百合の葉にぬらぬらした不審物がくっついていたら見過ごすべからず。
ヒトが繋げた植物のその先を、人知れずこっそり繋げ足している小さな命。その正体は、自らの排泄物を背負って育つユリクビナガハムシの幼虫です。

コミュニケーションデザイン&コンサルティングを手がけるenkuu株式会社を2020年に立ち上げた北岡久乃さん。2024年秋、夫婦揃ってイシス編集学校の門を叩いた。北岡さんが編集稽古を経たあとに気づいたこととは?
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
イシス修了生によるエッセイ「ISIS wave」。今回は、北岡久乃さんの「仮説」をお届けします。
■■「好きなことは何?」
「編集」は誰もがしていることだけど、私にとっては「好きなこと」であった。
編集学校の入門コース[守]の卒業式となる感門之盟に参加して、10日ほどたったころ。一緒に[守]を学んだ夫に、柿の種の袋を開けながら「好きなことは何かと聞かれたら、なんて答えるの?」とたずねた。
これまで同じ質問をされたときに、相撲をみる、和菓子を食べるなど、好きなカテゴリーを並べていたが、最近、そう答えることに虚しさや違和感を感じるようになった。山ほどあって全部いえないからだ。夫はどうしているのか気になった。
「考えること、になる」
夫は短い空白のあと、そう答えた。
「本を読む、音楽を聴く、美術館にいく、美味しいものを食べる、そういうのはもちろん好きだけど、なんのためかといえば『そこから何かを考える』のが好きだからだと思う。時々質問されることがあるけど……結局、そう答えている」
なるほどと思った。そして私も同じだ、と思った。
[守]には38の稽古があり、回答すべてに師範代からの指南がある。ある時、私の回答に師範代から「仮説を立てて考えている」というコメントがあり、その後も時々登場するようになった。
ふと「私ってそんなに、仮説、考えているのかな」と思い、回想すると、結構な頻度で仮説だしをする自分に気づいてしまった。
電線のカラスをみて「コンビニの前で食べている人のパンを狙ってるな」、駅前のパチンコ屋を覗き込み「在宅勤務者のサードプレイスに加わったかも」、朝に抹茶を一服し「コーヒーより覚醒作用高いのでは」、ハニワ展では「古墳を作っていた土師氏の祖先は相撲の神様か……もしかして古墳のモデルは土俵!?」
商品開発・戦略づくりが仕事なので、仕事の中で考える時間は長いし、仮説をつくる機会も多い。ただそれは、仕事としてやることだと思っていたし、普段の生活で意識したことはなかった。しかし私は、朝から晩までやっていたし、少々度を越しているとも思った。
夫も私も、考えること、仮説をつくることが好きで、日常になっているのだろう。そして考えること、仮説をつくることは「編集」そのものなのだから、夫も私も「編集が、好き」といってもよさそうな気がする。
柿の種は一粒も残ってなかった。「私たち、考えるのが好きだから結婚したのかな」という私の微妙な問いに「そう、かもしれない」と夫は真面目に答えてくれた。
これからは、好きなことも、結婚した理由も、すっきり答えられそうだ。
▲2024年11月、山口情報芸術センターで開催された「Yamaguchi Seasonal 2024 without records」を訪れた久乃さんの夫君、菅原洋平さん(54[守]生成りなのに教室)。美術展でも「考える」。
文・写真/北岡(菅原)久乃(54[守]サルサしかかり教室、54[破]はばたけ御伽衆教室)
編集/チーム渦(羽根田月香、角山祥道)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-09-02
百合の葉にぬらぬらした不審物がくっついていたら見過ごすべからず。
ヒトが繋げた植物のその先を、人知れずこっそり繋げ足している小さな命。その正体は、自らの排泄物を背負って育つユリクビナガハムシの幼虫です。
2025-08-26
コナラの葉に集う乳白色の惑星たち。
昆虫の働きかけによって植物にできる虫こぶの一種で、見えない奥ではタマバチの幼虫がこっそり育っている。
因みに、私は大阪育ちなのに、子供の頃から黄色い地球大好き人間です。
2025-08-21
橋本治がマンガを描いていたことをご存じだろうか。
もともとイラストレーターだったので、画力が半端でないのは当然なのだが、マンガ力も並大抵ではない。いやそもそも、これはマンガなのか?
とにかく、どうにも形容しがたい面妖な作品。デザイン知を極めたい者ならば一度は読んでおきたい。(橋本治『マンガ哲学辞典』)