【BSE通信vol.5】BSEの新たな挑戦:「おまもり本」読書法@別典祭

2025/12/10(水)08:00 img
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 多読アレゴリア別典祭では、本楼2階に「本の相談室」が設えられた。二日間にわたり、既知から未知への相談員を務めたのはかつての松丸本舗ブックショップエディター(BSE)。その一人、小川玲子さんから、12月4日付で以下のエッセイが届けられた。

 

 

 「おすすめ本」ではなく「おまもり本」。新しいお題は、いつだってアタマの中の分けられていない部分にひびをいれてくれます。「別典祭での「本市」で並べる本をBSE として選び、その本を「おまもり本」として相談者に提供するという。ひとを守ってくれる本とは何なのか。神道や仏教の教えを知らなくても御札の力を信じることができるように、持っているだけで自分は守られているのだと思える本をどうやって選ぶのか。イベント前夜にまで及んだ挑戦の末に並んだ本たちは、ひとりひとりのBSE がその問いに向き合った時間を見事に具現化したものとなり、新たな「おまもり本」読書法の出来ともなりました。

 

 別典祭当日、「本市・本の相談室」で出会った人々は、それぞれに色々な形や大きさ、材質の鏡をその身のうちに持っていました。現場に居合わせるわたしの役目は、その鏡に反射する光をきらめきとして察知すること。ときに重力を持つ鏡に引き込まれそうになることもありましたが、そこはBSE、鏡に吸い込まれそうな光をアナロジーで掬い取ります。


 そうして相談者のためだけに選んだ本に「おまもり本」と書かれた帯を巻く。当日参加できなかった3人のBSE の願いも乗せ、相談者の先行きを祈りながら本を手渡すのです。本は早々に読んでもかまわないし、そのときがくるまで開かなくてもいい。どちらにしろ、それがその人にとっての「おまもり本」という読み方になるのです。

 

 いまわたしのバッグのなかには、毎年参詣する寒川神社のお守りが入っています。普段は思い出すことさえないのになぜか毎年新しいものを求めるのは、目に見えないもの、その力を心の奥底で受け入れているからでしょう。「おまもり本」にもまた、それだけの力が宿っています。

 

「おまもり本」の帯が巻かれて相談者へ本が手渡されました。帯(と下の「本の相談室」POP)デザインは野嶋真帆(終活読書★四門堂)。


 「読む」「読まない」が大事なのではなく、本を持つことに意味がある。本が持ち主にどのような行為を起こさせるのか、その関係性のなかに存在するのが「おまもり本」だからです。来年もまた、どうぞ新たな「おまもり本」を求めにいらしてください。BSEという存在に会いに来てください。「おまもり本」を携えておきたい、自分のための本に出会ってみたいという思いが、きっとそのための場を設えてくれることでしょう。

 

 

なんでもお題にするBSEたちも舌を巻いたのが、二日目に行われた「落札市」。初日から本の相談室は大賑わいで、めぼしい本がどんどん姿を消していく。このままでは二日目の本市はどうなる!? そう考えた八田英子律師が自宅でダブリ本となっていた『遊』3冊、『アートジャパネスク』1冊を気前よく持ち込んだのがきっかけである。

 

 

少しでも多くの方に、この<お宝>を目にしてほしい。そのためには、値段は欲しい人が決める「落册市」方式が最適だろう。売り手とレジが見交わす目と目。こうして、たった4冊の「落册市」が二日目・本市の花となった。

この時間を最高潮に盛り上げたのは、レジを預かった林朝恵・倶楽部撮家瞬姿。シャッターチャンスを逃さない瞬発力が、参加者に迷う隙を与えない。落册市とは数寄の突き当たりと思わせたのも、もう一つの顔である花目付ならではの風姿だった。

  • 大音美弥子

    編集的先達:パティ・スミス 「千夜千冊エディション」の校正から書店での棚づくり、読書会やワークショップまで、本シリーズの川上から川下までを一挙にになう千夜千冊エディション研究家。かつては伝説の書店「松丸本舗」の名物ブックショップエディター。読書の匠として松岡正剛から「冊匠」と呼ばれ、イシス編集学校の読書講座「多読ジム」を牽引する。遊刊エディストでは、ほぼ日刊のブックガイド「読めば、MIYAKO」、お悩み事に本で答える「千悩千冊」など連載中。