「枯山水」に「落語の扇」
「月見うどん」に「ごっこ遊び」
どれも身近な「見立て」である。
「見立て」は、日本で古くから培われてきた方法の代表格だ。イシス編集学校の松岡正剛校長は、「見立て」をはじめとする「日本という方法」をとびきり重視している。そのことは、同名の著書の他、『日本流』『面影日本』『日本文化の核心』『日本的文芸術』といった日本関連タイトルの充実にもあらわれている。実際に、編集工学の概念や編集術の源の多くは「日本という方法」にある。
2022年6月4日(土)、49[守]の第2回伝習座に指導陣が集う。速修コースは2週目を過ぎ、定常コースは最初の番ボーを終えた時期である。守の講座は用法2から用法3へ、中盤から終盤へ。教室模様も勧学会のモードも、全19教室それぞれが千差万別な変化のプロセスにある。
19教室のうち12名の師範代が本楼に集った。日本で最初の非常事態宣言から約2年を経てリアル会場も徐々に賑やかに。
伝習座に先立ち、師範代はこれまでの教室の稽古ぶりをレポートとしてアウトプットする。今期は尾島可奈子師範の提案で「今の教室や勧学会の動きを何に“見立てる”か」という問いが新たに加わった(ちなみに「見立て」とは、これから出題される用法3のお題の一つでもある)。
伝習座のコーナーの一つ「49守エディットNOW」では、師範代からのレポートを受けて、鈴木亮太師範が19教室の「見立て」や稽古ぶりを6つに分類し、それぞれの教室や師範代の可能性を言葉にした。以下、師範代からの「見立て」と共に鈴木師範の言葉とそこに添えられた学林局のメッセージを紹介したい。
1.解釈のための「見立て」ではなく、飛躍のための「見立て」へ
■きのこ狩り:相部礼子師範代(忖度しないわ教室)
■国体解体後のJR九州:齋藤彬人師範代(赤いランドセル教室)
■引っ越ししたての家:西村宜久師範代(ニシダ鳥肌教室)
<鈴木師範>
この3人は、「今を説明するための見立て」ではなく「見立てによって遠く行こう」と挑戦をしている。その心意気をぜひ最初に紹介したかった。
<吉村堅樹林頭>
松岡校長は、以前の講義で「“見立て”によって自分がのれる状態をつくるといい」と言っていた。読書でも「アスリートのように本を読む」「大好きなワイングラスをくゆらせるように飲む」「ゆったりとお湯につかるように読む」といったように見立てをいかすといい。
2.カマエを変えれば時間も編集できる
■いろいろな年代のいる小学校の仲間:古澤正三師範代(脱皮ザリガニ教室)
■渡り鳥:三浦純子師範代(ピッピ乱反射教室)
■じっくりコトコト煮込みはじめのスープ:辻井貴之師範代(渇望ネオモード教室)
<鈴木師範>
師範代は、時間のやりくりに苦労することは珍しくない。時間編集に向き合う師範代たちの中で、再登板の辻井師範代は、カマエをかえることで「時間編集」のやり方が変えられることを示している。
<佐々木千佳局長>
指南の遅れを気にする師範代は多いが、学衆さんは師範代がお題を出すだけで既にそれに応えたくなる。そういう仕組みがイシスにはある。この伝習座の場に「居合わせる」だけでも掴める速度や質が変わっている。師範代は、教室で起こることから学ぶ学習者であってほしい。
鈴木師範は担当教室を持たない師範として19教室全体の模様をキャッチする。師範代からレポートの届く6月1日からわずか3日間のうちに、19教室を6分類に組み立てた編集力の持ち主である。イシスロールとは約10年ぶりというギャップを感じさせない用意・卒意に、松岡校長も「120点」と称賛した。
3.「私の教室」→「教室の私」で変化を起こす
■(充実の稽古をする学衆さんたち):滝沢章師範代(切実ゲノム教室)
■運動会:安田晶子師範代(キジトラ疾走教室)
■地域の劇団:野住智惠子師範代(男装いとをかし教室)
■カフェの厨房:福井千裕師範代(きざし旬然教室)
<鈴木師範>
この4人は「私の教室」ではなく「教室の中の私」という方々。教室のありようから自分の行動や言葉を変えようという姿勢が印象的。ぜひこれからも取り組みつづけてほしい。
<八田英子律師>
49[守]の師範代や初登板の師範代は「今」しかできない機会。学衆も変化が起こせるように、勧学会にも晴れ舞台のような設えがあってもいい。
4.「問い」を立てること
■いろいろな山のトレッキング:宮坂由香師範代(感応おにぎり教室)
■船頭が乗客の顔色をうかがう渡し船:小松原一樹師範代(八段プラモデル教室)
■町内初企画のお祭明けの月曜日:森重実師範代(配線うなる教室)
<鈴木師範>
この3名からは、受容の指南から「問い」を発する指南へ変えていきたいという思いを感じた。「問い」を発するのは、その場で言い切らずに待つことでもあり、実はとても勇気が要ることに挑まれている。
5.「機」を捉えて踏み込む勇気
■編集的世界への冒険へと繰り出した旅の仲間:寺田悠人師範代(アニマ臨風教室)
■カフェ:三津田恵子師範代(かく書く然り教室)
■できたての少年野球チーム:船山一樹師範代(三叉毘沙門教室)
<鈴木師範>
このグループの師範代は「機」を捉えて踏み込んでいくことを意識している。「問い」を立てるのにも勇気が要るが、「待つ」ことにも勇気が要る。講座の後半も勇気を持って踏み込んでいってほしい。
6.「勧学会」もハンドリングできる師範代が仕事でも欲しい
■フルマラソンの15キロ過ぎの状況:総山健太師範代(ライ8反攻教室)
■スポットライトが当たる一人芝居がいくつも行われている状況:古谷奈々師範代(にじゆら発色教室)
■連凧:大塚信子師範代(唐傘さしていく教室)
<鈴木師範>
最後は、勧学会への注意のカーソルが向かう3名。教室によっては学衆さんの回答のペースが分かれてくる中で、やはり共読する場」にしたいと思うもの。その中で勧学会はパワーを持っている。
仕事をしていると、チームに師範代がいたらいいなと思うことがよくある。それは、教室ができるだけでなく勧学会ができるだから。勧学会の編集にもどんどんチャレンジしてほしい。
<吉村堅樹林頭>
用法3の方法語りでは加藤めぐみ師範から「世界を編集する」という話があった。いってみれば編集学校の一つの「世界」。もちろん思った通りに世界(教室)は動かないけれど、世界をどう編集するかをつくっていくのが師範代ロールではないか。
本楼のある編集工学研究所の1階〜2階の階段には49[守]の全19教室のフライヤーが並ぶ。フライヤー制作をした春の頃から、既に「たくさんの教室」は予告されていたのだった。
今日の伝習座では、編集工学の奥の奥をひもとく「用法語り」に実践的指南モデルを学ぶ「指南語り」、師範が自ら編集工学クロニクルを語る「編集道」。松岡校長による『知の編集工学』講義が予定されている。
今回の守の師範代に先駆けて、松岡校長が自ら筆をとった「伝習座」の書。
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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