[破]の師範、55[守]の学衆となる

2025/10/07(火)14:05 img
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学長の姿に肖って

 

三度、[守]講座を受講した。

一度目は、はじめてイシスに入門した39期[守]。

二度目は、一念発起して[花伝所]を放伝した直後の49期[守]。

そして今期、54[破]師範とダブル・ロールでの55期[守]。

 

三度目の受講を決めたのは、今年のはじめ、1月25日に開かれた花伝敢談儀の「ようそこ先輩」に登壇したことがきっかけだった。花伝所の仕舞いのイベントである花伝敢談儀は、数ヶ月前には学衆だった面々が、8週間の錬を経て師範代としてのカマエを整える場だ。そこには、羽化したての蝶のように、手に入れた羽の重さに戸惑いながらも未知の空を見上げる放伝生たちの姿があった。その中に、田中優子学長も混ざっていた。

 

敢談儀の終盤、師範代スピーチの順番が回ってきた学長は、はにかんだような笑顔で言った。「師範代をやるというのもなんだか面白そう」。その一言に、場が湧いた。そして数週間後、その風は渦となって編集学校を揺らした。

 

「学長、55[守]師範代登板」

 

その知らせを聞いたとき、場を移り、場を遊び、場を動かす学長のカマエに、心が踊るのを感じた。[破]の師範として、54期[破]では松岡校長亡き後に入門した学衆を迎えようとしていた矢先だった。学長の風姿に肖りたい。自分ももう一度、学衆としてあちら側からの編集に臨んでみよう。ロールを動きながら編集を学んでみよう。そんな気持ちで「再受講割」のボタンを押した。

 

お題の読み替え可能性

 

松岡校長は『世界のほうがおもしろすぎた』の中で、千夜千冊執筆時の推敲を振り返りながら、以下のように述べている。

 

著者の側の立場からしても、どんなテキストも書き換えられる可能性がある、書き換えを待っている、ということです。だったら読む側も、つねに読み替え可能性のなかで本に向き合っていくべきだと思うんですね。

 

55[守]は、お題の読み替え可能性を発見していく旅だった。

 

出題日の朝、目覚めてiphoneを開くと、辻志穂師範代からお題が届いている。ベッドの中で眠い目をこすりながらブツブツと小さな声でお題を読みあげる。家事が一段落すると添付されている講義篇を開く。仕事の合間に、枝葉として広がる千夜千冊のリンクをクリックする。日常にお題を滑り込ませ、お題から広がる世界を探訪した。

 

たとえば004番〈「地と図」の運動会〉。情報を分母と分子に見立てるくだりにある「立場の違い」についての一文が目に留まる。そこで、教室仲間の回答を読む際にはそれぞれの立場の違いに目を向けてみよう、と思い立つ。講義篇には、地と図が世界に物語のヴァージョンを生み出してきた話が書いてある。それならば、いまこの教室で生まれている回答のヴァージョンも物語の片鱗と繋がっているかもしれない、と、さらに共読が楽しみになる。そして、[破]の講座のはじめにある140字で日常を描き出す稽古も、書き手それぞれの「地」を表象していることに気がつく。そこから千夜千冊に目を向ければ、物語編集術とつながりが深い歌舞伎の「世界定め」にたどり着き、[離]の講座で向き合ったシステム論をベースにした「見方の移動」が語られている・・・。

 

読めば読むだけ、読めば読むほど、お題の読解可能性が広がっていった。無論、004番だけではない。どのお題も、回答に向かうと地平線が果てしなく遠く感じられた。[守]の稽古が[破]の稽古の礎に、そして[離]への布石になっている。つまり、[守]の講座は、校長の仕事術である[破]や、世界読書奥義伝としての[離]を、校長が38題に読み替えた「方法の結晶」であるということだ。

 

昨年、松岡校長とのお別れ会として催された玄月惜影會で見た、校長の鉱石標本を思い出す。[守]の講座で手渡される38題は、編集工学という名の惑星が時間とともに結晶させた鉱石なのだ。その煌めく石たちをポケットに入れて、[守]の学衆は門を出遊する。そしてことあるごとに取り出しては、見つめ、並べ、磨いて、世界を読み解く鍵にしていく。

 

1014日から、55期[破]がはじまる。師範として迎える四度目の[破]。55期[守]を共に卒門し、決意を持って進破した仲間たちが手にした原石を磨いていく稽古を、肩を並べて見守っていきたい。

 


◎再受講したら何かが起こる!? 新・再とも受講生、募集中

第56期[守]基本コース

【稽古期間】2025年10月27日(月)~2026年2月8日(日)

申し込み・詳細はこちら(https://es.isis.ne.jp/course/syu)から。

  • 得原藍

    編集的先達:野尻抱影。師範代前から、未知のリアル編集コーチに挑戦。いまや師範をつとめながら、大学講師、理学療法士、公認心理師、地域で遊び場を出して子育てもする、片手で足りないポリロール。遊びと好奇心が大好物。