【86感門】「いろは型かるた」制作秘話

2025/03/15(土)23:27
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色は匂へど 散りぬるを 〜Open Perspective〜

 

「い」

色は何色?

わけてあつめて

虹となる

 

[用法1]わける/あつめる

 

2025年3月15日、桃や梅が春の到来を告げる季節。第86回感門之盟「EDIT SPIRAL」の会場である本楼のあちこちで、さまざまな絵柄のかるたが咲き乱れている。このかるたは、イシス編集学校で学ぶ方法の「型」を48枚に込めた、方法の花々である。

 

 

「かるたをつくりたい」 ―― いろは型かるたのもととなる「種子」となったのは、うごめきDOHATZSU教室の学衆のなにげないつぶやきだった。このちいさな種子を両手でつつみ育み、気がつけば54[守]全員が参加する「いろは型かるた」づくりの大樹へと誘ったのが、木村昇平師範代であり、紀平紀子師範だった。

 

学衆の思いを受け取った木村師範代は、教室の勧学会で「いろは歌」にちなんだお題を発信。学衆は喜んで次々と回答をしていく様子に、紀平師範はいろは歌かるたの枚数である「48」に[守]の「型」を分類。学衆全員が教室や別院でかるたづくりに参加できる場をつくった。

 

あちこちの教室がお題に興じる日々のスタートである。気がつけば種子は芽吹き、方法の枝葉が伸びはじめていた。

 

 

できあがったいろは型かるたを両手にする紀平師範。「かるたづくりをなぜ54[守]全体でやろうと考えたのか」と問うと、「田中優子学長が2023年の『編集宣言』で紹介していた、「場」を「集」として編みなおす江戸時代の方法を実践したいと思ったんです」と朗らかに語った。

 

 

我が世誰ぞ 常ならむ 〜Imaging Network〜

 

「る」

ルーペ越し

織りなす宇宙の

交響曲

 

[用法2]つなぐ/かさねる

 

イシス編集学校でまなぶ「情報編集のプロセス」では、情報を集めた次のステップとして、情報を組み合わせて、新しい意味や価値を生み出していく。

 

教室・別院での稽古を経て、「48」の読み札が集まった。次に取り掛かったのが、この読み札と一対になる「取り札(絵札)」づくりである。10名を超える師範・師範代と学衆がペアとなり、学衆がつくった読み札(文字)に込めた思いやイメージを、取り札(絵)へとメディア変換していく。拡散しがちなイメージをギュッと要約していく指南が多かったようだ。読み札の情報をストレートに表現したものもあれば、意外なヴィジュアルになったものもあった。

 

ここで登場したのが、デザイナーであり、今回の感門之盟のダブロイドデザインを一手に引き受けた阿久津健師範。漫画やイラストが得意な細井あや師範代とともに、次々と出来あがるビジュアルイメージをいきいきと彩っていった。

 

ペアにすることで、読み札だけでは気づかなかった新たな「型」のシソーラスが見えてきた。枝はさらに伸び、青々とした葉が茂っていく。

 

タブロイド編集のデザイナー阿久津師範(中央)と、かるたレイアウト担当の細井師範代(右)。紀平師範(左)曰く、「かるたづくりも、阿久津師範がいるなら大丈夫!」

 

阿久津師範デザインのタブロイド「EDIT SPIRAL」(右)。全12ページの紙内に、いろは型かるたも掲載されている。

 

 

有為の奥山 今日越えて 〜Analogical Way〜

 

「な」

流れを決めて

社長のつもり

 

[用法3]しくむ/みたてる 

 

情報編集の3段階目は、組み合わされた情報たちを大胆に見立てたり、意外な対角線を引いたり、順序立てたりすることで、構造化していく。

 

いろは型かるたのタブロイドページの編集を担った阿曽祐子番匠は、新たに「クロニクル」という流れと対角線を加えた。[守]のニュースな出来事を収集し、30ほどに厳選。さらに[守]講座の稽古のプロセスそのものが情報編集の4つのプロセス(4つの用法)の流れであることを受け、クロニクルを4つの用法で大胆に分類した。

 

「いろは歌」の順番と、「型」を学ぶプロセスと、[守]講座の流れが立体的に編み込まれたページが完成した。気がつけば青々とした緑の葉のあいだから、鮮やかな朱の蕾が顔を覗かせていた。

 

 

タブロイドのいろは型かるたページの一端。「用法1〜4の分類だけでなく、[プレ54守][ポスト54守]を加えた方がいい、というアイデアは角山祥道によるもの」(阿曽番匠)とのこと。

 

 

浅き夢見じ 酔ひもせず 〜Changing Mode〜

 

「て」

テイスト

編み込み

ドレス着る

 

[用法4]きめる/つたえる

 

情報編集のラストを飾るのは「きめて/つたえる」。同じ料理も盛り付け方や選ぶ食器ひとつでおいしささえも変わってしまう。

 

タブロイドに、カードに、ポスターに。本楼のあちこちにいろは型かるたは一斉に開花した。休憩中にかるたを手に取り静かに稽古を思い返す学衆もいれば。かるたポスターをバックに師範代と写真撮影する姿も。情報が組み合わせによってお互いの関係が変化するように、いろは型かるたは、関わる相手によって表情を変えていた。

 

「京」

京月が

見守り照らす

門出の日

 

[卒門]

 

松岡校長が最後に舞台に立ったのは、2024年4月末、草月ホールでの近江ARS TOKYO「別日本があったって、いい。――仏はどこに、おわします?」。そこで校長がドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダさんに託し、自ら詩をつくったうたは、「近江いろは歌」だった。

 

いろは型かるたの最後の一枚。空に浮かぶ月には校長の顔が。

 

おのれを羽布ぶとんのように軽くする遊星的郷愁をもとめて

ーー松岡正剛『存在から存在学へ』(工作舎)

 

 

  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025