かつて「大人マンガ」というジャンルがあった(詳しくは「マンガのスコア 園山俊二」参照)。この周辺には、ファインアートと踵を接する作家たちが数多く存在する。タイガー立石もその一人。1982年、工作舎から刊行された『虎の巻』は、まさしくオトナのためのマンガの最極北。いいお酒といっしょにちびちび味わいたい。
すぐに思いつくだけでも三度はある。松岡校長から発せられた思いがけない問いに、言葉が出てこない。めったにない校長との会話なのに、口ごもってしまう。第2回創守座にむけて、54[守]の指導陣(師範、師範代)に届いた映像を見ながら、アタマの片隅のざらざらしたものが蠢いた。
■一人ひとりの最高レベルを引きだす“問感応答返“
映像は、連塾でのゲストと対話を例に、松岡校長がイシス編集学校の指導陣に“問感応答返”をレクチャーしたものだ。2時間弱の映像のなかで、とりわけ注意を引くのが、五木寛之氏との対話のくだり。自殺者が年間3万人以上だった2010年当時を「見えない戦争・心の戦争状態」と表現したことを「五木寛之にしか言えない最高のエクリチュール」と絶賛した。15年以上深めてきた対話のすべてが結集したような五木氏の”答”だったようだ。
「師範代は、その人が持っているエクリチュールやテキストセンスの最高レベルを引き出す」。決然と語る校長のアドバイスは明快だ。「もっと”問”と”答”の間に”感”と”応”を入れること。”問”によって変化を起こしながら、答える側に変化を求めていくこと」。私たちが慣れ親しんでいる単なる“問答”、すなわち“Q(問い)”から“A(答え)”で済まさず、“Q”から“E(編集)”に向かえというわけだ。
「少年時代の読書体験は?」「選考委員を降りた理由は?」「36年間続けてきた新聞連載の手応えは?」。少し開いては閉じ、また少し開いては閉じる。二人の間に何かがやってくるのを確かめるように、校長が問いを重ねる。両親に隠れて本をめちゃくちゃ読み漁ったわたし、選考委員に落ち着いていられない短気なわたし、万年筆で原稿を書き続けるIT難民なわたし…。徐々に、五木氏の“たくさんのわたし”があらわれでる。ついに「見えない戦争・心の戦争状態」という表現が飛びだしたのだった。
■“感”を動かす方法、“感応”を起こす問い
2024年12月1日、創守座に集まった師範代たちに、54[守]師範の奥本英宏が問うた。「”感”を動かすとはどういうことか」「日常のコミュニケーションと”感応”をおこす問いの違いはなにか」。師範代たちの“感”が爆ぜ、互いに“応“しあって、場に”答“が積み重なる。
ウルフル弘法教室師範代の福地恵理のグループでは、レストランを地にして“感応”を捉えなおした。予約を受けるとき、人数と時刻くらいの情報しかやり取りしないのが普通だ。「何で予約をしたのか?」という問いを持つことが”感”を広げること。”感応”が進むと「客VS店員」という対峙関係が、食事を共に編集する協働関係に変わる。当初の想定を超える食事(“答”)が生まれる可能性が増える。「相手が問いに応じなくても、諦めてはいけない」と福地が加える。「一回のやりとりで負けない。五回くらい行きつ戻りつして、より良いところへ到達する。繰り返すことも必要」と校長の言葉を引いた。
■既知から未知へと向かう“問感応答返”
「松岡校長が使っていた“感”を動かす方法は15以上」。子ども時代のおさなごころを呼び覚ましたり、普遍的なことを軽く扱ってみたり、相手に高いレベルを迫ったり…、奥本が丁寧にリバースエンジニアリングする。知っていた“問感応答返“のまわりに、たくさんの未知の襞が潜んでいたことに、一同で気がついていく。”問感応答返“をさらに深めたい。場に新たな”問”が生まれでた。既知が揺らぎ、別な見方をつかむ。守稽古の醍醐味も、まさにこれだ。
「世の中の先達たちがどんなふうに“感応”してきたかを見ていくとよい。もちろん、校長のこともいくら盗んでもらっても構わない」と笑って校長がレクチャーを終えた。『謎床 思考が発酵する編集術』(ドミニク・チェン、松岡正剛著)、『日本問答』『江戸問答』『昭和問答』(田中優子、松岡正剛著)…。どこからどれだけ盗むかは、私たち次第。すぐに返せなかった言葉は、別の場に返していけばいい。
(写真/54[守]師範 中村裕美、文/54[守]番匠 阿曽祐子)
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