橋本治がマンガを描いていたことをご存じだろうか。
もともとイラストレーターだったので、画力が半端でないのは当然なのだが、マンガ力も並大抵ではない。いやそもそも、これはマンガなのか?
とにかく、どうにも形容しがたい面妖な作品。デザイン知を極めたい者ならば一度は読んでおきたい。(橋本治『マンガ哲学辞典』)

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
基本コースの[守]を終えたばかりの佐藤雅子さん。佐藤さん一家が守るのは、神武天皇の伝承の残る古社・等彌(とみ)神社です。その神社で30年以上続いている「大學百合祭り」の歴史と展示を、編集的視点で紹介してくれました。
■■「アドヴァンテージは誰のもの?」
夏になると、奈良・桜井の等彌神社の境内には、真っ白な百合が咲き誇ります。「それを愛でましょう」という思いから始まった私祭「大學百合祭り」は、毎年8月に行われ、昭和62年より30年以上続いています。
この百合は、3人の作家の縁が咲かせているのかもしれません。
等彌神社は、神武天皇の伝承の残る古社で、『延喜式』(平安時代中期)にその名が見えます。奈良・桜井生まれの評論家・保田與重郎(1910~1981)は、当社の氏子のひとりです。保田は等彌神社の歴史的な重要性を認め、戦中に書かれた『鳥見のひかり』の中でも触れています。
▲奈良・桜井市の等彌神社。ここでエディットツアーも開催された。
詩人の佐藤春夫(1892~1964)が当社を訪れたのは、昭和38年のこと。保田與重郎の縁でした。ところがその翌年、佐藤春夫は急逝します。そののち、この詩人を偲んで、当社境内に句碑が建立されたのですが、その序幕式に列席したのが、詩人の堀口大學(1892~1981)でした。佐藤春夫の親友である彼は、除幕式で涙したと伝わっています。さらにその後、堀口大學の句碑が、当社境内に作られました。前宮司が御礼にと、堀口大學の葉山(神奈川)のご自宅へ伺った際に頂戴したのが、百合の種でした。
そうです、あの百合です。保田與重郎→佐藤春夫→堀口大學という不思議な縁で結ばれた三間連結が、百合を咲かせていたのです。
等彌神社に縁のある3人の文学者。この三位一体を生かせないものかと、昨年2024年より、「大學百合祭り」の期間中、「文豪3人展」と銘打って、3人の本はもちろん、手紙や書の額等の展示を社務所で行っています。
今年は、堀口大學の翻訳詩集『月下の一群』の刊行100年という記念すべき年です。そこで、大學翻訳の詩集、物語等を中心に陳列することにしました。実はそのひとつとして、松岡正剛校長の千夜千冊『月下の一群』のコピーと、同作を収録する『千夜千冊エディション 源氏と漱石』(角川ソフィア文庫)を展示します。
これは54[守]の学衆(進塁ピーターパン教室)だった娘・奈都子のアイデアです。松岡正剛事務所の方にもご快諾いただき、保田與重郎→佐藤春夫→堀口大學→松岡正剛、ともうひとつ、不思議な線を引くことができました。
私も、娘に影響され、55[守]で学びました。
「[守]を受講して、日本語の表現の豊かさを感じ、思考が180度変わった」と喜ぶ娘に、半信半疑だったのですが、[守]を終えてみて、私自身も今まで感じたことのない「言葉の持つ力」を感じるようになりました。
例えば、堀口大學のこの詩。「挑戦状」という最晩年の詩です。
「挑戦状」
M・Oさんに
あなたは今年十九歳
短大二年の花乙女
軟式テニスの名選手
僕は来年九十歳
与門大學老詩生
軟式ポエムはお手のもの
スピンの利いたこのサーヴ
バックラインで受け止めて
ドライヴかけて打ち返えせ
アドヴァンテージは誰のもの?
(堀口すみれ子『虹の館 父 堀口大學の思い出』かまくら春秋社より)
堀口大學が亡くなる1か月前、葉山の自宅を訪れたテニス部の女子短大生に贈った詩です。短大生から「一緒にテニスをしましょう」とラケットが届き、それが嬉しくて作った詩だそうです。
最後の一文、《アドヴァンテージは誰のもの?》は、これまで意味が掴めませんでしたが、最近、19歳をはぐらかすことなく、ひとりの女性にしっかり向き合っているということでは? と気づきました。ここには、大學先生の「粋」や「豊かさ」、「大らかさ」が表れています。
本を開くと、文豪3人の言葉は今も生きていました。
文/佐藤雅子(55[守]花相コロニー教室)
写真/佐藤奈都子(54[守]進塁ピーターパン教室)
編集/チーム渦(角山祥道)
◆イシス編集学校 第56期[守]基本コース募集中!◆
稽古期間:2025年10月27日(月)~2026年2月8日(日)
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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2025-08-19
エノキの葉をこしゃこしゃかじって育つふやふやの水まんじゅう。
見つけたとたんにぴきぴき胸がいたみ、さわってみるとぎゅらぎゅら時空がゆらぎ、持ち帰って育ててみたら、あとの人生がぐるりごろりうごめき始める。
2025-08-16
飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。