イシス人インタビュー☆イシスのイシツ正月特別編【”守”護神な景山和浩】File No.5

2021/01/06(水)10:00
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《守》と言へば イシスのイシズゑ 其の先の

《門》を護りて 幾星霜

《来》たる学衆 出迎へし

《福》を授きて 導くは

 

イシスの名匠 守の番匠

守護神 門番 守り神

大黒天に 取り成して

春寿ぎに いざ出で立ちぬ~

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【イシツ人File No.5】景山和浩

19~20、28、30、32、35~38、40~41、44期[守]師範、22期[ISIS花伝所]師範、22~24、42~43、45~46[守]番匠、5[離]。日刊スポーツ新聞整理部デスク。何事も夢中になりやすく熱心に取り組むタチで、2006年のイシス編集学校入門以来、ロールを担当しなかった時期は極僅か。そのほとんどが[守]の師範か番匠という、文字通りの[守]の守護神。穏やかで包容力があり「師範の師範」と形容されるが、笑顔の奥にひそむ毒っけや負けん気に気づいているイシス人も多い。師範代デビューがシス史に残る16期17期だったこともその後の活躍を思えば暗示的。

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◎ジョウシツでイシツでオメデタイ!

(ジョウシツとは?:情質。狭義に秘められた熱情)

新年明けましておめでとうございます!

新春スペシャル「イシツ人インタビュー☆イシスのイシツ」。今回登場するはイシス人には、多くのイシス人が世話になっているはず。何しろ[守]の師範12回、番匠7回という驚異的なロール登板数で、編集学校に入門したら必ず出会う守り神のような存在だ。

 

しかも尊顔の類稀なる福々しさ。正月をふまえ大黒天に転身した出雲出身のイシツ人に肖り、イシツな「めでたさ」を詮索した。

シリーズ初となったzoom取材。しつらえの人形は『20周年感門之盟 100shot #近大編』のイシツ人の腹にアフォードされたもの。

イシツ人の本業は紙面レイアウトや見出し編集を担当する新聞社の整理部デスク。入社以降31年、自ら「天職」と言うほどの仕事ぶりだ。

 

いや、そこまで言うとおこがましいんですけど…(笑)。学生時代に本多勝一や筑紫哲也の本を読んでいて、何となくジャーナリストに憧れがあったんでしょうね。影響されやすいんですよ、僕。

記者志望でしたけれど整理部に配属され、でも最初の頃につくった見出しやレイアウトを先輩から「面白いね」と言われると調子が出てきて、どんどん面白くなって。

 

記者の中には「整理部なんて」という見方をする人もいますが、僕にとっては溜まっていたものを吐き出すことができた、新しい世界との出会いだったんですね。

 

10歳のとき、大学ノートにお笑いネタなどを書いてオリジナル雑誌を作っていたというから、編集の泉は滾々と湧き出る時を待っていた。

 

幼少期からビールの王冠集めに始まり→絵葉書収集→切手収集→プロレス→野球→吉田拓郎と、新しいものに出会う度にのめり込んでいった景山少年がやがて天職に出会ったとは、いかにも正月らしくめでたい話。しかも新聞の見出し作りは[守]で学ぶネーミング編集そのものだ。

 

ははは、そうですね。スポーツ新聞なので見出しには「爆」とか「激」とか威勢の良い言葉を使いがちですが、僕はそういうのはあまり好きではなくて、余計なものをそぎ落としつつちょっとニヤリとさせる見出しが好きなんです。

俳句が省略の文学と言われるように、必要最小限まで削って削って、それでも伝わる究極の要約編集に、いま非常に燃えているんですね。

 

師範代の指南も詰め込み過ぎず、余白があるほうがいいと言われますよね。あれと同じで、余白によって読者のイメージを広げられたときは尚更嬉しいですね。

 

画面越しにも伝わる福々しさと包容力は、イシツ人の「要素・機能・属性」か。

 

穏やかな語り口の中に、編集への情熱が迸る。

そこまで燃えているという見出し編集、会心の作はどのようなものだろうか。

 

うーん、昔になりますが、巨人の松井秀喜選手が初めてCM撮影に挑むことが話題になり、無難にいけば「松井がCM撮影」とするところ、渾名をもじって「ゴジラ対カメラ」としたときは周囲から「おぉ~」という反応が返ってきましたね。言葉のシソーラスを広げ、言い換え要約していく過程は[守]の名物お題であるミメロギアと同じで、まさに鍵と鍵穴でした。

 

うまい見出しはやっぱり、三位一体や三間連結など[守]で学ぶ編集思考素をしっかり押さえていることが多いんです。そこに情報の構造が出てきますし、物語の流れも生まれます。

