38[花] 瀬戸際の密談

2023/01/17(火)09:37
img

瀬戸際に立つ入伝生に師範代認定を出すか否か。

 

2022年の年の瀬、キャンプを終えた38[花] 花伝所では指導陣が集い、熱く、けれども繊細な交し合いが行われた。効率性、コスパ、スキル、資格の有無といった一定の評価軸を持つ一般社会と隔する編集学校の評価は多様で多層だ。師範代認定の際に届けられる評価の言葉は、すべてオーダーメイドで、複数の師範の目からみた個々の強みも弱みも丸ごと記されている。入伝生がユニークネスを発揮して、この先歩み続けることを願い、同時に、その活躍が編集学校の厚みになると思えばこそ。指導陣は入伝生のどこに、どんなメトリックをおいて見ているのか。

 

「発言量はダントツ。文章を書く力はある」
「バランスが良い」
「やわらかい応接が持ち味」
「安定した指南が書ける」
「労力を惜しまない」

 

コミュニケーション力、式目の修得力、表現力、察知力、行動力、それぞれの特性を様々な視点から見ていく。発せられるのは肯定的な言葉だけでない。

 

「今のままじゃ場を任せられない」
「わからないことから逃げる癖がある」
「連想が広がりにくい」
「正解主義の傾向がある」
「フィードバックが浅いよね」

 

未知へ挑むカマエ、回答を面白がれる柔軟さ、そして不足や矛盾を受け止める受容力を厳しく見極める。編集学校の主軸を担う師範代には、正解を求めるのではなく、学衆と共に言葉にまみれ、違いの豊かさに興じて欲しい。師範たちの声にはそんな念(おも)いが込められ、ここから一気に指導陣の“不足からの編集”が始まった。

 

「伸びしろのある大学生をどう活かすか」
「どんな条件をつければ課題が乗り越えられるのか」
「錬守(師範代登板直前に行われる指南訓練)でクリアできるだろうか」

 

どの段階に可能性を託すのか、今とこの先を見据え、最後はどうやって引き上げるのかを考える。

 

たとえば海を渡るには“瀬戸”を越えたかどうかという一線があり、四十里五十里の道にも度を越せたかどうかということがある。これは長きも短きも同じことで、その「渡」を越したかどうかを体や心で分かるべきなのである。

千夜千冊 443夜 『五輪書』宮本武蔵

 

花伝指導陣にとって、また入伝生にとって師範代というロールは一つのターゲットではあるが、ゴールではない。式目演習・錬成・キャンプを経て放伝、師範代認定、師範代エントリー、そしていよいよ師範代登板…

節目は、次のとば口となり、物語は続いていく。編集道の“瀬戸”となる師範代認定や課題クリアの条件を届ける方法も一律ではないのがおもしろい。一人ひとりに伝えたいことが伝わるためにツール選びにもこだわった。個別にメールを届け、文字でじっくり読んでもらったり、田中晶子所長が電話で丁寧に評価を伝えたり、Zoomで師範を交えて対話を重ねたり。相手のさしかかりに向かう力を慮り、様々な手立てでアフォードを試みる指導陣の編集は尽きることはない。

 

武蔵は人生にも「渡」があって、その「渡」が近いことを全力で知るべきだと言っている。それがまた短い試合の中にも外にもあって、その僅かな瞬間にやってくる「渡」にむかって全力の技が集まっていく。

千夜千冊 443夜 『五輪書』宮本武蔵

 

新春に18名の入伝生に師範代認定が届けられた。いよいよ、師範代として瀬戸を渡る時がきている。

 

文 松永惠美子(錬成師範)
アイキャッチ 阿久津健(花伝師範)

 

【第38期[ISIS花伝所]関連記事】

38[花] めでたい「しるし」が刻まれる時

38[花] キャンプファイヤー 言葉をくべる

38[花]花の盛り・盛りの花 キャンプ開宴

38[花]道場生の刀・刀の道場生

38[花]仮想教室名で跳んでみる

38[花]全身全霊の錬成へ

38[花]胸騒ぎな「存在のインターフェイス」

38[花]一目ぼれの電圧を測る

38[花]フラジャイルな邂逅

38[花]集団の夢・半生の私 編集ニッポンモデルへ

38[花]膜が開く。四色の道場
松岡校長メッセージ「イシスが『稽古』である理由」【38[花]入伝式】

38[花]わかりにくさに怯まない 型と概念と問いのガイダンス

38[花]プレワーク 10の千夜に込められた[花伝所]の設計

  • イシス編集学校 [花伝]チーム

    編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。

  • 42[花] 問答条々 動き続ける花伝所の3つの「要」

    2024年10月19日(土)朝。 松岡校長不在で行われる初めての入伝式を、本棚劇場のステージの上から校長のディレクターチェアが見守っている。   「問答条々」は、花伝式目の「要」となる3つの型「エディティング・ […]

  • 41[花]過去のことばを食べたい 『ことば漬』要約図解お題

    飴はアメちゃん、茄子はなすび、お味噌汁はおつい。おさない頃はそんなふうに言っていた。方言の音色に出会うとドロップのように口にして、舌でころがしたくなる。とくに、秋田民話をもとにした松谷みよ子さんの『茂吉のねこ』は、どの […]

  • 41[花]花伝的レミニッセンス(2)

    学び(マテーシス)は想起(アムネーシス)だと喝破したのは哲人ソクラテス。花伝所の式目演習にも、想起をうながす突起や鍵穴が、多数埋め込まれている。M5と呼ばれるメソッド最後のマネジメント演習には幾度かの更新を経て、丸二日間 […]

  • 41[花]花伝式目のシルエット 〜立体裁断にみる受容のメトリック

    自分に不足を感じても、もうダメかもしれないと思っても、足掻き藻掻きながら編集をつづける41[花]錬成師範、長島順子。両脇に幼子を抱えながら[離]後にパタンナーを志し、一途で多様に編集稽古をかさねる。服で世界を捉え直して […]

  • 41[花]花伝的レミニッセンス(1)

    今期も苛烈な8週間が過ぎ去った。8週間という期間はヒトの細胞分裂ならば胎芽が胎生へ変化し、胎動が始まる質的変容へとさしかかるタイミングにも重なる。時間の概念は言語によってその抽象度の測り方が違うというが、日本語は空間的な […]