自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
「鎌倉アカデミア」は鎌倉に、戦後4年9ヶ月間存在した大学です。戦後の荒廃期、あらゆるものを失った日本に、文化や思想を取り戻すべく鎌倉在住の名士らが立ち上がり、作り上げた学びの場でした。
「新しい日本を担う若者を育成する」という理念のもと、多くの人材を輩出しました。いずみたく、山口瞳、前田武彦、高松英郎、沼田陽一、鈴木清順、廣澤榮などの顔ぶれは、モーレツ時代に突入した日本の文化を支えた人材であり、発揮された個性こそがカリキュラムのユニークさを示す顔といえるでしょう。
在野の学者・知識人たちを中心に新設された学校を、二代目校長として引き継いだのが三枝博音でした。この校長は、理想を掲げてリーダーシップを遺憾なく発揮していきました。中でも教授陣と学生が、時と場所を選ばず考えを交わし合うのが日常だった学内風景は、日夜ネット上で交わされるイシス編集学校の教室風景の先取りともいえるでしょう。
類似はそれだけではありません。型を重視するイシス編集学校ですが、実はこれこそが「鎌倉アカデミア」校長・三枝博音から、松岡正剛校長が学んだこと。それまで「日本」を感じ、「日本」と交わってきた松岡校長が、「『日本』を考えるようになったのは、三枝博音の著作集からだった」と語り、「三枝こそが日本思想の本格的発見者だったろうと確信できる」と千夜千冊で語ります。
多くの教員や学生に慕われた三枝ですが、資金供給が途絶えるなどの理由により、惜しまれながらも廃校を余儀なくされました。その後も10年ごとに卒業生を中心に行われてきた周年行事も担い手の高齢化が進み、来年80周年を迎えるはずが今はその準備の気配も見えません。
消えかかった灯火を”勝手”に擬こうと、多読アカデミアの倶楽部【勝手にアカデミア】は誕生しました。鎌倉アカデミアが重視した「体験共有」を現代に再現し、鎌倉アカデミアの4科(文学科・演劇科・産業科・映画科)に分けて、方法的に学び、体験することを旨として活動しています。
そんな【勝手にアカデミア】では、産業科のお題の一環として別典祭に臨みます。《鎌倉アカデミア》《倶楽部らしさ》、そして《鎌倉》という《原郷(トポス)性》を欠かさずに体現するにはどうしたらいいか。そんな「お題」に、学ぶものと仕掛けるものが一緒になって、「よひら組」(勝手にアカデミアの運営陣+読衆の総称)として議論を重ねてきました。
11月23日、24日の別典祭では、これまでのお題をまとめた「お題集」と、12月に鎌倉で開催する「俳句ing」(鎌倉体験+吟行)の参加券を販売します。また2人の校長を表紙(!)にした吟行帖、肖りバッジ(アイキャッチ)も合わせて販売します。中でも、「はとさぶ連衆」(読衆)のおひとりが日本橋の襖専門店に足を運んで選んだ襖紙を帯として巻いた吟行帖は、必見・必携の品。会場にてぜひお求めください。
▲はとさぶ連衆撮影の鎌倉アカデミア写真が添えられた俳句ing参加券
写真・文/勝手にアカデミア・お勝手(原田祥子)
別典祭開催概要
日程:2025年11月23日(日)・24日(月・祝)
会場:編集工学研究所ブックサロンスペース「本楼」(最寄駅:小田急線 豪徳寺駅、東急世田谷線山下駅より徒歩7分)
〒156-0044 東京都世田谷区赤堤2丁目15番3号
https://www.eel.co.jp/about/company
申込(2日間有効):1500円(イシス編集学校受講生、多読アレゴリア参加者含む)/無料(一般の方)
申込方法:https://shop.eel.co.jp/products/tadoku_allegoria_2025bettensai
詳細:https://edist.ne.jp/just/bettensai/
勝手にアカデミア
編集的先達:三枝博音。多読アレゴリアの【勝手にアカデミア】は、鎌倉に生まれた伝説の学校「鎌倉アカデミア」をもどきながら、トポスにトピカ、映画に産業、文学に演劇……などなど勝手に学び、勝手に語らい、勝手に創出する。
【勝手にアカデミア】夏の俳句ingレポ(秋メンバー募集中!)
《念力のゆるめば死ぬる大暑かな》(村上鬼城) なんて物騒な俳句もございますが、仲間がいれば念力いらず、われらが【勝手にアカデミア】(多読アレゴリア)は去る7月27日、酷暑に負けず「鎌倉俳句ing」と洒落込みました。【勝手 […]
戦後すぐに鎌倉にできた伝説の学校「鎌倉アカデミア」。多読アレゴリアの【勝手にアカデミア】では、同校の「学びのモデル」を取り出してきた。25年夏シーズンは、同校の文学科講師、作家の高見順が昭和20年の1年間を綴った『敗戦 […]
夏、高見順の『敗戦日記』を読む【勝手にアカデミア/多読アレゴリア】
戦後80年のこの夏、多読アレゴリアのクラブ【勝手にアカデミア】は、高見順の『敗戦日記』を共読します。 「鎌倉アカデミア」は、戦後すぐ、鎌倉に誕生しました。敗戦で「なにもない」中、人々が欲したのは「知」で […]
【勝手にアカデミア】『鈴木清順エッセイコレクション』×3×REVIEWS
戦後すぐに鎌倉にできた伝説の学校「鎌倉アカデミア」。多読アレゴリアの【勝手にアカデミア】では、同校の「学びのモデル」を取り出してきた。25年春シーズンは、同校の映画科をもどき、卒業生・鈴木清順の方法を共読した。ではいっ […]
【勝手にアカデミア】『三枝博音と鎌倉アカデミア』×3×REVIEWS
松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。 多 […]
コメント
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2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
2025-11-13
夜行列車に乗り込んだ一人のハードボイルド風の男。この男は、今しがた買い込んだ400円の幕の内弁当をどのような順序で食べるべきかで悩んでいる。失敗は許されない!これは持てる知力の全てをかけた総力戦なのだ!!
泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)
2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。