宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。

活きのいい掛け声とともにあらわれたマグロに本楼が歓声に包まれる。巨大なマグロのぬいぐるみと胸元に小さく光るまぐろのピンバッジ。この遊び心と細やかな目配りが稲森久純師範代の真骨頂だ。
近大生ばかり10人の教室で、卒門日までの1週間で181投稿という怒涛の稽古を経て9人が卒門を果たしたマグロワンダフル教室。イシス編集学校はじまって以来の快挙をもたらした教室運営は、一倉広美師範が「自分のやりたいことを捨て、全力で近大生に寄り添ったフライヤー製作で起こったことが、そのままマグロワンダフル教室だった」とたたえる。
大学生である学衆たちが夏休みに入り、たったの8投稿と、師範代の声だけが木霊した」時期は「これ、大丈夫かな…」と思ったというが、学衆は再び教室に集った。「彼氏に嫌われたくない」「スパイスがバチバチに効いたカレーが好き」。マグロワンダフル教室の学衆は学生らしさ全開のいきいきとした言葉とともに回答を届けてくれたという。師範代自身が学衆とのインタースコアを愉しみ、心を込めて指南を届け続けたからだろう。
本楼の裏口から突如としてあらわれたマグロの巨大なぬいぐるみ。運ぶ衣笠景司のシャツは黒潮模様。
マグロはひれの後ろにある「小離鰭(しょうりき)」で小さな潮流を作り、自分の能力を超えた力を発揮する。自力だけで進むのではなく、教室という場の力を借りて前に進むことを体感した大学生たちは、きっとこれからの編集道をその方法を思い出しながら進んでいくだろう。
55[守]という大海原を泳ぎ切った稲森は、ぬいぐるみを大事に抱えなたら、これから社会に出る学衆たちに「マグロワンダフル」という方法とともにエールを送った。
アイキャッチ・写真/福井千裕
文/森川絢子
森川絢子
編集的先達:花森安治。3年間毎年200人近くの面接をこなす国内金融機関の人事レディ。母と師範と三足の草鞋を履く。編集稽古では肝っ玉と熱い闘志をもつ反面、大多数の前では意外と緊張して真っ白になる一面あり。花伝所代表メッセージでの完全忘却は伝説。
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2025-09-18
宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。
2025-09-16
「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
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2025-09-09
空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。