イシスが「評価」の最前線だ(前編)--才能をひらくために(56[守])

2026/03/01(日)12:00 img
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  いま「評価」がますます貧しくなっている。衰えて細っている。

 「いいね!」の数や再生数の多さばかりがもてはやされ、「あなたにぴったりですよ」とニュースもエンタメも今日の献立も転職先も、次から次へとAIが選んでくれる。アルゴリズムの作った情報に身を委ねていたら、何が面白くて、何が美しいのかを感じる力が失われてしまった。効率のよいもの、生産性の高いもの、すぐに富を生み出すものばかりを偏重するようになってしまった。

 人も社会もこんなに行き詰まっているのに、有効な打開策がずっと打ち出せないのは、私たちがモノやコトの価値を見出す力を失ってしまったからに違いない。

 

 しかし、イシス編集学校には同朋衆がいる。どんな異質な情報も捨て置かず、ありふれていると見過ごされそうな情報からも輝く差異を取り出す目利き集団だ。[守]で開催される学衆全員参加のコンクール「番選ボードレール」では、エントリー作品の魅力をめぐって既存の価値に寄りかからない、批評、趣向、偏愛、惑溺、依怙贔屓に満ちた講評が同朋衆から連打される。特に56[守]ではこれまでの形式にとらわれない、進取の気勢に満ちた講評が生まれた。ランキングや多数決に甘えない、「評価」のあり方を今回の講評から見てみよう。

 

今期の番選ボードレール「ミメロギア」のお題はこちら
1) 甘酒・チョコレート
2) 受験・駅伝
3) 霜柱・銀河
4) 空海・ゲーテ
5) 足し算・掛け算
6) 栞・目次

 

◆同朋衆は才能をひらく

 「霜柱・銀河」を担当した稲森久純同朋衆は、大地と宇宙に心打たれる“直感”こそが世界を知る原点であるとして、「お、霜柱・あ。銀河(ピノキオ界隈教室/M・H)」と最小限の言葉で氷のように儚い心情と空間の拡がりの両方を表現した作品を称賛した。福澤美穂子同朋衆はにわかに崩れる氷と、遠く過去から届く光を描いた「幻想霜柱・残像銀河(ないまぜマンション教室/N・M)」を「寂しく、消えゆくような感覚を大事にする構えに肖りたい」と絶賛。「『ない』ものこそ豊かな情報世界につながる」のだ。

 

 「受験・駅伝」は石井梨香同朋衆が「朝のニュース『スポーツ往来』」、小林美穂同朋衆が「土曜ドラマ『自由へのリレー』」と、ニュース番組とドラマ仕立てで講評。受験と駅伝の持つ劇的な「らしさ」を伝えるメディアに準え、作品をショーアップする企みだ。「『見立て』とは思い入れであり、思い入れがシンボルをつくりあげるのです」と『かさねの作法』を引いた名解説では「鍋焼きの受験・寄せ鍋の駅伝(連菫ポレポレ教室/K・E)」を取り上げ、冬の風物詩の間に味わい深い対角線を見出した。生命のストーリーに学んだ「受精的受験・遺伝的駅伝(トージ瀬戸際教室/N・T)」には「螺旋的ゲームメイク賞」が贈られた。イシスの講評では、賞にも作品に相応しい名が着けられる。

 

 56[守]の脳と心を沸騰させた津田一郎さんの特別講義がフラッシュバックする「足し算・掛け算」では、「数学は言語を習得する以前のプリミティブな認識に基づく文体である」と喝破する名部淳師範の見方づけが炸裂。「塩を足し算・胡椒を掛け算(半跏グノーシス教室/K・N)」は「塩で輪郭線を引き、胡椒で香りの面を出す。足し算・掛け算の存在学的調味」だし、「捜査の足し算・謎の掛け算(蓮華ソーソー教室/A・D)」は「計算づくの必然の謀みが生んだ銀幕に映える傑作脚本」だ。

 阿久津健同朋衆は江戸時代の数学書にある「継子算法(ままこさんぽう)」を持ち込んだ。並べた碁石のn番目を拾う継子算のように、エントリー順に並べた作品群を一定の間隔で取り出し再配置。前後に並んだ作品のイメージを掛け合わせて106作品全てに講評を書いた。「足し算・掛け算」から意外性と諧謔のあふれる壮大な世界観を導いた怪講評となった。

 

 「才能」とは、木や石など素材に宿っている「才」、その価値や可能性を引き出すこと(=能)である。イシスの講評も同じだ。学衆の生み出した作品世界の中に分け入り、お題や作品に宿る「才」を読み取り、関係づけ、巧みに見立てて「能くする」ことなのだ。
(後編につづく)

 

文:石黒好美(56守番匠)

アイキャッチ:阿久津健(56守師範)

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