平和に飛び交うモンシロチョウも、地球史スケールでは、ほんの少し前に日本にやって来たばかりのパイオニアらしい。押さえきれない衝動に駆り立てられて彼方に旅立つ人たちの原型は、海をわたる蝶なのかもしれない。
55[守]で初めて師範を務めた内村放と青井隼人。2人の編集道に[守]学匠の鈴木康代と番匠・阿曽祐子が迫る連載「師範 The談」の2回目。「師範とは何なのか」――田中優子学長が投げかけた問いが、4人の対話を揺さぶる。師範が背負うものとは何か、生き生きした場をつくるには、そしてロールは人をどう変えるのか――。議論は、師範の本質へと迫っていく。
■師範って何なんですか?
阿曽 イシスとの出会いを教えてください。
内村 当時大学の研究職に在籍していたのですが、家庭の事情などで実家に戻る必要があり、時間が割とある状態だったんです。本も読む方だったんですけど、僕の場合は読んで終わり。3日後には内容を忘れているタイプだったんです。そんな時にたまたま破まで稽古した人に勧められました。
青井 私も、師範代を経験された方と偶然お会いする機会があって。初めてイシスの存在を知り、本楼でのエディットツアーにも参加したんです。ミメロギアをやって、なに、これ、めっちゃ面白いじゃんと思って、ハマってしまったんですよね。ただ入門したのは2年くらい後でした。
創守座の内村師範
内村 3月の感門之盟だったと思うのですが、田中優子学長が「師範って結局何なんですか」と質問されました。この問いに対しては、師範をどう言い換えるかを考えるといいと思います。青井師範どうですか。
青井 前回も言ったように師範代をした際、相部礼子師範の存在がすごく大きかったんです。師範が後ろで見てくれている、困ったときにいつでも出てきてくれる、相談したい時にそばにいてくれる。そう思える存在がいるだけで、師範代の振る舞いが変わってきます。師範がいるから、師範代がもっと自由に振る舞うことができるんじゃないかなって。田中優子学長の問いですけど、「触媒」という言葉を思いつきました。学衆と師範代の相互編集を何かの反応にたとえると、師範代の言葉が変わったり、学衆の言葉が引き出されたり、そういった反応が、師範がいることで促進されるんじゃないかな。
内村 「触媒」とも近いですが、師範は自身の「メディア」性を自覚する人だと思います。[破]ではメディア自体がメッセージになることを学びます。校長のメソッドを継ぐ「師範」というメディアを通じ、日常・社会情勢・世界知を記すことで、そこに新たなメッセージが生成していく。そんな表象に向かっていく人です。
阿曽 そういえば、エディストも師範が中心になって書いてますよね。
内村 そうなんです。今後は師範のそういった表象の連続が、校長を唯一神的に固定化せず、多彩な松岡正剛たちとして再生することに繋がる気もしています。
■アンダーシナリオで動かす
康代 師範代や学衆にとっての師範という面がひとつ。一方で創守座などイベントをしつらえ、コーナーを進行し、編集を語るなどのロールも師範です。並行して進めることがものすごく増えますよね。
内村 いや、想像以上に忙しかった。
康代 55[守]ではお題改編もしたんですよね。
青井 元々テキスト上でお題を考えるのが好きだったので、お題改編は前のめりでできた気がします。でも師範のイメージは全然足りていなかったと、ロールを振られるたびに痛感しました。創守座で師範らしく振る舞えたかというと反省ばかりです。今回も感門之盟で、まさか総合司会の大役が降ってくるとは想像もしなかった。司会がどういうロールで感門之盟がどういう場なのか、お題として考えるとどう向かえばいいのかイメージできるようになりますね。降ってくるものをすべてお題として捉えるという構えが、師範にはすごく重要になってきます。
紀平尚子師範と創守座を進行する青井師範
内村 「場を作る」とよく言われるじゃないですか。じゃあ、場って何だろう、さしかかりの場ってどう作るんだろうとよく考えます。校長がよく話していた生命モデルに基づいたような場を作るのがターゲットだと考えると難しい。型があるようでない。もちろん仕事とは全然違う。康代学匠はいつも場をどのようにつくられているのか、逆に聞いてみたいです。
康代 守は常にベースが揺れて動いている感じ。だから最初のシナリオだけでなく、アンダーシナリオをいくつか用意します。違う方向に向かったなと思うと、途中でもシナリオを変えていく。松岡校長の教えです。
阿曽 松岡校長はよく「予定調和にしない」とディレクションされていました。
康代 そう。あとは自分自身で何かをするというよりも、どうすれば人と場が生き生きするのか考えます。エディティング・キャラクターというか、師範それぞれのモデルに委ねるんです。あの師範のメッセージはここで生きそうとか、ここで突出してほしいとか。
阿曽 ロール・モデルに委ねるって大事ですね。師範にかぎらず、ロールを持つと日常にも影響しませんか。
青井 それはすごく感じます。うまく場が編集できていない時というのは、素の自分になってしまっている。師範とか何かのモデルを借りる、もどくことが効くんだろうなと感じることが多かった。コーナー進行を担当した創守座は、もっとうまくできたのにって何度も思い出して…感門之盟の司会で、あの時の残念を回収しに行くみたいなところもあります。それにしては大きすぎる場を与えられてしまったと思いますが(笑)、自分にとっての重大な編集契機と捉えて、存分に自己を再編集していきたいです。
康代 師範をやり続けていると、メッセージも変わってきますよね。やっぱり必ず話す場面があるから。
阿曽 先日、エディストを書くために創守座の映像を見返して、本当にびっくりしたんです。師範を初めてやった頃の自分と全然違うと思って。ロールは人を変えるのですね。
康代 ロールの力を借りると「たくさんのわたし」が現れるのでしょうね。反対に自分が最初に出る時って調子が悪いんだなと感じます。ロールがあれば常に借りで動ける。「借りぐらしのアリエッティ」でいかなきゃ。それは、「もどき」と「つもり」の状態でいられるってことなんですよね。
■次回予告 「師範 The談」最終回は、イシスの明日を見据える。[離]への挑戦、学びを止めない姿勢、そして松岡正剛校長の残したOSをどう受け継ぐか――。師範たちの対話は、継承と創造の学びへと広がる。14日公開予定。
アイキャッチ:阿久津健(55[守]師範)
写真:北條玲子(55[守]師範)
構成:景山和浩(55[守]師範)
※55[守]感門之盟はこちら。まだ間に合う!
■第89回感門之盟「遊撃ブックウェア」
■日時:2025年9月20日(土)13:00-19:00(予定)
■会場:豪徳寺イシス館 本楼(https://es.isis.ne.jp/access/)
■費用:4,400円(税込)
■申込締切:2025年9月12日(金)
■申込先:https://shop.eel.co.jp/products/es_kanmom89
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コメント
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