空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。

十六夜の満月である9月18日。冠界式にて教室名をもらった54[守]の師範代は10月の開講にむけた「フライヤー制作」のオンラインレクチャーに挑んだ。
イシス編集学校では教室ごとのフライヤーを制作することが8[守]から連綿と続いている。それが師範代として最初の編集力を実践する場となっている。
「そもそも、なぜ教室のフライヤーを作るのでしょうか?」と石黒好美番匠より問われると美濃万里子師範代はすっと手をあげ「教室名をビジュアル化することで目指したい教室をイメージできる」と答えた。20名の師範代で54[守]の地図をつくるのだ。
阿久津健師範は『日本のグラフィック100年』をキーブックにデザインとエディティングをつなぐ方法を編集の型をつかってレクチャーする。”らしさ”や”地と図”など型を使い尽くし、託された教室名を言い換え、コンパイルをすることで見えてくる世界観の断片を拾ってみたり、大枠をがばっとつかまえたりしながら作り出すニューワードが教室名のらしさを浮かび上がらせていく。
さらに教室名の世界観だけではなく「今」という与件も欠かせない。今、世界では何がおきているのか? 2024年10月に開講する54[守]でしか表象できない大きなお題に師範代たちは投げ出されているのだ。
渡辺恒久番匠はジュリーこと沢田研二のレコードジャケット制作をリバースエンジニアリングしていく。1枚のレコードジャケットを作るのに2、3のビジュアルをあつめ、それぞれの要素から”らしさ”を取り出して組み合わせる。百合の花を表現するためにテーブルクロスを切り、縫い合わせて「花びらっぽい」シャツに仕立てるなどビジュアル要素の組み合わせも言葉と同じようにわけて集めていくことから始まっているのだ。
満月を境にして自身の行方をそこにあずけ、その月的なるものの力を借りて一時の充填作業を試みること、これこそが月見でなければならなかったのだ。 『ルナティックス』
充填作業とは欠けているところや空いている空間にものを詰めて塞ぐこと。教室名をコンパイルし、語源からシソーラスを広げていくことで教室名にたくさんの意味や言葉が満たされてきて世界観が広がる。一方でどこかに空所や空間、欠けたモノがふと見える瞬間がある。そこにまだ出逢ったことのない新しい自分の入る余地がうまれ、さらにはこれから迎える学衆の空席が作り出されていくのだ。
満月の夜を境に細井あや師範代より「今朝までに浮かんだイメージをひとまず放ちます」と第一声が届くと、次々に教室名のコンパイルが届き始めた。月が満ち欠けするように要約と連想を繰り返しながら師範代たちは守の型を深く身につけつつ教室名の新しい世界観に出会っていく。
10月の開講時にはたくさんの「月」のように教室名フライヤーが張り出され、月的なるものの力を借りながら守の4ヶ月というお稽古期間をすごす。それぞれの教室が欠けながら満たされていき卒門のころには朧月夜となりそうだ。
文/一倉広美(54[守]師範)
アイキャッチ写真/中村裕美(54[守]師範)
◆イシス編集学校 第54期[守]基本コース募集中!◆
稽古期間:2024年10月28日(月)~2025年2月9日(日)
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu
イシス編集学校 [守]チーム
編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。
55[守]で初めて師範を務めた内村放と青井隼人。2人の編集道に[守]学匠の鈴木康代と番匠・阿曽祐子が迫る連載「師範 The談」の最終回はイシスの今後へと話題は広がった。[離]への挑戦や学びを止めない姿勢。さらに話題は松 […]
目が印象的だった。半年前の第86回感門之盟、[破]の出世魚教室名発表で司会を務めたときのことだ。司会にコールされた師範代は緊張の面持ちで、目も合わせぬまま壇上にあがる。真ん中に立ち、すっと顔を上げて、画面を見つめる。ま […]
55[守]で初めて師範を務めた内村放と青井隼人。2人の編集道に[守]学匠の鈴木康代と番匠・阿曽祐子が迫る連載「師範 The談」の2回目。「師範とは何なのか」――田中優子学長が投げかけた問いが、4人の対話を揺さぶる。師範 […]
師範となる動機はどこにあるのか。師範とは何なのか。そして、イシス編集学校のこれから――。55[守]で初師範を務めた内村放と青井隼人。2人の編集道に、[守]学匠の鈴木康代と番匠・阿曽祐子が迫る3回連載「師範 The談」。 […]
なぜりんごを掲げているのか? 写真に写っているのは、43[花]くれない道場の放伝生と師範陣だ。なぜ感門の場にりんごなのかを知るには、入伝の日まで遡る必要がある。これから始まる訓練に向けて、師範代としてのカマエを作る道場五 […]
コメント
1~3件/3件
2025-09-09
空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。
2025-09-04
「どろろ」や「リボンの騎士」など、ジェンダーを越境するテーマを好んで描いてきた手塚治虫が、ド直球で挑んだのが「MW(ムウ)」という作品。妖艶な美青年が悪逆の限りを尽くすピカレスクロマン。このときの手塚先生は完全にどうかしていて、リミッターの外れたどす黒い展開に、こちらの頭もクラクラしてきます。
2025-09-02
百合の葉にぬらぬらした不審物がくっついていたら見過ごすべからず。
ヒトが繋げた植物のその先を、人知れずこっそり繋げ足している小さな命。その正体は、自らの排泄物を背負って育つユリクビナガハムシの幼虫です。