『情報の歴史21』がついに刊行された。一般発売は2021年4月15日。それに先立つこと2週間前、編集長吉村堅樹がイシス編集学校のリアルレクチャーの場第157回伝習座に登場。その編集方針を明かした。
▲左から講座リーダーの原田淳子([破]学匠)、クロニクル編集術講義を担当したを天野陽子(46[破]師範)、中身は白紙の束見本を手にする吉村堅樹(編集長)。背景の黒板には、旧版『情報の歴史』が掲げられている。
▲この伝習座に参加した46[破]師範代には、特別に2000年、2001年ページの印刷前データが配布された。
『情報の歴史』は、イシス学衆には「ジョーレキ」と呼ばれ、[破]では教材として使われるなど稽古の常識となっている書物である。この書籍は、100冊以上の年表を蔵書に抱える「年表フェティシズム」の松岡正剛が監修。1990年に初版が発行されると、世界に類をみない年表としてまたたくまに話題となった。
何がほかの年表とは違うのか。大きな特徴は8つほどあるが、そのひとつは年表に見出しがついていることである。ページを開くと、5本のトラックが五線譜のように走っている。それぞれが「世界政治動向」「経済・産業・金融」「科学・技術」「思想・社会・流行」「芸術・文芸・文化」に対応する項目が集約されているが、その冒頭には「相転移する経済」「増殖するセカイ」など数文字の大見出しがついている。トラックのなかを見れば、「ITバブル崩壊」「セカイ系」「アキバ メイド喫茶 アニメイト」など、その年を象徴する中見出し・小見出しが並んでいる。
この見出しがキモである。だれしも学生時代は、テスト前に教科書に蛍光マーカーを引き、付箋を貼ったことがあっただろう。この年表はすでにその加工がほどこされ、重要なところが一発でわかるカラフルでにぎやかな年表なのだ。
▲2020年にはどんなタイトルがついているのか。本書で確認されたい。
今回の増補版は、1996年から2020年を追加収録したもの。編集長吉村は、3月27日に行われた46[破]伝習座のなかで、これらのトラックタイトルの付け方を指導陣にレクチャーした。
そのひとつは、「Qちゃんだけでは物足りない」である。
2000年のスポーツニュースといえば、シドニーオリンピックである。瞬間最高視聴率は59.5%、はじけるようなガッツポーズでゴールテープを切った高橋尚子の姿はいまなお人々の記憶に鮮烈だ。しかし、だからといって見出しに「高橋尚子」とだけ書いてもつまらない。
実際のページを見てみれば、「Qちゃんとヤワラちゃん」と赤字で記されている。マラソンの高橋尚子とあわせて、柔道の田村亮子が並び立ったのだ。当時「最高でも金、最低でも金」の決意が新聞紙面を騒がせ、3度目にして悲願の金メダルを勝ち取った田村亮子だ。シドニー五輪の象徴としてこの女性アスリート2人を選び、さらにはともにあだ名で揃いをもたせ、このヘッドラインとなった。
固有名詞がひとつだと、見出しとしては弱い。けれど、2つ並べれば時代のモードになる。校長松岡正剛からも「3つ連打せよ、2つ並列せよ」とのディレクションが入ったという。1999年には「宇多田ヒカル・椎名林檎」が肩を並べ、2020年には「ネットフリックス・アマゾン・ズーム」がコロナ特需の枠内で競いあう。読者それぞれが、年表内にいるコンビやトリオからその時代性を聞き出してもらいたい。
▲2000年には「千夜千冊とイシス編集学校」の双子も。
どのように時代をうつしとるか、そしていかにして時代を読みとくか。年表の読み方・書き方は、一ヶ月をかけて[破]の「クロニクル編集」でみっちりと学ぶ。情歴21の編集にも、イシス編集学校で学んだメンバーの40名以上が、歴象の収集から分類、見出しの凝縮や配置などに尽力した。
松岡はいう。「年表を歩くことは時間の旅人になること」
『情報の歴史21』を読み、アルタミラから鬼滅の刃まで時空を旅せよ。かならずや時代が立体的に見えてくる。
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▲予約購入者の手元にはぞくぞくと届けられている。全508ページ、重さにして1kg超のド級年表だ。
写真:後藤由加里(学林堂)
梅澤奈央(本文、パッケージ)
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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