何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

評匠Kは思い出していた。
物語編集術が佳境である。数多くの様々な思いにあふれる作品が今週末にエントリーされることだろう。自分自身のことを思い出してみると、この物語編集術に4[破]で挑んだ時、物語を創る面白さは感じてはいたものの、松岡正剛の仕事術を学ぶこととうまく紐づけることができていなかったのを覚えている。しかし、今、物語とビジネスが関係ないなんて思う人は、殆どいないだろう。
評匠Kは調べてみる。
出版物のキーワードの出現度を経年で見ることができるgoogleNgamViewerというWebページがある。これを使い、”business storytelling“の出現度を見てみると2000年に入り、徐々に増え始め、2000年代の後半から、増加の割合が大きくなってきていることが分かる。ビジネスで物語を語ることの重要性が高まっているのだ。
評匠Kは考えた。
2000年代は炭酸ガスによる地球温暖化、イスラム原理主義によるアメリカ同時多発テロ事件、高度化した金融工学が引き起こしたリーマンショックなど、企業活動は株主価値を最大化するよう、拡大、成長を目指すのが正解という大きな物語が崩れた時期だ。誰もが納得する物語がない以上、お互いの利害や関係を調整するため、ワールドモデルを自分たちで作り、その中で成功する物語を語っていかなくてはいけなかった。
そして2010年以降もそれまで信じてきた物語がいくつも剥がれ落ち、その下から現れたのは別の顔を持つ物語だ。国家間で、国の中で、組織の中で別々の小さな物語を通して世界を見ていたことがあきらかになり、どちらの物語が正しいのかをあきらかにしようとする暴力も絶えない。
でも、[破]で私たちはクロニクル編集術を通して、自分自身の歴史の見え方が本という世界と化合することで新たな見え方に変化することを実感した。一見反発しあう物語もお互いに重ね合わせることで、新しい世界観を生み出せるはずだ。
その時、物語に大事なのは理念や概念ではなく、具体的なモノ・コトが描かれていることだ。
「国がなくなるという事件はそれほどめずらしくはない。だから国よりも町の方が信用できる。町というものは石やレンガでできているから。そう簡単には消滅しない。国は書類上の約束事に過ぎない、つまり紙でできている」
今期からセイゴオ知文術の課題本になった多和田葉子さんの『地球にちりばめられて』三部作の三冊目の『太陽諸島』で登場人物が発した言葉だ。石やレンガのような手ざわりと重さを持ったモノゴトだからこそ、お互いの見方がモノゴトの何について語っているかを具体的にでき、その違いをみんなでながめることから、語り合う意味が生まれてくる。
評匠Kは切望する。
物語編集術でも、ワールドモデルを史実、現代、あるいは架空の世界であったとしても、手ざわりと重さを持つまでイメージし、言葉にすることで、読み手に信用される世界を作り上げていくことを目指して欲しい。信用できる世界だからこそ、ヒーローの傷や戦いが読み手の世界観に投射されるものになる。
そのように物語れるようになることで、私たちの世界が小さな物語に分解されていくのを食い止め、新しい物語のイメージサークルを広げる方法にすることを目指していきたい。
アイキャッチデザイン:穂積晴明
きたはらひでお
編集的先達:ミハイル・ブルガーコフ
数々の師範代を送り出してきた花伝所の翁から破の師範の中核へ。創世期からイシスを支え続ける名伯楽。リュックサック通勤とマラソンで稽古を続ける身体編集にも余念がない、書物を愛する読豪で三冊屋エディストでもある。
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コメント
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2025-10-02
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2025-09-30
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2025-09-24
初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。