発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

守の全校アワード「番選ボードレール(番ボー)」。
43守の締め切りは暑い盛りの7月7日、103名がエントリーした。
番ボーのお題は「ミメロギア」。2つの情報の間に緊密に引き合う新たな関係を発見する編集ゲームである。
「対比」と「らしさ」が際立っているか、驚きがあるか。師範は同朋衆となってエントリー作品を選好する。自身の好きも大いに持ち込む。
同朋衆の数寄が香る賞名と講評を得た受賞作は、この30作品である。
==43守番選ボードレール 三賞受賞作(敬称略)==
●日傘・下駄◎和田同朋衆選
イメージをふくらませる切れ味のいい見立てを取り上げ、三賞の名には日傘にも下駄にも似合う簪をあしらった。
<玉簪賞>
かくれんぼな日傘・かげふみな下駄(タイガー・リリー教室・佐塚琴音)
・それぞれの機能をあそびに置き換え、誰かの物語を想起させる。
<銀平簪賞>
骨皮の日傘・歯歯の下駄(タイガー・リリー教室・亀野晶子)
・突出する特徴を掬い出し、ユーモラスかつ見事に見立て。
<花簪賞>
絽に日傘・紬に下駄(どろんこコクーン教室・一條恭子)
・アーキタイプに肉迫し、一字に託した麗しい逸品。
●日傘・下駄◎浦澤同朋衆選
日傘や下駄が登場する名作『狐』『たけくらべ』『外科室』を二文字に凝縮し、物語を感じさせる作品に配した。
<銅の月夜賞>
母の日傘・僕の下駄(墨攻センダード教室・田坂州代)
・「母」の面影とそれに連なる「郷愁」を浮かび上がらせる。
<銀の花簪賞>
いとさんの日傘・いたさんの下駄(蓮式パエーリャ教室・尾瀬嘉美)
・二人の優美さと凛々しさ、決して重ならない運命をほのめかす。
<金の秘密賞>
去りゆく日傘・立ちつくす下駄(合成ホロドラム教室・中島紀美江)
・ドラマチックな対比で、ただならぬ来し方行く末を連想させる。
●パスタ・素麺◎井ノ上同朋衆選
想像力で文明と文化の境界にまで迫った作品に、直球勝負で金・銀・銅を贈った。
<銅賞>
展性のパスタ・延性の素麺(中入フラジオレット教室・多良幸恵)
・物質科学で攻めた遊び心のある見事な「見方のサイエンス」。
インダス越えのパスタ・ガンジス越えの素麺(あさってサンダル教室・畑勝之)
・西の文明と東の文化がせめぎ合う壮大な地政学的ミメロギア。
<銀賞>
シェフの気まぐれパスタ・はじめました素麺(仕立屋別人教室・宮澤来美)
・食堂の看板の「あるある」に、鮮やかな対比を見いだした。
辻斬りパスタ・昼行灯素麺(非線形裏番長教室・三澤洋美)
・時代劇のステレオタイプ的シーンの取り込み方が冴えに冴えた。
<金賞>
貝殻リボンアドリア海パスタ・光琳観世竜田川素麺(タイガー・リリー教室・亀野晶子)
・東西のトポスに多重多層に織り成したイメージのタペストリー。
●パスタ・素麺◎石井同朋衆選
託す、見立てる、包含する。日本ならではの方法で関係を掘り出した作品を選好。賞名はその方法に肖った。
<浮かぶ面影賞>
地中海のパスタ・瀬戸内海の素麺(はぐくみ温線教室・石田貴子)
・歌枕のように土地の力を借りて、読み手の解釈を刺激する。
口に広がるパスタ・鼻に抜ける素麺(玄米オキシトシン教室・岩田香純)
・見えない味と香りを想像して、唾液と涙があふれる秀作。
<切り立つ玲瓏賞>
渓流パスタ・滝素麺(中入フラジオレット教室・池野美樹)
・流れの速さとしぶき、映す木々や空まで生かし切った壮快さ。
<深まる豊穣賞>
太陽のパスタ・風の素麺(あさってサンダル教室・羽根田月香)
・風土や人の営みまでも包み込んで凝縮させた。
●蛍・金魚◎山根同朋衆選
新たな関係線を発見すべく冒険的に向かった作品に、発見までのプロフィールを滲ませた冠を添えて。
<おどけてミメロギア・銅賞>
