話すことがいけないかのように扱われている
44[破]伝習座の冒頭、原田学匠は言葉にする。2020年5月20日、初の緊急事態宣言の中、不安と閉塞感に取り囲まれていた頃だ。シーンと静まりかえった街並みとともに、物語りが奪われてしまったことへの、編集的世界観からの挑発だった。
「一年たった今もその状態がつづいている」
46[破]伝習座で、原田学匠はそうくりかえさざるを得なかった。マスクをしても「お話をお控えください」と言われ、職場でも距離をとり対話も気軽にできない。まるで話すことがいけないかのようになってしまった。
編集稽古でデモンストレーションを
3度目の緊急事態宣言下で、出口のなくなった言葉や対話はどこにいったのか。
「編集稽古に向かっている」と原田学匠はいう。
それほど稽古に向かう学衆のやる気やアウトプットへの気持ちがめざましく、今期の驚異の知文AT賞エントリー率は、エディストのニュースにもなったほど。
そもそも生命も部屋も思考も、エントロピーの増大によって無秩序な状態へ向かってしまうもの。命あるものが熱死に向かうのも、ベイトソンの娘が問うたように部屋がゴチャマゼに散らかるのも、ある情報を思い浮かべた途端に連想が次々に生まれてしまうのも、そのためだ。放っておくと情報はどんどんゴチャマゼになっていく。
そうした中で、生命系がエントロピーを増大させないようなしくみをつくったように、編集稽古のシステムによって、学衆はカオスな状態を編集し、アウトプットする。エントロピー増大がとまらない状況の中、編集稽古によって「負のエントロピーを食べている」ともいえるだろう。
伝習座冒頭には、原田学匠のはからいで松岡校長の講義映像が共有された。「デモンストレーション」に向かう[破]に込められたメッセージの一端があかされている。
校長は千夜千冊で駆けつける
伝習座と同日、松岡校長は術後まもない中、最新の千夜千冊を公開した。
胸が痛い。息切れもする。左肺上葉の腺癌を取った。ゴールデンウィーク直前の午後一番の手術で、緊急事態宣言が再発令された日だ。ぼくはスタッフたちに送られて「島流しに行ってくるね」と笑った。
(1771夜 アンリ・セルーヤ 『神秘主義』の冒頭より)
伝習座には不在であっても、千夜千冊をもって駆けつける。身をもってクロニカルに千夜をあらわす。松岡校長から[破]学衆・師範代へ向けられたエールの一夜でもあるだろう。
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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