同朋衆が魅せる別様の可能性―50[守]

2023/01/02(月)18:17
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 1月1日、新年への願いを想い描きながらおせち料理を堪能した方も多いだろう。おせち料理は、それぞれに願いが込められた食材や料理が重箱で1つに揃うことでできあがる。
 番選ボードレールの講評もおせち料理のようなものである。様々な編集が込められたエントリー作品が同朋衆の手により1つとなる。おせち料理が家庭や店によって異なるように、講評も同朋衆によって編集方針やモードが異なるのだ。

 第1回番ボーで、同朋衆の数寄と編集がギュッと凝縮された賞名を得た受賞作品は19作品。その一部を同朋衆の講評と共に紹介しよう。

 

【弾】堀田幸義同朋衆
講評の先陣を切った堀田は、漢字の「らしさ」を自らも纏いながら、力強くhereからthereを指し示した。

爍金賞:

[弾尽](本当のスタート)(参画さしかかる教室・M)
考えに考えぬいて浮かぶ言葉すべてを吐き出す。全身全霊を傾けて身も心もカラッポにすることで見えてくる本当の姿とはなんだろう。物事の真実を知り最後まで果たすまでは、苦行ともいえる試練を乗り越えなければ到達することも叶わないだろう。物理的な属性の引力が強い「弾」に負けじと、見えないものを必死になってたぐり寄せたMさん。遠く見えない虚にある世界から情報を掴み取った感触は、ここから本当の自分が始まるのだと気づいたようですね。尽くしたからこそ味わえる「爍金賞」を贈ります。


【星】新井和奈同朋衆
おかわりプレゼントも手渡した新井は、楽し気な音楽を奏でるように、作品から読み解いた方法を綴った。

昴賞:

[星筆](紫式部)(ここいら普門教室・S)
歌を使って暗示や例示、仮託や暗喩の語りも駆使し「もののあはれ」や「いろごのみ」を表現している『源氏物語』。松岡校長の千夜千冊では3部に分けて書かれています。

星の表す意味は、光り輝く美しい主人公の源氏という意味だけではなく、11世紀初頭に一人の女性が、前代未聞の真名仮名まじりの長編大作を書いたという、紫式部の功績を讃える意味も薫ります。ひらがなを使った平安時代の女性の活躍が光る、星の筆。

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源氏はわれわれのどこかにプロトタイピングされている物語でもあります。長らく「もののあはれ」や「いろごのみ」が主題だとされてきましたが、「面影」が複合離散していく物語でもありましょう。
1569夜『源氏物語』
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Sさんの[星筆](紫式部)は日本文学史に触れる機会をより増やしていきたいと思わせてくれる作品でした。昴賞を差し上げます。

「面影」というキーワードを携えて、さらに未知に向かって編集していきましょう。


【純粋】尾島可奈子同朋衆
「純粋」からシソーラスを広げた尾島は、作品と宮沢賢治の代表作をインタースコアしてみせた。賢治に肖り、注文も忘れない。

すきとおったほんとう賞:
[純粋円窓](雲間)(50gエンシオス教室・H)
私たちはなぜらしさがわかるのか。一種合成の作品に触れるとき、常にアタマに浮かぶ問いです。「おそらく『略図的原型』のようなものがはたらいているのである」とは、『知の編集術』の一節です。略図的原型、つまり「人間の知覚が経験的に積み上げたアタマの中にあるもの」を分かち合えばこそ、私たちは自然が偶然産ましめた雲の切れ間を「円窓のようだ」という必然に結びつけ、隣の人と近しい像をアタマの中で交換することができるのです。空を見上げるという何気ない、それでいて誰もがやっている行為に立ち止まり、古代、人々が頭上の星々に星座を見出したような意味の発見を、その悦びごと純粋の先に切り結んでくれたHさんの作品に、「すきとおったほんとう賞」を贈ります。


【発酵】渡辺恒久同朋衆
トリを飾った渡辺は、柿を使って実際に発酵を試み、虚と実を行き来しながら、作品全てをじっくり化学変化させ物語に仕立てた。

金遊賞:
[発酵快哉](でんぐり返し)(止観エンドース教室・Y)
味噌や糠などは、元気な常在菌がいっぱい付いている子どもの手でかき混ぜるとより美味しくなるという。

もしかして私たちは、大人になると全体的に発酵力が弱まってしまいがちなのだろうか。

子どもたちを見ていると、まさに期待や希望や喜び、あるいは何かを愛する気持ちが、そのままエネルギー化し、ワクワク、ワクワクと、急速に膨らみ上がったと思いきや、いきなりスキップ、ジャンプ、でんぐり返しや側転という「運動」に変換される。

[発酵快哉](でんぐり返し)

誰もが覚えている、その感覚を最後に経験したのは、いつのことでしょうか?

気分の体現を妨げてしまったとき、発酵したがっている微生物たちは、どんな環境に置かれるのでしょうか。どんな気持ちになるのでしょうか?

大人になる、ということを、もしかして、ぼくら勘違いしていた?

 


 番匠の若林牧子が教室で交わされた感想と共に同朋衆の方法を手渡しながら講評を締めくくる。

四人の同朋衆のフィルターで全作品を俯瞰したら、作品たちの関係性も見えて、自分にはなかった見方にドキドキ胸が高鳴った方も多いはず。
嬉しさもちょっぴりの悔しさも、仲間とともに過ごした番ボーウィークだったからこそ味わうことができました。

同朋衆もみなさんと同じく「編集稽古」をしています。方法と型は、[守]編集稽古38題の中にあります。
もちろん、ここに辿り着くまでには、仮留めを繰り返し、七茶の法則や64編集技法を傍らに、相応の道のりを経ているのです。


学衆と師範代の相互編集により生まれた作品達は、同朋衆の編集によって別様の可能性を示す講評となる。同じ講評は二度とない。その期でのみ味わうことができる編集なのである。

 

 


■次は[守]の出番、第1回番ボースタート―50[守]
■番ボーで起こる相互編集―50[守]

 

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◆51[守]申し込み受付中
[守]基本コース(51期)
 2023年5月8日~8月20日
 https://es.isis.ne.jp/course/syu

  • 森本康裕

    編集的先達:宮本武蔵。エンジンがかかっているのか、いないのかわからない?趣味は部屋の整理で、こだわりは携帯メーカーを同じにすること?いや、見た目で侮るなかれ。瀬戸を超え続け、命がけの実利主義で休みなく編集道を走る。

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