点滅蛍・横断金魚(バニー蔵之助教室・山本朋華)
・蛍と金魚を道路上に踊り出させた痛快なチャーム編集。
<ミメロギアに酔わせて・銀賞>
千鳥足の蛍・頬火照る金魚(墨攻センダード教室・北村彰規)
・儚い命の瞬きに酔いしれる蛍と金魚のらしさを紡ぎ出した。
<ミメロギアはミステリー・金賞>
妖光な蛍・妖艶な金魚(仕立屋別人教室・八木尚子)
・古来より人を魅了してやまない蛍と金魚の謎を際立たせた。
●パン・ペン◎川野同朋衆選
講評に登場したのは3人の妖精。人間の内面までのぞき込んだ作品を目利きし、祝福というかたちで讃えた。
<ピンのお気に入り☆シルバーのペンの祝福>
リビングにあったユダヤ人のパン・屋根裏部屋にあったアンネのペン(仕立屋別人教室・八木尚子)
・「抑制された雄弁なフレーズ」が気持ちや思考を揺さぶる。
<ポンのお気に入り★黄金色のパンの祝福>
ユースフルなミルクパン・マジカルなアップルペン(夢行ワンピース教室・水原三香)
・「パン」「ペン」の再解釈で一対の概念の対照を立ち上げた。
<プン様のお気に入り◎澄み渡る慈悲の祝福>
分け合うパン・貸し出すペン(当方見聞録教室・常盤由枝)
・品物の属性や機能をよく踏まえ、新鮮な関係を発見した。
●サロン・カフェ◎池澤同朋衆選
3Aをエンジンに生み出された作品を選好。特に際立つ方法のらしさを和・洋(仏蘭西)の一種合成で仕上げた賞名で称賛。
<華セラヴィ賞>
高嶺のサロン・路傍のカフェ(中入フラジオレット教室・池野美樹)
・文芸的な芳しさと浪漫に満ちた二文字で麗しく見立て。
<茶々エスプリ賞>
茶室からサロン・茶屋からカフェ(仕立屋別人教室・三浦史朗)
・茶を地とし、往還しながら和魂洋才の景色が立ち上がる。
<智レスポワール賞>
衆知のサロン・周知のカフェ(当方見聞録教室・乗峯奈菜絵)
・網羅と3Aで情報の本来をたぐりよせた。
●サロン・カフェ◎桂同朋衆選
センシティブに違いを魅せた作品を選好。鮮やかな作品とその奥にある方法のらしさが賞名にも花開く。
<多層アラモード賞>
ベルベットのサロン・リネンのカフェ(蓮式パエーリャ教室・徳応学)
・対になる言葉を丁寧に編み上げ抜群のらしさを見出した。
<呵呵オノマトペ賞>
ホホホサロン・フフフカフェ(合成ホロドラム教室・佐藤伸起)
・シンプルなオノマトペで豪胆にイメージを語り切った。
<渦巻ソレイユ賞>
渦潮のサロン・黒潮のカフェ(夢行ワンピース教室・河野仁)
・遠いイメージを原型の対比で結び逢わせた。
●偶然・必然◎白川同朋衆選
方法を使いこなし、かつ、馥郁たるストーリー性を孕んだ作品に作家の「らしさ」を重ねて。
<ブロンズ エドガー・アラン・ポー賞>
罪の偶然・罰は必然(仕立屋別人教室・関 昭美)
・「信賞必罰」が重く響いて、読む者の心にさざ波を立てる。
<シルバー フランツ・カフカ賞>
三日月の偶然・満月の必然(タイガー・リリー教室・槻岡佑三子)
・月の満ち欠けにわれわれが抱くおもかげを思い起こさせる。
<ゴールド セルバンテス賞>
ちぎれる偶然・すげる必然(どろんこコクーン教室・柿沼沙耶香)
・鼻緒で関係線を結び、その後のロマンスさえも想像させる。
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別院に公開された番ボー講評は、ミメロギア作品を輝かせる舞台であり、新たな意味の花園である。加えて師範渾身の編集稽古の場でもある。
石井梨香
編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。
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コメント
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。