飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。

スニーカーならエアマックス。NBAはエアジョーダン。ダイノジはエアギター。そしてイシスにはエアサックスと呼ばれる男がいる。
感門之盟で音楽を学ぶ卒門学衆としてフィーチャーされたものの、サックスの演奏が未熟だったため、校長から吹かないで持ってるだけにしてとディレクションされたことから、「エアサックス」の愛称がついた。49[破]学衆・ヤマネコでいく教室、加藤陽康。これは3度目の正直ならぬ3度目の突破にかける若者の4ヶ月に渡る編集稽古のドキュメントである。
彼には教えられない。この子は忍耐が全くない。
ダークサイドは全てを曇らせてしまう。未来が見えなくなるんじゃ。
年末年始、エアサックス加藤は暗黒面に落ちていた。親子応援団からも励まされたにも関わらず、彼は一切の稽古を行っていなかった。クロニクル編集術は途中放棄。物語編集術は翻案対象の映画を『スター・ウォーズ エピソード4』に決めただけで、何も進めていなかったのである。
編集天狗と約束をしていた1月10日の前日、エアサックス加藤はいつもの開き直った態度でメールを送りつけてきた。
編集についても音楽についてもそうですが、数寄に向かったはずが折り合いが想像以上に悪い場合、自分は膨大な余白期間をつくる傾向にあるようです。それは宇宙船に例えればある惑星に突入したものの環境に適応しかねて再度飛び立ち、惑星の周回軌道に乗るような。
膨大な余白というのは、稽古を進められるように仮説を立てた末に書道を始めるような本末転倒的長大さのことです。つまり稽古の進捗を告白すると、何の回答も出来ていません。
かくして10日16:30、加藤は豪徳寺に現れた。来るなり直立不動で、天狗とオネスティーに深々とお辞儀をする。「申し訳ありません」。編集天狗は、言い訳を聞かなかった。ただ、加藤が選んだスター・ウォーズの伝説のジェダイ、ヨーダの言葉を引いて手渡した。「ヨーダは諦めの早いルークに、なぜフォースの力を信じないのじゃと言って嘆いた。エアサックス加藤! 君にはこの言葉を贈ろう。『なぜ、コースの力を信じないのじゃ!』。ごたくはいい。回答をしろ!稽古すりゃいいんだよ。今日はやるまで帰るな」。
エアサックス加藤は、24時というタイムリミットを示され、そこまでストップウォッチを持って監禁監視されての編集稽古に臨んだ。やるか、さもなければやらないかなのだ。何が必要かはすでにエアサックス加藤自身が分かっているはずだった。
「できたのか」「できました」「じゃあ次30分でやって」「できたのか」「すみません。あと15分です」「できたのか」「はい、あと5分です」。24時のタイムリミット。エアサックス加藤は物語編集術のお題を3つ回答した。さて、エアサックス加藤はAT賞にエントリーできたのか?
やり遂げた感を出している加藤に天狗は、絶対にエントリーだけはするのだと厳命し、予祝の言葉を与えた。
May the Course be with you コースと共にあらんことを。
・・・・・5days after. エアサックス加藤、エントリー。コースが一人の落ちこぼれエディストに微笑んだ。
【エアサックス加藤の三度目の突破】バックナンバー
■【エアサックス加藤の三度目の突破09】ダース・カトウの再生はなったのか?
■【エアサックス加藤の三度目の突破08】嗚呼!エアサックス母子応援団
■【エアサックス加藤の三度目の突破07】波乗りエアサックスの慢心を諫める
■【エアサックス加藤の三度目の突破06】たくさんの天狗とたくさんのわたし
■【エアサックス加藤の三度目の突破05】歴史的快挙そして新たなる野望(本記事)
■【エアサックス加藤の三度目の突破04】守の型を使い尽くすべし
■【エアサックス加藤の三度目の突破03】心がわりの相手は君に決めた!
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
ISIS co-mission対談|「きらめく星座」音楽の力 こまつ座代表井上麻矢×イシス編集学校学長田中優子
こまつ座の舞台「きらめく星座」を巡る、ISIS co-missionの井上麻矢(こまつ座代表 )と田中優子(イシス編集学校学長 )による特別対談がイシスチャンネルで公開されました。 太平洋戦争を舞台に、さま […]
エディットリアリティーの森【松岡正剛 revival 03】
2024年8月12日、イシス編集学校校長の松岡正剛が逝去した。エディスト編集部では、直後に約1カ月にわたる追悼コラム連載を実施。編集学校内外から多数寄せられた松岡校長の面影は、1年経ってもなお鮮明だ。まるでその存在が読む […]
2024年8月12日、イシス編集学校校長の松岡正剛が逝去した。エディスト編集部では、直後に約1カ月にわたる追悼コラム連載を実施。編集学校内外から多数寄せられた松岡校長の面影は、1年経ってもなお鮮明だ。まるでその存在が読む […]
2024年8月12日、イシス編集学校校長の松岡正剛が逝去した。エディスト編集部では、直後に約1カ月にわたる追悼コラム連載を実施。編集学校内外から多数寄せられた松岡校長の面影は、1年経ってもなお鮮明だ。まるでその存在が読む […]
【プレスリリース】編集工学研究所、「松岡正剛 Re-Edit Project」始動。未公開講義録の集成など、知の再編集プロジェクトを一周忌に発表。
編集工学の創始者・松岡正剛の一周忌を迎える2025年8月12日、編集工学研究所(東京都世田谷区/代表取締役社長 安藤昭子)は、「松岡正剛 Re‑Edit Project」を始動します。このプロジェクトは、松岡が遺した文章 […]
コメント
1~3件/3件
2025-08-16
飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。
2025-08-14
戦争を語るのはたしかにムズイ。LEGEND50の作家では、水木しげる、松本零士、かわぐちかいじ、安彦良和などが戦争をガッツリ語った作品を描いていた。
しかしマンガならではのやり方で、意外な角度から戦争を語った作品がある。
いしいひさいち『鏡の国の戦争』
戦争マンガの最極北にして最高峰。しかもそれがギャグマンガなのである。いしいひさいち恐るべし。
2025-08-12
超大型巨人に変態したり、背中に千夜をしょってみたり、菩薩になってアルカイックスマイルを決めてみたり。
たくさんのあなたが一千万の涼風になって吹きわたる。お釈迦さまやプラトンや、世阿弥たちと肩組みながら。