義る教室)

編集/チーム渦(大濱朋子、角山祥道)

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

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