「ピキッ」という微かな音とともに蛹に一筋の亀裂が入り、虫の命の完結編が開幕する。
美味しい葉っぱをもりもり食べていた自分を置き去りにして天空に舞い上がり、自由自在に飛び回る蝶の“初心”って、いったい…。

ようやく「道元の時代」までたどりついた。座衆は心中そう思っているに違いない。
毎月最終日曜のイシスの恒例となっている輪読座が開催中である。昨年10月から始まった「道元を読む」は、来月に最終回を控える第五輪にして、ようやくバジラ高橋の図象に道元のクロニクルが登場した。講座の開始から約5ヶ月が経過してのタイミングである。そのクロニクルも、保元の乱(1156年)、平治の乱(1160年)源平の乱(1180〜1189年)と、道元が誕生する1200年以前の戦乱の連打から記述をはじまっている。
「ここまでやらないと道元はわからない」と、バジラ高橋はその理由を明かす。
道元にとっての仏は、釈迦からはじまり、道元の師匠までずっとつづいてきている。仏のありようは時代によって変動するが、仏たちは常に前の仏を乗り越えようとしてきた。道元も例に漏れずに古仏に学び、古仏を超えるべく編集をしつづけてきた。(バジラ高橋)
この視点で振り返ると、禅の起源のブッダ(第一回)から中国禅始祖の西天二十八祖達磨(第二回)を経て、曹洞宗祖の洞山良价(第三回)、五代十国時代の禅宗五家(第四回)、本日の道元(第五回)へと、座衆が禅をめぐるクロニクルを多軸多層につかめるようにバジラが図象を組み立ててきたことがわかる。
中国と日本では文化の違いがあるように、同じ日本でも穏やかな時代と戦乱の世では生き方が同じではないように、道元の生きた戦乱の日本と私たちの生きる現在とでは状況は大きく異なっている。だからこそ、バジラ自身も道元の編集に肖りながら「道元を読む」をつづけているのである。
そこまで尽くすバジラが何より楽しみにしているのは、道元のエディティングフィルターを踏まえて「今を編集しつづける座衆の姿」なのだろう。
座衆の力作の図象に思わず笑顔がこぼれるバジラ高橋。毎回設けられているワークタイムでは、座集はバジラの図象解説や輪読した『正法眼蔵』の内容を踏まえ、わずか20分足らずで一枚の図へ高速編集する。
バジラ「みんなのほうが僕より図象がうまくなってきていて困るなぁ」
吉村林頭「でも、仏を超えるのが禅ですから」
バジラ「ああそうか。あはは」
『情報の歴史21』より、1150年(左)と1200年(右)のページの一部。この頃日本でも争いと混乱がつづいていたが、反十字軍のエルサレム占領(1187年)やチンギス・ハンの大遠征開始(1208年〜)など、大きな変革が起こっていた。『情歴21』の時代タイトルも、「支配と交易(1000〜1199年)」から「内省か観察か(1200〜1299年)」へうつり、道元の誕生した1200年前後で大きなパラダイムシフトが起こっている。
(撮影:阿久津健)
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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