巣の入口に集結して、何やら相談中のニホンミツバチたち。言葉はなくても、ダンスや触れ合いやそれに基づく現場探索の積み重ねによって、短時間で最良の意思決定に辿り着く。人間はどこで間違ってしまったのだろう。
社会学者・大澤真幸、小説家・村田沙耶香、文化人類学者・今福龍太、翻訳家・鴻巣友季子。
これまで各界のトップランナーたちをゲストに招き、各回オリジナルの講座プログラムを提供し続けてきた多読スペシャルだが、第五弾には、ついにこの人が登場する。元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんだ。
佐藤さんといえば、イシス編集学校の学衆や師範、「遊刊エディスト」の読者にとっては、Hyper-Editing Platform [AIDA]のボードメンバーとして、そして、『読む力』(中公新書ラクレ)の松岡正剛校長の対談相手としてよく知られていることだろう。
松岡正剛・佐藤優『読む力 現代の羅針盤となる150冊』(中公新書ラクレ)
巷間では、月平均300冊を読破するという、驚異の読書量などを指して、知の巨人、博覧強記、歩く百科全書、稀代の読書家などステレオタイプなフレーズで紹介されることが多い佐藤さんだが、その特異なテオリア(観想力)・プラクシス(実践力)・ポイエーシス(制作力)の迫力を適確に言葉にするのは確かに容易ではない。つい紋切り型の形容に逃げたくなる気持ちも分からなくない。
そんな佐藤さんの多読術について、松岡校長ならどんなふうに言いあらわすだろうか。
『読む力』ではこんなふうに喝采している。
佐藤さんは『読書の技法』その他で公開されているように、月平均三〇〇冊を読む猛者だ。ノーテーションもしっかりしているし、エビデンスの点検も怠らない。猛毒ならぬ猛読の持ち主だ。
『読む力』5頁
猛読家の佐藤さんは「書く力」も傑出している。ほぼ毎月のペースで数冊の著作が刊行され、出版業界では「月刊佐藤優」と囁かれるほどの超多作家だ。
試しに、Amazonで「佐藤優」を検索してみよう。すると、今月6月だけでも下記の三冊がぞくぞく刊行されることが分かった。今月の刊行ではないが、今年3月発売の『天才たちのインテリジェンス』(ポプラ新書)では、多読SPゲストの大澤真幸さん、村田沙耶香さんとも対談している。本書は冒頭の一文から「2024年は激動の年になる」と警鐘を鳴らす。
左から佐藤優監修『米ロ対立100年史』(宝島社、2024/6/7)、池上彰・佐藤優など共著『トランプで劇的に復活するアメリカ、劇的に崩壊する世界』(宝島社新書、2024/6/10)、佐藤優・伊藤賀一の共著『いっきに学び直す 教養としての西洋哲学・思想』(朝日新聞出版、2024/6/12)、『天才たちのインテリジェンス』(ポプラ新書、2024/3/6)。
当然、佐藤さんがすごいのは「量」だけではない。松岡校長が脱帽するくらいに「方法」も圧巻だ。その独自のメソッドの駆使によって、佐藤さんのカヴァーする主題は、神学、インテリジェンス、資本論、日本論、読書論をはじめ、自己啓発書やビジネス書、ハルキや猫に至るまで、無限に広がり続けていると言っていいだろう。
佐藤さんご本人の言葉を借りるなら、まさしく「多彩な文体を使い分けて、活字メディアの世界を縦横無尽に駆け抜け」(『高畠素之の亡霊 ある国家社会主義者の危険な思想』新潮選書、14頁)ている。いや、活躍の場は活字メディアに限らない。書籍、ラジオ、テレビ、インターネット、リアルステージと、それぞれのメディアの型に合わせて最大限のパフォーマスを発揮する。
今年1月のNHK「クローズアップ現代」への電撃出演も記憶に新しい。イシス編集学校の基本コース[守]で稽古する編集の型の一つである「3M(メディア・メッセージ・メソッド)」をよくよく熟知しているのだろう。
松岡校長の「佐藤優読み」はこんなふうだ。
松岡 佐藤さんは、いまや誰もが知る思想者であり、あまたの本をお書きになっているのですが、それらを読むたびに感心させられることがあるのです。例えば、NHKブックスの『国家論』を読んだときに、はっと思ったのですが、最初にいまお話しの宇野弘蔵が出てくるんですね。彼の『資本論』の読み方を解読しながら、書いていかれる。つまり、その思想にいつどのように出会い、誰を介して咀嚼し自らのものにしていったのかという事実、原点を常に並走させながら、論を進めていく。社青同の一員となった学生時代の話をされましたが、そうしたバックボーンをきちんと挟んで書ける人は、あまりいないんですね。往々にして、自分が知識を吸収した現場など、五木寛之本の読書遍歴のように隠して(笑)、既知の事実だったように振る舞うか、反対にことさらカッコつけて書くというふうになる。