以前は「分からない方が悪い」と独りよがりな見出しもつけていたと思うんですけど、イシスに出会ってからは、読者を迷わせずターゲットまで誘導する紙面づくりを、より一層意識するようになりました。

 

中でも[ISIS花伝所]で学ぶ花伝式目は、コミュニケーションの在り方を劇的に変えた。イシスでのやわらかな学匠、師範ぶりからは想像しにくいが、以前は後輩が出してくるアイディアを問答無用で切り捨てていたこともあったとか。「やはり受容ですよね。イシスの受容は単なる受け止めではなく、相手の地を探りチューニングしていくことから始まります。受容・評価・問い。デスクとしてのふるまい方は、間違いなく変わりました」。

◎ケイシツでイシツでオメデタイ!

(ケイシツとは?:敬質。狭義に敬い慕う強い愛)

唯一の心残りは、松岡正剛校長が井上ひさし氏を招いた2008年「連塾 JAPAN DEEP 3」に仕事で参加できなかったこと。偉大なる劇作家を先達として仰ぐイシツ人は、千夜千冊に導かれてイシスに入門している。

 

はい、昔から井上ひさしが好きで、本についてもよくネット検索していたんです。すると必ずと言っていいくらいヒットするんですよね、千夜千冊に。で、ある日横にあった編集学校のバナーをポチっとしてしまった。

 

仕事に役立てられたらいいな、くらいの軽い気持ちでしたが、校長の編集的世界観はそんな枠にはとどまりませんでした。これまで関わって来たすべてに先人の編集の痕があり、世界と自分をつなげる体験だったというか。

 

[守]のお題の力にも、毎回驚かされます。40歳過ぎての入門でしたけれど、イシスはもう自分の一部になっていて、僕の体はイシスでつくられている感じがします。

自宅本棚を埋める先達、井上ひさし。

こちらは全集。

まさに、愛。

「めでたい」という言葉は〝め(愛)ず〟の連用形でもある。守の門番として長らくロールを担うイシツ人。学衆や師範代への愛についても聞きたいところだ。

 

それはもう、何回ロールを重ねても学衆さんのことは好きになってしまいますね。師範代経験者は共感してくれると思いますが、ちょっと恋する感覚に近いかもしれない(笑)。しかも学衆さんや師範代は期毎にガラリと変わりますからね、今期はどんな人がいてどんなことが起こるのか、毎期が新鮮で楽しく、ここまで続けて来たんですよね。

 

中でも20守で師範を担当した矢萩邦彦師範代と中村紀子師範代(いずれも当時)は、師範の立ち位置に気づかせてくれたという意味で、印象に残っています。

矢萩さんはとにかくスピードが速く教室を動かす力がすごい。中村さんは校正の仕事をされていて、言葉が非常に豊かです。僕が師範としてあーだこーだ口を出すと、二人の持ち味を消してしまう気がしました。

 

というのも、それまではつい余計なことを伝えて「言われなくても分かってます」と師範代に言わせるような、険悪な雰囲気も作ってしまっていたんですね。

おかげで一歩引いて後ろで控えつつ、ここぞという時を察知して声をかける、師範の「ホド」を掴むことができたんです。

 

師範としてもがいた成果は、感門之盟で校長から贈られる「書」に表されていた。

絶妙な間の動かし方がとてもいい、という言葉とともに贈られた言葉は「銘守」。

【銘】~其の功烈を銘して、以て子孫に示す。心に深くしるすことを銘記・銘心鏤骨(るこつ)のようにいう。     (字通抜粋)

取材中一番の笑顔は「書」とともに。

 

こんなこと言うのは僭越ですが、[守]はけっこう難しいんですよ。師範代も学衆さんも初めての人がほとんどで、彼らをのせながら予測がつかない「場」をつくっていくところから始めるので、我慢強さが求められます。

たまに指南が動かなくなる師範代がいると、大丈夫、大丈夫と心の中で声をかけながら、待ってるよ、今夜来なかったら明日言葉をかけにいくからねと、師範や番匠が出ていく機を図りながら心で念じています。

 

井上ひさしの言葉を借りるなら「あとにつづくものを信じて走れ」。小林多喜二を主人公にした戯曲『組曲虐殺』の中の一節です。

 

愛の網を肩に 希望めざして走る人よ

いつもかけ足で 森をかけぬけて

山をかけのぼり 崖をかけおりて

海をかきわけて 雲にしがみつけ

あとにつづくものを 信じて走れ

 

心酔し、亡きあと尚更深く仰望する先達は、井上ひさしに加えてもう一人。冨澤陽一郎道匠。イシス編集学校1期生であり初代[守]学匠。イシスを生き、イシスを体現した飛び切りのイシツ人。

 

