「本当に歌うの」。41[守]伝習座前夜のリハーサル中、人気のない本楼で吉村堅樹林頭が聞く。
「師範講義では全身で表現するべきだ」。「編集的発見を伝え、笑いもとりたい」。井ノ上裕二師範の決心は固かった。
翌日、講義中に井ノ上は横浜銀蝿の『ツッパリハイスクール・ロックンロール』を歌った。一人の男性の笑い声が小さく響いた。空振りだった。しかし井ノ上は歌を続けなければならない。タバコ臭が本棚劇場のむこう側から漂ってくる。
「面白かったぞ。横浜銀蝿とアフォーダンスとは、あれは発見だな」。本楼裏の喫煙所で、松岡正剛校長が井ノ上に声をかけた。「でもな、あそこで歌う必要はないだろう」。声をあげて笑う松岡校長。
「いえ、ウケたのはあなただけでした」。井ノ上は買い言葉を飲みこみ、「また頼むな」という声がけに頭を下げた。
44[守]伝習座は9月末に控えている。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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