編集の海にダイブ!――多田昌史のISIS wave #75

2026/03/23(月)07:57 img
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イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。

 

第90回感門之盟で、「おりしも空海教室」という教室名を受け取った多田昌史さん。この春からは、57[守]師範代として登板する。登板を前に、自身のイシス編集学校での稽古の歩みを振り返ります。

 

■■たくさんのタダマサシ

 

 目的地はわからない。ただ、飛び込んでみたくなった。
 それを感じたのはイシス編集学校の門を叩く前、職場の先輩に薦められた「編集力チェック」を受け、見ず知らずの師範代からの指南が返ってきた時だ。何気なく書いた数百文字から自分の根っこの部分、大切にしているところを洞察し、指南を手渡してきたのだ。
 プログラミング、デザイン、写真、建築、コーチングと色々やってきたが、それらが持つ自己実現のための「ワクワク」じゃない。「なんだこれは?」という未知へのざわめき。たかだか数百文字のメール文にすぎないものだったが、思えばその時から、「師範代」に惹かれていたのかもしれない。
 [花伝所]を終え、師範代として教室を託される今、あの初指南を読み返して確信した。――あの時僕は、「師範代」あるいは「編集」が持つ、分かろうとする「まなざし」に射抜かれていた。

 

■編集工学という「型」を介したラリー
 ラリー(Rally)の語源はラテン語のre-alligāre、「再び集まる(再結合)」だという。編集学校での経験は、僕にとって、編集工学の「型」や師範代や教室の仲間を介して、世界と自分を往来しつづけ、あたりまえと出会いなおす「ラリー」だった。

 最初のコース[守]は、自己の再発掘だった。
 予感だけをかかえ、[守]の門を叩いた。お題に向かい、内面や日常の泥沼から情報を集め、掴んでは大事に磨き回答する。師範代からは「型」を軸にした指南が届く。これを繰り返すうちに、「こうしたらもっと良くなるのでは」という気持ちが芽生え、再回答で言葉を研ぎ澄ませるようになった。夢中だった。「型」があるから遊べた。遊べるからのめり込めた。お題を通して「型」を巡り、時間と多忙に埋もれていた自分を掘りあてた。

 応用コース[破]は、幼き日の物語との再会だった。
 脳内で完結していた[守]の稽古から一変。文章を書くことを求められた。指南や教室の仲間の回答に触れるたび、自分の回答が更新されていくのがおもしろかった。とくに、方法をなぞって「英雄帰還」の物語をつくる稽古では、夢に出るほど物語の世界にのめり込んだ。教室や師範代とのラリーの最中、ふと、幼い頃、通学路の最中、弟と一緒になって作っていた物語を思い出した。僕は稽古を通して、幼い頃の自分とも再会していた。

 [花伝所]は、いくつもの自分との再結合だった。
 焦点が自分から学衆へ移る。回答を読みこみ、指南を返す。この繰り返しで感じたのが「他者」のおもしろさとおもしろがる「いくつもの自分」だ。
 指南演習は机の上だけではない。育児、インフルエンザで布団の中、業務繁忙期。演習でありながら、生活まっただなか。たくさんの精神状態で回答に触れる。だから、気になる箇所が毎回ずれる。だが、それがいい。童心に帰る。年老いた気分になる。別の役割や生き物に転じたつもりで読む。すると、埋もれているいいところが浮かび上がる。
 そこまでして掘る価値がある。[守][破]で自分に起きた「熱を帯びた出来事」は、学衆それぞれにも起きていて、その結実が回答だからだ。そして、その結実は、たいてい目立たない場所に潜む。だから、見つけにいく。

 

■編集は教室の外へ向かう
 ラリーは教室の外でも起き始めた。職場で「この人は何を言っているんだ」と決めつけ、反射的に対応してしまいそうな場面ほど、早合点を保留する。そして「あなたはなぜそう言うのか」と相手に問う。仮説を置き直し続ける。一致はできずとも、更新しつづけることで、他者という未知へ一歩踏み込めるようになった。
 家庭内でも変化は起きている。六歳と四歳の子どもたちの言葉はカオスそのもの。結論を保留し、言葉を重ねると、理屈では測れない奔放な連想のラリーが始まる。予測不能なボールを打ち返す毎日だ。そしてその「なぜ」が仮にでも腑に落ちたとき、新しい彼らと、殻を破った自分に再会できる。

 

 

■編集は再び教室の中へ
 そして、この春からは師範代。ひとつの教室を託される。
 自分と学衆がいる。型があり、未知なる言葉の流れがある。そこは、放課後につい再集結してしまう秘密基地のような、明日の探険をたくらんでニヤニヤしあっているような、学衆も師範代もそれぞれの編集を「ラリー」する基点としての教室を仕掛けていきたい。

 ラリーの時間がはじまろうとしている。目的地はわからない。飛び込むだけだ。

▲キッズに写真を撮ってもらう父親としての「わたし」

[守][破][花]の道すがらで遭遇した「熱を帯びた出来事」は、バーチャルの世界に止まることなく、多田さんの日常との関係も繋いでいきました。そして、シャケの母川回帰のように、はたまた、物語マザーの英雄伝説(セパレーション、イニシエーション、リターン)のように、多田さんは師範代として再び[守]へ戻ります。大きな流れ、小さな流れ、直線ではなくさまざまに学衆と描くラリーは、複雑に絡まるほど熱を持ち輝いていくのでしょう。未だ見ぬ地へ、いってらっしゃい。

文・写真/多田昌史(54[守]たまむしメガネ連教室、54[破]うごめきDD教室)

編集/チーム渦(角山祥道、大濱朋子)

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

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