読み応えのある一冊を一枚の紙に図解する。数百ページをどう切り取り、絵にあるいは記号にして、配置するか。長い深い物語を要約するだけでも大変だが、ただ簡潔ならよいわけではない。連想を誘いたくさんの情報が取り出せる艶やかさもほしい。48[破]師範代が、この難しいお題に取り組んだ。
[破]の伝習座では、これまで毎期、師範、番匠、評匠、学匠がセイゴオ知文術の課題本10冊を解説してきた。石牟礼道子の『椿の海の記』、グレッグ・イーガンの『万物理論』、アゴタ・クリストフの『悪童日記』など、幾重にも魅力的な課題本について、持ち時間各4分にこれでもかと情報を詰め込み、この一冊への数寄を語った。その熱にあてられ、とにかく面白そうだ、指南は難しそうだけどなんとかなるんでは…と、師範代の気持ちはアガる。伝習座ラスト、トドメのプログラムだった。
今まではそうだったのだが、48[破]では、それを師範代にしてもらった。与えてもらうばかりが伝習ではないだろう。白川静によれば「習」は何事かに集中する呪能行為なのだ。仲間の師範代との共読・共有のために、自分が読書したものを、資料にまとめさらに図解する。感門之盟からわずか2週間。多くの師範代は[守]の教室のカギを閉めながら本を読み、要約してまとめ、著者、作品の描かれた背景などを調べた。
4月2日(土)の伝習座当日には、竹川智子師範の進行のもと、師範代が描いた図解を見ながら、北原ひでお評匠と中村まさとし評匠が問いを投げかける。
<アイキャッチに登場した阿部幸織師範代による『椿の海の記』図解>
北原評匠「『苦海浄土』との関係をどう考えますか?」
阿部師範代「読前には『苦海浄土』の著者・石牟礼道子の本を読むのだ、公害によって失われた世界を読むのだと思ったが…。みっちんの目を通して、道子さんが失わなかったものの見方、共感覚のようなものを感じた」
北原評匠「構成がよく整理された図解で、30年ごとに深掘りされている。このボヨンとした矢印の意味は?」
山本師範代「時代が変わり場面が変わる。行ったり来たりする、その感じをだしたかった」
北原評匠「フィクションとして書かざるを得なかったということをどう思ったか?」
山本師範代「参考文献が小説ではありえないほど多い。米原先生はものすごく調べて書いているが、それでもノンフィクションにするには情報が足りなかった…」
まさとし評匠「『万物理論』の世界観どうでした?」
岩橋師範代「ストーリーに関係ないことがたくさん。2055年がどういう社会になっているかで第1章まるまる…」
<大濱朋子師範代による『悪童日記』の図解>
大濵師範代「真実のみを書くぼくらのルールのなかで、わりきれない思いを描きたかった」
まさとし評匠「世にあまたある残酷悲惨を地としたときに、この物語が図として立ち上がるには? 立ち上がらせているのは何か?」
北原評匠「クリストフの自伝『文盲』を読むとよい」
図解&対話というスタイル、実は2021年10月~2022年3月の「Hyper-Editing Platform[AIDA]Season2」第3講をもどいている。あのDOMMUNEでのライブ配信があった自分史図解である。伝習座でその様子を少しだけ紹介した。
DOMMUNEで図解を披露し語ったまさとし評匠、2日間28人の座衆にツッコミつづけた吉村堅樹林頭は、すっかり味をしめ、このスタイルを[破]の稽古にもぜひ!! とお題化を目論見中である。過去47期にはなかった新たなお題の登場か? 乞うご期待!
48[破]伝習座では、師範たちが主(あるじ)として、いわばもてなしていたところを、一部、師範代に渡した。師範代は、情報を受け取る客であることから脱し、互いに主となり客となって、ともに伝習の場をつくったのだ。これはきっと教室でも起こる。[破]の稽古が加速進化してゆけば、主客が入り混じり、ときに入れ代わる。学衆のダンゼンな稽古ぶりに、師範代がダントツ編集されてしまう、そんな場面を目撃したい。
撮影:後藤由加里、野嶋真帆
原田淳子
編集的先達:若桑みどり。姿勢が良すぎる、筋が通りすぎている破二代目学匠。優雅な音楽や舞台には恋慕を、高貴な文章や言葉に敬意を。かつて仕事で世にでる新刊すべてに目を通していた言語明晰な編集目利き。
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