老女の理容師がそれしかできないことに気づいた時、すでに遅かった。
青森県で角刈りの井ノ上シーザーの登場となった。2020年6月のことだった。
おりしも、小倉加奈子が似顔絵を描いてくれていた時と重なる。
林頭の吉村堅樹によると、小倉加奈子と井ノ上シーザーは「人の迷惑を鑑みない」「周囲の空気を読まない」という点で似ている。だがシーザーに言わせると、二人は対比的だ。
普遍にむかって事象へと方法的に踏み込む小倉に、「なんちゃって精神こそ編集だ」と、ホントとツモリの間を突き抜けるシーザー。一生懸命な小倉に、テキトーなシーザー。いつも笑顔の小倉に、いつも凝視のシーザー。
角刈りのシーザーは自身の写真を眺める。
『90歳のピカソの自画像』と似ていることに気づく。
(『90歳のピカソの自画像』っぽいシーザー)
ピカソの自画像は老いてもなお人間臭い。煩悩が伝わる。面白がって編集学校周りの友人に写真を送る。三島由紀夫の線も行ける、というコメントが入る。上半身裸になり、ミシマを擬いてみる。
(『薔薇刑の三島由紀夫』擬きのシーザー)
ミシマのナルシズムには及ばない。裸に自信がないからか。ちなみに加えているのはネクタイだ。
さらには、「菅原文太も!」とのコメントも出てくる。
だが、このカメラ目線は自撮りでは難しい。
(眉毛がりりしい菅原文太)
角刈りの偶然から「ナルシスマッチョ」や「仁義なき戦い」へと“たくさんのわたし”が現れた。ピカソ、三島、文太。三人の共通点は革命的目力だ。目力のある人だったら、だれでも対象にして擬けそうだ。
やってみたいのだが、狂気の淵へ没頭していく感覚に落ち入る。写真技術の限界もある。しかも、一人遊びなのだ。
井ノ上シーザーは、やめた煙草を無性に吸いたくなった。禁煙を破る気にもなれない。代わりにワインを浴びるようにあおった。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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