とみ山の神の社にひと集ふ【エディットツアーJapans 奈良】レポート

2024/11/22(金)08:00
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 エディットツアーJapans in 奈良「万葉浪漫・短歌をつくって編集を学ぼう」にご参加いただいた皆さん、素敵な場所をご提供いただいた等彌(とみ)神社の皆さん、関係者の皆さん、ありがとうございました。
サポートとして準備から参加した53破学衆の登田一穂さんによる振り返りレポートです。

 

万葉集ゆかりの奈良・桜井の地で

 

 11月9日、土曜日の朝、等彌(とみ)神社の境内、晩秋の空気が澄み渡るなか、編集の型を楽しみながら学ぶための短歌と編集のワークショップの準備が始まりました。
 ナビや進行をつとめるのは松井路代、登田信枝、矢倉芳夫、いずれも奈良在住の師範代です。

 このワークショップのために用意された短歌の本、編集にまつわる本が並べられ、会場設営が静かに進められます。

 

 

 木々に囲まれた神社の境内は、少し肌寒くも心地よい空気に包まれ、秋の訪れを感じさせます。色づき始めたもみじが穏やかな彩りを添えています。

 

参道から少し離れた拝殿横の控え室へと続く道のり

 

ピラカンサスをはじめとする秋の草花は登田師範代の自宅の庭から

 

ワークショップスタート

 実をつけたピラカンサスが飾られ、控えめながらも鮮やかな華やぎが、歌の創造を促すような空気を漂わせるなか、14時、ワークショップの時刻が訪れます。
 集まった参加者が車座でテーブルに着くと、発起人である登田師範代の明るい挨拶とともにワークショップがスタートしました。

 

自己紹介も編集だ

 

 和やかな雰囲気のなか、松井路代師範代が編集と短歌の魅力を語ります。
 そして、名前、住まい、そして「本日ここへ至る道中で印象に残った出来事」の三点でというお題仕立ての自己紹介の時間となります。

京都、兵庫からも参加

 

 「七五三の装いの子供たち」、「落とし物のお財布の話」、「通りすがりのお店」など、印象的な出来事から面白い出来事まで、色とりどりの世界の切り取りがまるで紅葉のように現れ、場がほころびます。柔らかな序章が、短歌を創る準備です。

 虫の音、鳥の声、そして時折、矢倉芳夫師範代がシャッターを切る音が混じる中、全員の編集がスタートです。

 

直感での歌選びはその人らしさが

 

 もう一つのウォーミングアップは、音読です。室内に並べられたさまざまな短歌に関する本たちから、参加者それぞれが本を手に取り、ピンときた歌を音読します。パッと出会った歌とのコラボです。
 偶然出会った一首が、それぞれの心に響き新しいインスピレーションを生みだし、誰かが歌を紹介すると、それがまた別の参加者の記憶にある風景と重なり、自然と共感の輪が広がっていくようでした。

 

連想ワーク

 

 いよいよ本編、「連想シート」を使ったワークが始まります。

 歌につながる自由な連想が、心から自然と湧き上がるように設計されたシートに、キーワードから連想したホットワードを書き入れていきます。この日のキーワードは「秋」。「気持ち」「もの」「五感」「景色」、そして「自由に加えたもう一つ」の切り口で、連想の羽を伸ばし、自身の中から引き出していきます。

 

「秋といえば…」で言葉を集める

 

 みんなでシートを見せ合い共読すると、秋ならではの「香り」や「色彩」に注目したもの、あるいは「内面の深みを映し出すような言葉」が飛び交います。それぞれのワードは参加者同士の視点の違いを浮かび上がらせ興味深く映ります。

 

 このワークで生み出されたホットワードという生き物たちを組み合わせ、入れ替え差し替えしながら歌が形どられていきますが、その前にもう一つ、小さい子の遊びのようなワークがはさまれます。『カット編集術』のワークです。

 

カット編集術

 

カット編集術シート

 

 4つの簡単な絵が描かれたコマを並べ替えて、小さな物語を作り出すこのワークは、頭の中に浮かぶさまざまなシナリオを楽しみながら形にしていく編集稽古です。

 どの順で並べ替えるかによって物語の展開が変わり、まるで映画の編集のような感覚に一心不乱に取り組みます。
 短歌で重要な「見立て」の力を呼び覚ますことで、次の短歌を作る助走となっていきます。

 

言い換え、入れ替え、短歌を創る

 

 ワークショップもいよいよ終盤に入り、短歌を創るメインワークが始まります。

 ここまでの編集ワークで集めたワードたちを「要約シート」に書き出しながら、「五七五七七」のリズムに乗せて組み上げていきます。

伝えたい景色、気持ちのワードを選びだす

 

 顔を上げると、みな無心に指折り数える姿が見えました。思わず笑みがこぼれます。

 お茶の時間となったので、登田師範代と一緒に、秋をかたどった和菓子とほっとするお茶をそっと出しました。誰もが言い換えや入れ替えの渦の中、それどころではない様子です。

 

 

秋の色、秋の形の和菓子

 

 鳥たちの囀りが室内の張り詰めた静けさの中にアクセントを添え、秋空には等彌山に住む鳶が長閑にゆったりと旋回しています。生き物の日常と対比的に、初めての編集・短歌体験という非日常の遊びに夢中です。

 

 松井師範代が、一人ひとりが歌に込めたいメッセージを聞き、最後の仕上げをアシストします。こうして出来上がった短歌を、それぞれが短冊に清書し、ようやくほっといき、お茶の時間となりました。

 一人ずつ発表していきます。音読されることによって、その人だからこそ感じ取った季節感や願い、アイデアが、リズムに乗って踊り出します。

 情緒豊かな歌、映像が浮かぶようなリアリティのある歌、皆さんの個性が存分に発揮され、室内にどよめきと拍手が起こります。笑顔が満ち、時間を忘れるようなひとときが流れていました。

6枚の短冊が並んだ

 

短冊を手に

 最後に、全員で記念撮影を行いました。短冊を手に笑顔で創作の喜びを共に分かち合う一瞬が切り取られます。

 

前列中央でワークシートを手にしているのがナビを務めた松井師範代

  ワークショップが終わり日常が戻った神社の静寂のなか、卓上に飾られたピラカンサスの赤い実が、まるで短歌の響きを浴びて一際色づいたかのように感じられます。

 

 みんなの魅力が言葉を通して等彌神社の空へ溶け出す素敵な時間、それぞれが新たな自分の側面を見出したそんな一日でした。

 

境内を歩きながら名残を惜しむ

 

編集って面白い

 

「とみ山の 神の社に ひと集い 歌をささげて 幸い増やす」

 

 登田信枝師範代はワークショップを即興の短歌で締めくくりました。

 この日、短歌を通して広がった編集という魔法。その空気感が、ご覧になっているこれから編集を学びたいとお考えの皆さんへも届き、「自由な編集の世界」の魅力を感じるきっかけとなりますことを願って。

 

編集は 思ったよりも 自由だよ 型が引き出す 新たなきみを(登田一穂) 

 

文:登田一穂

協力:松井路代、登田信枝

写真:矢倉芳夫

 


 

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