教室は灯衝(ニューロン)する

2025/12/25(木)19:00 img
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モニターの光の中に、教室の仲間たちの言葉が浮かび上がる。ペンを握り、それをノートに書き写していく。言葉が生まれるまでのプロセスや想像力が、指先から伝わってくる。

 

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56[守]第一回番選ボードレールは盛況のうちに幕を閉じた。お題となる漢字一字と、もう一字とを組み合わせ「新しい熟語と読み」をつくるという、言葉遊びを競った。学衆たちは三度、五度、ときには十度も回答を提出し、その都度、師範代の指南を受けては再考する。多くの場合、傑作はそうした推敲の果てに生まれる。

 

しかしときおり、稽古に出遅れながら、たった一度の回答で、目を見張る成果を上げる学衆がいる。半ちらつもり教室の最年少学衆のTがそうであった。

 

たとえば、[灯衝]という熟語を生み出し「ニューロン」と読ませてみせた。同朋衆(選者)を務めた師範の福澤美穂子から、「連鎖して発火する情報の受け渡しを捉え、生命に学ぶ編集工学の真髄に迫った」と最大級の賛辞を受け、「発光の小宇宙賞」を授けられた。その他にも、エントリー作品のほとんどが入選や入賞となり、「賞という評価軸」においては、抜群の結果だった。

 

担当師範代の後藤有一郎は、Tの大躍進を我がこととして歓喜した。そのあとで、ふと呟く。「指南ナシでの受賞だから、師範代の力は必要なかったか」。たしかに、その眩い受賞作品たちを眺めると、難なく大事を成す天才の所業である……かにみえた。

 

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番ボーの講評に沸いた、翌週のこと。半ちらつもり教室ではオンライン汁講が行われた。学衆と師範代は、稽古開始から2ヶ月を経て、はじめての対面を果たした。

 

たった一度きりの回答での番ボーでの大活躍を祝福されたTは、画面の外からノートを取り出した。開いたページをカメラ越しに皆に向ける。そこには、他の学衆たちの積み上げてきた回答が、ひとつひとつ手書きで書き写されていた。

 

Tは多忙な学生でもあり研究生活によって時間が限られていた。そうした制約のなか、仲間の回答の「写経」を行うことで、お題の特徴や、発想の飛ばし方、ブラッシュアップの方向性を掴んでいったというのだ。書くことを通じて身体化された「方法」によって、短時間に傑作を連発した。

 

ひとりの天才のひらめきに見えたものは、教室での「まねび」と「共読」によるコレクティブ・ブレインの到達だった。

 

ならばTには、後藤師範代の指南が、間接的に何度も届いていたとも言えよう。「学衆の回答」と「師範代の指南」はいつも一組の対に思われるが、宛先を決めず、乱反射して届く回答と指南もあり得るのだ。それは、教室にまたたく[灯衝](ニューロン)だった。

 

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番ボーで傑作をものにするために必要なことは、仲間の回答をまずは「模倣」することであった。なぞることで見えてくる型で、別の情報を「類推」によって動かせば、新しい発見が生まれるだろう。

 

次の番ボーのお題は「ミメロギア」である。古代ギリシアの創作技法「ミメーシス」「アナロギア」からの松岡校長による造語であり、ミメーシスは「模倣」、アナロギアは「類推」を意味している。

 

 

文・アイキャッチ:56[守]師範 阿久津健

  • 阿久津健

    編集的先達:島田雅彦。
    マクラメ編み、ペンタブレット、カメラ、麻雀、沖縄料理など、多趣味かつ独自の美意識をもつデザイナー師範。ZOOMでの自らの映り具合と演出も図抜けて美しい。大学時代に制作した8ミリ自主映画のタイトルは『本をプレゼントする』。

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