中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
                                                                                
        
        
        
                        
                イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
イシス編集学校の応用コース[破]では、3000字の物語を綴ります。格別の体験であり、特別の経験です。
イシス修了生による好評エッセイ「ISIS wave」。62回目の今回は、「物語編集術」の稽古の過程で新しい「わたし」を発見した、中山香里さんのエッセイをお届けします。
■■物語の稽古、祖母の書
 長かった今年の夏がようやく終わった。海水浴や花火大会などのイベントに縁がない私は、初秋のやわらかい日差しとひんやりとした風を思い浮かべながら、暑いだけの日々をじっと耐えていた。ただ、いつもの夏と少し違ったのは、はじめて3000字の物語を書いた、ということだった。
 [破]の物語編集の稽古でアリス大賞をいただいた時は、全くと言っていいほど実感が湧かなかった。しかし、大人になると評価をいただく機会すら貴重なもの。講評をありがたい気持ちで読み返しながら「リアルな質感、空気感を持った」という評にふと我に返り、「自分の文章が纏う質感や空気感とは、どんなものなのだろう?」という疑問が浮かんだ。それを掴むためのヒントを得たいと、とにかくいろいろな小説を読んでみようと試みる。ぼんやりとした感想しか出てこないときは、自分に対して心底がっかりしたが、仕事帰りの電車の中でとある短編集を読んでいるとき、ぽろぽろと涙がこぼれたこともあった。そうして心が動いた瞬間をていねいに集め、並べ直したり視点を変えたりすることで、少しずつ「自分らしさ」がわかってくるのかもしれない。「ん? それって結局型を使うってことか」と、予期せず原点に戻っていることに気づく。
▲とある短編集、吉本ばななの『ミトンとふびん』(幻冬舎文庫)
 そういえば、[守]の稽古の終わりに師範代から薦めていただいた千夜千冊は、篠田桃紅の『桃紅 私というひとり』だった。実際に書籍を購入して読み、やさしさの中に凛とした雰囲気がある彼女の文章に惹かれ、いつしか憧れの対象になっていた。自分と通じるところがあって選んでいただいたのかな、と想像してはうれしい気持ちになる。著書を読み返しながら、昨年亡くなった祖母も書を楽しんでいたことを思い出す。
 暑さが和らいできた頃、実家の倉庫で祖母の作品を探してみることにした。埃を払いながら正方形の箱を開けると、白い色紙に白い糊のような画材で描かれた作品が出てきた。文字の上から金色の粉が振りかけられ、「楽康」という文字が浮かび上がっている。
はじめて見る言葉だったので調べてみると、中国の詩集『楚辞』に収録されているフレーズで「たのしみやすらぐ」の意味をもつらしい。ストイックなところがあった祖母にしてはおおらかな言葉だ。どんな意図でこの二文字を描いたのかはもう分からないが、自分なりにこの作品を解釈してみることにした。肩の力を抜いて、心の機微を味わう。まっさらな紙の上で、きらきらと光る金色の粒のように。
やけに重厚だった額縁もシンプルなものに変えて、部屋に飾ってみよう。硬くなっていた頭の片隅に、あたらしい響きがじんわりと沁みていく。仮留めのままでも進んでいけば、稽古で出会ったたくさんの型と言葉が助けてくれるかな、と思った。
▲蓼科湖畔にて。中山さんの中に去来するものとは?
                            
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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2025-10-28
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2025-10-20
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