佐藤優はそうではなくて、一冊一冊の本と向き合ったいきさつごと、書いている。それが、『国家論』というような非常に大きなサブジェクトに向かうときの礎になっているわけで、これには本当に驚きました。その後も、この書き方は一貫していますよね。
佐藤 ありがとうございます。
松岡 それ自体がすごいことであるのと同時に、そこに思想と本との関係性が両義的に暗示されているのに気付いて、またあっと思うのです。要するに、思想も論理も、元をただせばすべて本から出ているわけです。佐藤さんはそれをずっと実践している。本がなければ、人は思想を話すことはできません。
『読む力』36〜37頁
以上の「方法=佐藤優」を圧縮編集して言い換えるなら、「佐藤さんは、マンマシーンシステムごとブラウザを創った。かつ、本に戻しているのが凄い」ということになる。これは、佐藤さんを特別ゲストに迎え、今年4月に開催されたAIDA-OP(アイダオープン)において、松岡校長が語った別ヴァージョンの「佐藤優読み」である。
一方、佐藤さんも松岡校長への友愛(フィリア)を一途に貫き、「(松岡正剛は)百年に一度の天才」であり、その光を継承するために「松岡正剛学を作るべきだ」と提唱している。
◆ ◆
さて、今回の【多読スペシャル】「佐藤優を読む」の開講に向けて、事前に佐藤さんから、大きく分けて3つのディレクションをいただいている。ディレクションというのは、つまり受講を通じて読衆(受講者)に身につけてほしいことの方針である。
その3つとは、「知識を身体化する」「ポリフォニックに読む」「目的論的に思考する」。さらにこの3つを総合するメッセージとして、「始まりと終わりのあいだ」というタイトルがつけられることになった。
3つのディレクションの詳しい解説や、暗示的なタイトリングの意図は、佐藤さん直伝の《オープニング・セッション》までとっておくとして、編集工学の視点から読み解くなら、「始まりと終わりのあいだ」は編集術の「B・P・T(ベース・プロフィール・ターゲット)」の型、多読術の「読前・読中・読後」の型と相似形と捉えることができるだろう。
すなわち、「始まり」と「終わり」をどこに置くかによって、その「あいだ」に浮上するプロフィールや面影、読中体験はいくらでも変容しうるというわけだ。もちろん、「佐藤優を読む」場合も例外ではない。どこを「始まり」とするかが大きな鍵となる。
さらに、今回の「佐藤優を読む」では、開講の「始まり」と「あいだ」と「終わり」に、なんと三回も佐藤さんが生出演するレクチャーが開催される予定だ。「始まり」の《オープニング・セッション》、「あいだ」の《ミッド・セッション》、そして「終わり」の《読了式》である。「あいだ」の《ミッド・セッション》開催は、【多読スペシャル】開講以来、初めての試みだ。
著者と読者がこれほどディープに共読できる機会はめったにない。おそらくは今までにない、未知の読書体験を味わうことができるはずだ。佐藤さんファンの方も、初めて佐藤さんの本を読むという方も、どうぞ奮ってお申込みください。限定30名です。
Info <多読スペシャル>コース 第5回「佐藤優を読む」
【受講期間】2024年7月27日(土)~9月8日(日)6週間
◆7月27日(土)「オープニング・セッション」
講義=佐藤優/読衆とのリアル・セッション
◆8月24日(土)「ミッド・セッション」
佐藤優によるリアル・ディレクション
◆10月13日(日)「読了式」
佐藤優の審査・講評あり
※それぞれ、ZOOMでの参加も可能です。
【受講資格】[破]応用コース修了者
【定員】 30名 ※定員になり次第、締め切りとなります。
【受講料】 99,000円(税込)
※「オープニング・セッション」
「ミッド・セッション」および「読了式」の参加費を含む
金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:夢野久作
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
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