あちこちの小さな花を見つけに――グッビニ由香理のISIS wave#64

2025/11/19(水)08:30 img
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 56[守]蓮華ソーソー教室師範代のグッビニ由香理さんは、普段は英国で暮らすヨガ講師です。編集学校の奥に見え隠れする小さな花に誘われ歩み続けるうちに、あることに気づきました。

 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
 イシス修了生によるエッセイ「ISIS wave」。今回は、現役師範代のグッビニ由香理さんが注目するセンサーについてのお話です。

 

■■「師範代になるための5つの条件」に惹かれ

 

 「師範代になるための5つの条件」。花伝所ガイダンスで聞いた時、全てに心惹かれた。松岡正剛校長がかつての[花伝所]の入伝式で語ったこの5つだ。

 

1.センサーをあける

2.日本語をつかう

3.得意も不得意もはらむ

4.フェチのフィルターをつくる

5.細部につよくなる

 

 師範代になるつもりはなかったが、とっても気になった。自分には無理だろうと思いながらも[花伝所]に来てしまったのは、「本当の私」が、わたしの本心を観て知っていたからなのかなと、ふと思う。

 

 センサーは「見えない世界」を見るための方法だ。見えないところにこそ真実がある。ヨガや瞑想で「Energy flow where attention goes/意識を向けたところにエナジーが流れる」と、師匠から教えられた。意識を向けた時、「見る」は「観察」になる。ヨガやジャーナリング(書く瞑想)で内観をすることも観察である。自分なりに習慣にしているささやかな自己対話であるが、これでわたしの心はとてもリラックスする。

 [守][破]を通じて、なんでもお見通しだった師範代の目はたしかにセンサーだと思った。この「観察」の目がとても大事だと[花伝所]で再認識できたことは、自分に変化をもたらしたと思う。見たいものを見る時、「意識を向ける」こと。そうすればそこにあったものに新たな彩りが現れるからだ。

 

 

 

▲内観をテーマにしたジャーナリングのノート

 5つの条件をクリアするのは「自分」だっだ。

 「自分とはこんなもの」と思う「自分」とは、いったいどれくらい本当なのだろう? [花伝所]ではワークを通して今まで気づかなかった自分と向き合うことになった。

 さまざまな「自分」を30個以上列挙する《たくさんの「わたし」》という編集稽古がある。[守]のあとに再びやってみると、全然違う「自分」が出てきて不思議に思ったことがある。今ならわかる。思考する《地》が変わったのだ。

 今いる英国で、外国人として暮らしていると、自分を不足の多い人だと思うことがよくあった。「イギリスを地にした私」と「日本を地にした私」。場所によって、奥ゆかしかったり、大胆だったりと変容する。まるで1枚のコインの裏表のようだ。

 海外の人の多くは、日本の「癒し」や「調和の精神」に憧れをもち、それに触れたくて日本を訪れる。三段論法的に言えば、私にもそんな美点があるということだ。日本を離れて「見る」ことは、自分を「知る」ことでもあった。彼らにはないものが自分には「ある」という見方と自負が生まれた。

 モノや出来事が情報の多面体であるように、不足も創(きず)も美しさも含んだ「わたし」も、かなりの情報多面体だった。それぞれの情報体が、互いに関係線を引きながら常に相転移しているのだと、[守][破]、そして[花伝所]を経て、日本語という言葉を介して実感するようになった。自分の不足こそ生かせるもの。

 自分が置き去りにしていたものに光を当てると、それは悦んで動き出す。そんな不思議なエナジーが心に湧いてくるようになった。

 

 まだまだ成長したい。

 56[守]師範代として、そう思う。

 わたしにはわずかだけれど実感がある。センサーをあけて、観察(意識)の目を向ければ、そこにある小さな花は鮮やかさを増していく。「意識する」とは温かな光線を作ることだ。小さな花を鮮やかにしていく光だ。目を開いて、置き去りにした「わたし」のひとつひとつも掬っていく。豊かなエナジーの彩を重ね、これからもずっと、あちこちに咲く花を感じていきたい。

 

▲イギリスの秋晴れ。ウィンザー城近くの赤ポスト。頭上には偶然のヤドリギ。

SNSから流れてくる情報を鵜呑みにするだけでは、世界はどんどん狭くなる。いや、悪くなる。では、世界の広さ、多様さを知るにはどうしたらいいか。ただ見回すだけでは足りない。センサーを全開にする必要がある。グッビニ由香理さんは今、[花伝所]を経て、師範代としてセンサー全開で世界を見ているようです。センサーをあければ、入ってくるものも多い。世界の素晴らしさをグッビニさんは私たちに教えてくれています。

文・写真/グッビニ由香理(53[守]なんでも軽トラ教室、53[破]アガサ・フィーカ教室)

編集/チーム渦(大濱朋子、角山祥道)

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

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