冨澤さんはまさに、あとに続くものを信じてずっと、それこそ24時間イシスと走り続けた方でした。僕に守の師範をオファーしてくださったのは冨澤さんだし、番匠としての矜持を教わったのも冨澤さん。影響はとても大きいですね。

 

今でも大切にしているのは、大きな出来事は細部から始まっている、細部こそ気をつけて見て行くように、という教えです。これくらいは大丈夫かなという小さなトラブルは、じつは教室を巻き込む大きな事件に繋がっていたりします。冨澤さんの察知力は図抜けていて「メールのタイトルを見れば異変が分かる」と仰っていました。

 

学衆や師範代のちょっとした変化を見逃さずフォローされて、どんなにつらいことがあっても学衆さんの前では「やせ我慢の美学」を貫く。僕が冨澤ミームを受け継ぐことはとてもできないですけど、冨澤さんがやられてきたことを言葉にして伝えていくことは、これから先のイシスにも大切なことだと思っています。

 

ぽっかりあいた大きな穴。埋めるには道匠・冨澤陽一郎のメソッドを次に渡していくしかない、あとにつづくものを信じて走りながら。

 

ほんと、僕にとっては盟友でしたね。アフ感(感門之盟2次会)でも色んな席を回られたあとに僕のところに来て、景山さんが呑んでるなら僕も、って一緒に日本酒を呑みながら、冨澤さんが好きだった松山千春の話をしたり、僕が好きな吉田拓郎の話をしたり。うんほんと、盟友でした。心の盟友。

時折長い間をあけながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

イシツ人にとってイシスとの橋渡し役を果たした千夜千冊。NEXTイシスがいよいよ始動する2021年に向け、イシス人たちに読んでほしい一夜を最後に訊ねた。

 

1625夜『夜中の電話』井上麻矢著――余命僅かとなった井上ひさしが劇団こまつ座を娘に引き継ぐべく、夜ごと電話をかけ、命を削ってつないだ言葉の数々。

「問題を悩みにすり替えてはいけない」「何かにとりかかる前に、脳みそがおかしくなるくらい考えること」「一番大事なのは想像力です」「大きなことを小さく処理しなさい」「大事なのは後始末」‥‥。(略)こまつ座を引き受け、すべてを切り盛りせざるをえなくなった麻矢ちゃんに、一から十までの“劇団訓”を授けたのである。しかし、そうしたからといって何が成就できると決まるわけじゃない。父と娘の夜中の電話はどれほど深い闇の奥を覗きこんだことだろう。

こういう時代だからこそ、井上ひさしの方法論、井上ひさし流編集術を見ておいて欲しいと思います。

僕もいつか[守]のロールを誰かに引き継ぐときが来るのかもしれませんが、現学匠の鈴木康代さんが実践されている素晴らしい方法論や、冨澤道匠の矜持を少しでも伝えていけたら。

 

いや、もしそんな日が来たら滅茶苦茶さびしいですけどね、それこそ胸のあたりにぽかっと穴が開いちゃうかもしれない(笑)。

◎イシツ人のイシツブツ

見出し編集はぎゅっと要約したいイシツ人だが、趣味の世界では大作をつくりたい。顔ほどもある陶器は花瓶ではなく徳利。すかさず「花瓶にも徳利にもなる〝たくさんのわたし〟な陶器です」と言い替えるあたりは、さすがの〝守〟護神である。

 

陶芸は、古田織部を描いた漫画『へうげもの』(山田芳裕著)に影響されて。

大酒を飲める日を夢想して作陶。

【おまけ♡イシツ人と結婚】

イシツ人の穴を埋めた、取って置きのめでたい話。職場結婚から一転、8年後に離婚したイシツ人だが、その後時を経て再婚した相手はなんと元妻。ローンが残る家に一人住み続けたイシツ人にとって、欠けた穴が埋まるようなおめでたさ。「イシスロールでは孤独に陥ることもある。仕事を終え夜中の1~2時に家に帰ると妻が起きて待っていて、ご飯を食べながらあーだこーだと会話して。明るい家に帰るっていいですね」。妻の体調が優れず欠席した伝習座で周囲に発覚。いつの間に再婚? しかも元嫁? という反応も嬉しいばかり。いやあ、おめでたい。

 

今年もイシツ人インタビューをどうぞよろしくお願いいたします。
イシスでイシツな皆さまの2021年に幸多からんことを!

  • 羽根田月香

    編集的先達:水村美苗。花伝所を放伝後、師範代ではなくエディストライターを目指し、企画を持ちこんだ生粋のプロライター。野宿と麻雀を愛する無頼派でもある一方、人への好奇心が止まらない根掘りストでもある。愛称は「お月さん」。