ロジカルシンキングの外へ――竹廣克のISIS wave #68

2025/12/20(土)11:04 img
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曖昧さ、矛盾、くねくね、非効率……。どれもこれも、ビジネスシーンでは否定されがちです。それよりもロジカルに一直線。社会の最前線で闘ってきた竹廣克さんならなおさらのことです。
ところが、イシス編集学校の[守][破]で学んでみると、何かが変わりました。

 

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。イシス修了生による好評エッセイ「ISIS wave」、今回は竹廣さんの変化の軌跡をお届けします。

 

■■書架の中身がガラッと変わった

 

大学卒業してからずっと国家公務員として働き、5年前に転身して、今は企業側から政策立案に関わっています。ジェネラリストとしての職業人生を歩んできましたが、若い頃、物理学者を夢見ていたのもあり、専門家や何かを極めた人にずっと憧れがありました。このままでいいのかな? そんなモヤモヤを抱えた中、何か変わるきっかけになればと思い、えいやっ、とイシス編集学校の基本コース[守]に申し込みました。今秋、応用コース[破]までやり終えたところです。
まず自分に変化が現れたのは伝える力だと感じています。[破]でいじりみよの型(文章を組み立てる型)を学び、そして文体やオノマトペの豊かさを体感したことで、文章力が高まった気がします。[破]では、生まれて初めて物語創作にも挑戦しました。あまり小説を読まない私がアリストテレス賞一席を取れたのは本当に驚きでした。人前で話す機会も良くあるのですが、編集稽古のおかげか、苦手意識が少し薄まりました。でも、最も大きな収穫は、そうした技術や型の習得よりも、考え方自体が変化したことだと思ってます。[守]のミメロギアなど、慣れ親しんできたロジカルシンキングの枠を外れたお題に相対し、当初は、戸惑ったというか、正直言うとイライラすら感じてました。でも、師範代の巧みな誘導や仲間たちの頑張りや励ましを通じて、気がついたらそんな感情もどこかに消えてコースを走り抜けていました。

 

[守]と[破]を終えてみると、法律や政策を扱う仕事柄のためか、無意識のうちに、人や話をロジカルかどうかでフィルタリングしてきたとふと気がついたんです。もちろんロジックも大切なのですが、それ以外認めないという固定観念がこびりついていたんだと思います。それが稽古を通じて少しずつ溶けていくにつれて、人との会話がスムーズになり、自分と世界の関わりがより複線的でインタラクティブになった気がしています。これまでスーッと通り過ぎていた風景や人々が心に引っ掛かるようになった感じでしょうか。スーパーで見かける商品名をみて感心したりとか、ふと目にした言葉の語源が気になったりとか、そこにあるものよりないものが気になったりとか。些細な差なんですが、大きな変化な気がしています。

 

興味の範囲も大きく広がりました。必ずしも専門家でなくてもいい。むしろ、たくさんの私を抱えて、自分を様々な異質に開き変化を楽しむべき。これが私が編集工学から受け取った一番のメッセージです。私の本棚には、以前は仕事関連の本ばかり並んでましたが、今は、歴史、哲学、文学、さらには、生物学や認知科学まで、興味が飛び出し始めています。大型書店に行くと、ほぼすべてのフロア・コーナーに行かなければいけないのでとても時間がかかります。読みたい本が増えすぎて時間が足りず、焦りすら感じます。

 

この変化を今の仕事にどう活かすかは、私に課せられた新しいお題だと思っています。どんな効果が現れるのか、それとも堅い世界の中であえなく撃沈するのか、どちらであったにしても、その過程と結果を楽しみたいと思っています。

▲イシス編集学校で学ぶ前と学んだ後の書架の違いに注目したい。知の広がりは一目瞭然だ。

専門家への憧れを持ち続けていた竹廣さんが、自らを高めるために飛び込んだイシス編集学校で出会ったのは、たったひとつの専門家になるのとは真逆、《わたし》を増やす方法でした。ロジカルオンリー、効率化オンリーで単線的に進んでいっても《わたし》は増えません。複線的にあちこちに寄り道しつつ、師範代や仲間の声を取り込んでいったことで、《たくさんのわたし》になっていくのです。竹廣さんはどうやら、世界を柔らかく捉える方法を手に入れたようです。

文・写真/竹廣克(54[守]半解マイカ教室、54[破]半可タトゥー教室)
編集/チーム渦(角山祥道、大濱朋子)

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。