俳句・根本対同・ミメロギア──56[守]創守座 用法3解説に寄せて

2025/12/03(水)21:47 img
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飛び込む水の音がしたときに、蛙の姿はもうそこにはなく、春の古池だけが残っている。

 

俳句とは、読み手のなかに「蛙」を鮮やかに想起させる「アブダクション」でできている。俳人でもある師範の一倉広美は、[守]の用法3と俳句を重ねて「俳句のカタチはBPT」と言い切った。その連想のベースにあるのは「季語」である。

 

* * * * *

 

俳句をアーキタイプにもつ対句の型「ミメロギア」の解説では、寺田寅彦の句「客観のコーヒー、主観の新酒かな」を引いた。コーヒーと新酒のらしさを相互に指差しながら、客観と主観をあれこれと論じることなく脈絡させる。

 

本楼の本棚劇場に立つ一倉師範。集まった師範代たちへ用法3と俳句を同時に手渡す

 

一倉は、新酒が「秋の季語」であることを強調する。そこには、秋の収穫の喜びや言祝ぎといった主観の情動があるのだ。いっぽう一倉は、コーヒーの側については多くを語らず、聴衆の「アブダクション」を期待する。これもまた俳句のカタチであろう。

 

師範代の杜本昌泰は、松岡校長と有島武郎の言葉を借りて、「ミメロギアの秘密は『深い矛盾』や『根本対同』にあるのではないか」と口にした。

 

なるほど、コーヒーは、ニュースを眺める朝の日課かもしれない。この仮説においては、客観の「朝」は、きっと主観の「秋」と根本対同する。まったく異なる時間の流れのなかで世に相対しながら、「世界を受け入れる態度」という意味でどこか繋がりあっている。

 

情報の構造(とその余白)によって、あたらしい見方を得られるのが、用法3だ。一倉の用法解説に誘われ飛び込んだのは、蛙か、あるいは私だろうか。

 

文・写真:イシス編集学校 師範 阿久津健
(56[守]創守座 用法3解説に寄せて)

  • 阿久津健

    編集的先達:島田雅彦。
    マクラメ編み、ペンタブレット、カメラ、麻雀、沖縄料理など、多趣味かつ独自の美意識をもつデザイナー師範。ZOOMでの自らの映り具合と演出も図抜けて美しい。大学時代に制作した8ミリ自主映画のタイトルは『本をプレゼントする』。

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