『キャラ者』は、”マンガ家”だった頃の江口寿史の、(まとまった作品としては)ほぼ最後の仕事。恐るべきクオリティの高さで、この才能が封印されてしまったのはもったいない。
「来年こそはマンガ家に戻ります!」と言ったのは、2016年の本の帯(『江口寿史KING OF POP SideB』)。そろそろ「来年」が来てもいいだろう。

コミュニケーションデザイン&コンサルティングを手がけるenkuu株式会社を2020年に立ち上げた北岡久乃さん。2024年秋、夫婦揃ってイシス編集学校の門を叩いた。北岡さんが編集稽古を経たあとに気づいたこととは?
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
イシス修了生によるエッセイ「ISIS wave」。今回は、北岡久乃さんの「仮説」をお届けします。
■■「好きなことは何?」
「編集」は誰もがしていることだけど、私にとっては「好きなこと」であった。
編集学校の入門コース[守]の卒業式となる感門之盟に参加して、10日ほどたったころ。一緒に[守]を学んだ夫に、柿の種の袋を開けながら「好きなことは何かと聞かれたら、なんて答えるの?」とたずねた。
これまで同じ質問をされたときに、相撲をみる、和菓子を食べるなど、好きなカテゴリーを並べていたが、最近、そう答えることに虚しさや違和感を感じるようになった。山ほどあって全部いえないからだ。夫はどうしているのか気になった。
「考えること、になる」
夫は短い空白のあと、そう答えた。
「本を読む、音楽を聴く、美術館にいく、美味しいものを食べる、そういうのはもちろん好きだけど、なんのためかといえば『そこから何かを考える』のが好きだからだと思う。時々質問されることがあるけど……結局、そう答えている」
なるほどと思った。そして私も同じだ、と思った。
[守]には38の稽古があり、回答すべてに師範代からの指南がある。ある時、私の回答に師範代から「仮説を立てて考えている」というコメントがあり、その後も時々登場するようになった。
ふと「私ってそんなに、仮説、考えているのかな」と思い、回想すると、結構な頻度で仮説だしをする自分に気づいてしまった。
電線のカラスをみて「コンビニの前で食べている人のパンを狙ってるな」、駅前のパチンコ屋を覗き込み「在宅勤務者のサードプレイスに加わったかも」、朝に抹茶を一服し「コーヒーより覚醒作用高いのでは」、ハニワ展では「古墳を作っていた土師氏の祖先は相撲の神様か……もしかして古墳のモデルは土俵!?」
商品開発・戦略づくりが仕事なので、仕事の中で考える時間は長いし、仮説をつくる機会も多い。ただそれは、仕事としてやることだと思っていたし、普段の生活で意識したことはなかった。しかし私は、朝から晩までやっていたし、少々度を越しているとも思った。
夫も私も、考えること、仮説をつくることが好きで、日常になっているのだろう。そして考えること、仮説をつくることは「編集」そのものなのだから、夫も私も「編集が、好き」といってもよさそうな気がする。
柿の種は一粒も残ってなかった。「私たち、考えるのが好きだから結婚したのかな」という私の微妙な問いに「そう、かもしれない」と夫は真面目に答えてくれた。
これからは、好きなことも、結婚した理由も、すっきり答えられそうだ。
▲2024年11月、山口情報芸術センターで開催された「Yamaguchi Seasonal 2024 without records」を訪れた久乃さんの夫君、菅原洋平さん(54[守]生成りなのに教室)。美術展でも「考える」。
文・写真/北岡(菅原)久乃(54[守]サルサしかかり教室、54[破]はばたけ御伽衆教室)
編集/チーム渦(羽根田月香、角山祥道)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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