3Dアートで二重になった翅を描き出しているオオトモエは、どんな他者に、何を伝えようとしているのだろう。ロジカルに考えてもちっともわからないので、イシスなみなさま、柔らか発想で謎を解きほぐしてください。
モニターの光の中に、教室の仲間たちの言葉が浮かび上がる。ペンを握り、それをノートに書き写していく。言葉が生まれるまでのプロセスや想像力が、指先から伝わってくる。
* * * * *
56[守]第一回番選ボードレールは盛況のうちに幕を閉じた。お題となる漢字一字と、もう一字とを組み合わせ「新しい熟語と読み」をつくるという、言葉遊びを競った。学衆たちは三度、五度、ときには十度も回答を提出し、その都度、師範代の指南を受けては再考する。多くの場合、傑作はそうした推敲の果てに生まれる。
しかしときおり、稽古に出遅れながら、たった一度の回答で、目を見張る成果を上げる学衆がいる。半ちらつもり教室の最年少学衆のTがそうであった。
たとえば、[灯衝]という熟語を生み出し「ニューロン」と読ませてみせた。同朋衆(選者)を務めた師範の福澤美穂子から、「連鎖して発火する情報の受け渡しを捉え、生命に学ぶ編集工学の真髄に迫った」と最大級の賛辞を受け、「発光の小宇宙賞」を授けられた。その他にも、エントリー作品のほとんどが入選や入賞となり、「賞という評価軸」においては、抜群の結果だった。
担当師範代の後藤有一郎は、Tの大躍進を我がこととして歓喜した。そのあとで、ふと呟く。「指南ナシでの受賞だから、師範代の力は必要なかったか」。たしかに、その眩い受賞作品たちを眺めると、難なく大事を成す天才の所業である……かにみえた。
* * * * *
番ボーの講評に沸いた、翌週のこと。半ちらつもり教室ではオンライン汁講が行われた。学衆と師範代は、稽古開始から2ヶ月を経て、はじめての対面を果たした。
たった一度きりの回答での番ボーでの大活躍を祝福されたTは、画面の外からノートを取り出した。開いたページをカメラ越しに皆に向ける。そこには、他の学衆たちの積み上げてきた回答が、ひとつひとつ手書きで書き写されていた。
Tは多忙な学生でもあり研究生活によって時間が限られていた。そうした制約のなか、仲間の回答の「写経」を行うことで、お題の特徴や、発想の飛ばし方、ブラッシュアップの方向性を掴んでいったというのだ。書くことを通じて身体化された「方法」によって、短時間に傑作を連発した。
ひとりの天才のひらめきに見えたものは、教室での「まねび」と「共読」によるコレクティブ・ブレインの到達だった。
ならばTには、後藤師範代の指南が、間接的に何度も届いていたとも言えよう。「学衆の回答」と「師範代の指南」はいつも一組の対に思われるが、宛先を決めず、乱反射して届く回答と指南もあり得るのだ。それは、教室にまたたく[灯衝](ニューロン)だった。
* * * * *
番ボーで傑作をものにするために必要なことは、仲間の回答をまずは「模倣」することであった。なぞることで見えてくる型で、別の情報を「類推」によって動かせば、新しい発見が生まれるだろう。
次の番ボーのお題は「ミメロギア」である。古代ギリシアの創作技法「ミメーシス」「アナロギア」からの松岡校長による造語であり、ミメーシスは「模倣」、アナロギアは「類推」を意味している。
文・アイキャッチ:56[守]師範 阿久津健
阿久津健
編集的先達:島田雅彦。
マクラメ編み、ペンタブレット、カメラ、麻雀、沖縄料理など、多趣味かつ独自の美意識をもつデザイナー師範。ZOOMでの自らの映り具合と演出も図抜けて美しい。大学時代に制作した8ミリ自主映画のタイトルは『本をプレゼントする』。
タイムキーパーは原田淳子、ビデオカメラマンは中村麻人だ。 これは、56[守]創守座の裏方の布陣である。イシス編集学校をよく知る者には、[破]講座を統括する原田学匠、花伝所で辣腕を振るう中村師範といったほうが […]
情報は番(つがい)で創発する。 「一種合成型」を用いた「番選ボードレール」を走り抜けた翌日、本楼では、56[守]の指導陣の勉強会「創守座」が開催されていた。 「一種合成型」とは、ラジオとカセットをかけ合わせ […]
俳句・根本対同・ミメロギア──56[守]創守座 用法3解説に寄せて
飛び込む水の音がしたときに、蛙の姿はもうそこにはなく、春の古池だけが残っている。 俳句とは、読み手のなかに「蛙」を鮮やかに想起させる「アブダクション」でできている。俳人でもある師範の一倉広美は、[守]の用法 […]
半歩で躓く者こそが、入門するに相応しい。 イシス編集学校では、入門前の「お試し稽古」として、編集力チェックという企画があり、誰でも無料で参加することができる。 ◇◇ 開講したばか […]
55[守]の各教室で汁講(しるこう:師範代と学衆の集い)が行われている。2025年8月、山派レオモード教室でもオンラインの稽古場を飛び出し、東所沢の角川武蔵野ミュージアムにて汁講が開催された。田中志穂師範代、学衆6名、筆 […]
コメント
1~3件/3件
2025-12-23
3Dアートで二重になった翅を描き出しているオオトモエは、どんな他者に、何を伝えようとしているのだろう。ロジカルに考えてもちっともわからないので、イシスなみなさま、柔らか発想で謎を解きほぐしてください。
2025-12-16
巣の入口に集結して、何やら相談中のニホンミツバチたち。言葉はなくても、ダンスや触れ合いやそれに基づく現場探索の積み重ねによって、短時間で最良の意思決定に辿り着く。人間はどこで間違ってしまったのだろう。
2025-12-10
マンガにおける短詩系文学といえば四コママンガということになるだろう。四コママンガに革命をもたらした最重要人物の一人である相原コージは、そのものズバリ『漫歌』をものした。