【AIDA】KW File.01「埒をあける」

2020/10/24(土)00:00 img
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KW File.01「埒をあける」(2020/10/17.第1講)

本コーナーでは、Hyper-Editing Platform[AIDA]の講義で登場したキーワードの幾つかを、千夜千冊や編集学校の動向と関係線を結びながら紹介していきます。

松岡座長:
とはなにか。これは、僕がほんとうに考えたいことのうちの一つです。

 「埒」はもともと、馬場の周囲に巡らした柵のことをいう。そこから、ものごとの区切り、範囲、限界といった意味が生じた。しかし、我々はふだん「埒があかない」と柵の外でイライラするばかりで、埒そのものについて深く考えてこなかったのではないか。

 松岡座長は、常に「埒」にまなざしを注ぐ。
 1994年に創刊されたプライベート・ペーパー「一到半巡通信」には「埒外案内」というコーナーがあったというし、千夜千冊Webの1001夜から1144夜には「放埒篇」という名前がついている。埒外とはある物事の範囲外のこと、放埒とは囲いから放れ出ることだ。

松岡座長:
埒をあけなければならない。vacantではなく、availableにするということです。
誰かががひょっとしたら座って、また去っていくようなが必要です。

 ここで、松岡座長の著作から、「埒」についての記述をいくつかご紹介しよう。

みんながみんな、手前の埒の開削にとりくみはじめたのである。ここに江戸の感ビジネスの芽が吹いたのだった。(215p)

 ひとつめは、千夜千冊エディション『感ビジネス』
 第二章から第三章にかけて、埒を囲うこと(エンクロージャー)を揺り籠としたグローバル資本主義に、石田梅岩に始まる江戸の「埒をあける」哲学を対比させている。0807夜『都鄙問答』は必見だ。

われわれはいささか自分の使っている意味の生態学を忘れすぎたようだ。これも先日のことだが、アメリカ人に「埒」の説明をしてみた。埒は柵で囲んだ場所のことをいう。欧米ではエンクロージャーに代表されるように、埒を囲んで資本を蓄積するのが常識になっている。しかし日本人は「埒をあける」という方に努力する。そのことを日本も忘れてしまったので、バブルがはじけたのだという説明をした。(105p)

 二つめは『孤客記 背中のない日本』。
 雑誌「エコノミスト」の巻頭言をまとめたエッセイ集で、まさに「ヤバい90年代」の真っただ中に執筆されたものだ。25光年の距離を隔てて、座長の危機感が今に届く。

実は、文化とは埒をあけるためのもの、またすでに埒があいて新たに構成やしくみを変えて発動されていたものだったのです。わかりやすくいえば、文化とは「根まわし」と「埒があく」が別のところに転移されてできてきたものなのです。(268p)

 三つめは、今年の3月に出版された『日本文化の核心』
 引用した箇所の直前に、埒をあけるためにはどうすべきか、という方法論が語られており、3冊の中では最も直截に、埒というキーワードの手すりが提供されているといえるだろう。

 しかし、いずこにも「正解」は存在しない。座長自身が「埒とはなにかを"考えたい"」というのだから、これは[AIDA]を構成するお題であって、Hyper-Editing Platformのなかで深められていくべきキーワードなのだ。内と外とを分断せずにつなぐインターフェイスを「」という。「際」と「埒」との関係も、いつか紐解いてみたい。

  • 加藤めぐみ

    編集的先達:山本貴光。品詞を擬人化した物語でAT大賞、予想通りにぶっちぎり典離。編纂と編集、データとカプタ、ロジカルとアナロジーを自在に綾なすリテラル・アーチスト。イシスが次の世に贈る「21世紀の女」、それがカトメグだ。

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