編集かあさん家の千夜千冊『戒・浄土・禅』

2023/01/28(土)08:10
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編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。



 ムナカタシコー

 

 『戒・浄土・禅』を見ながら、「今度のエディションの表紙はムナカタシコーの版画だ」とつぶやくと、近くにいた中3の長男が「もう一回言って。まったく聞き取れなかったんだけど」と言ってきた。
 カバー図版の説明を見ると、やはり棟方志功記念館蔵の「二菩薩釈迦十大弟子」である。
 棟方志功の絵、一度は一緒にテレビで見ている。BSの「又吉・せきしろのなにもしない散歩」で二人が記念館を訪ねていた。青森市を歩いた回で見たのを覚えてないかなと聞くと「そんな気もする、ぐらい」という答えが返ってきた。

 

 時代のイメージ

 

 BSよしもと「又吉・せきしろのなにもしない散歩」は、芸人の又吉直樹さんと作家のせきしろさんが、自由律俳句を作りながら東北を歩く番組である。
 長男、この二人のやりとりが好きで、録画して見ている。
 二、三回に一度は、その土地の作家や画家ゆかりの記念館を訪ねるので、私にとっても見逃せない番組になっている。
 棟方志功の絵を見ると、編集かあさんは昭和を思い出す。家にあった大人向けの文芸雑誌に時々載っていた。懐かしいと話す。こういう会話を通じて、平成後半生まれの長男の「昭和イメージ」が形作られていくのかもしれない。

 

 戒が来た土地

 

 「戒・浄土・禅」は、【日本に広まった時期】という切り口だと、戒が奈良時代、浄土が平安時代、禅が鎌倉時代という三間連結の関係になる。
 長男、うなづきつつも、
 「浄土と禅は知っていたけれど、<戒>は戒律、イスラム教を連想していた」という。
 東大寺の戒壇堂が徒歩圏内にあるが、まだ教えていなかった。
 長男の幼稚園は興福寺の隣で、境内が散歩コースの一つだったから幼いころからお寺には親しんできたが、自分から行ってみようかなと言うようになったのは最近だ。

 失われた七重の塔

 

 冬休みは大安寺に行った。
 人影まばらな境内には授与品のミニだるまがあちこちに置かれている。
 現在はガン封じの寺として知られるが、かつては大官大寺で、奈良時代には887人の僧が起居し、海外からの高僧や賓客を迎える施設でもあった。現在の敷地は往時の4%であるという。
  住宅や畑には囲まれるように在る様子を見て、廃仏毀釈で狭くなったとはいえ今も多くの堂宇を持ち、各地から観光客が訪れる東大寺や興福寺との違いを考える。

 

現在の大安寺境内

 

ミニだるまがあちこちに置かれている


 暗い森を挟んで少し離れたところに七重の塔跡があった。かつては七十メートルもある西塔と東塔が並んでいたという。
 写真を撮っていると、天気雨がふってきた。
 濡れながら、説明書きを読む。
「鎌倉時代に雷で焼けたあとは再建されなかったんだって」。 
 読み終えたころ、雨があがり、東の空に虹が出た。

 

東塔跡から見えた虹

 

 古代を知る

 

 なぜ寺に行こうと思うのか聞いてみると、「古代に興味が出てきたから。あと、お寺は静かで、あまり気合を入れずに行けるから」。
 古代に興味を持つようになったのは、現代をもっと知りたくなったことに端を発しているのだと思う。
 次は、二つの塔が現在も並んで立つ薬師寺と、そのそばの唐招提寺に行ってみようと話している。
 「浄土」を感じるには、加茂の浄瑠璃寺が一番近い。
 「禅」については、京都まで足をのばす必要がある。中世に興味が移ってきたら連れて行ってみよう。

 

info


千夜千冊エディション26

『戒・浄土・禅』松岡正剛著,角川ソフィア文庫

アイキャッチ画像撮影地:興福寺境内(奈良市)

 

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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